公開中
今日も明日も、君の隣で #1
「ほーの、はやくきなよ!!」
「たいが、はやいよ!!待ってー」
煌めく白の光。あたり一面の緑色。
「あっ、たいが!よつばのクローバーだよ!」
「へぇっ、どこどこ?」
「これっ!」
最後一枚の葉はとても小さく、四葉と言えるのかはあやしかったけど、それでも幼い2人には十分すぎるくらいのニュースだった。
「わっ、ほのすごい!」
「でしょ!よつばのクローバーにはね、」
————もらったひとをげんきに、しあわせにするちからがあるんだよ!!
「だから、これはたいがにあげるね!!」
「えっ、ありがとう!ほの大好き!!」
「へへっ」
————ジリジリジリッ
「うんっ……」
けたたましく鳴る目覚まし時計の音に、どんどん頭が覚醒していく。
「もう朝か……」
随分と昔の夢を見てしまった。
あの頃の私たちはもういないのに。
完全に目が覚めた私は、ベットから起き上がり、制服を手に取った。
「学校……行かなきゃ……」
細く絞り出した声は、ひどく掠れ、弱々しい響きとともに地面に消えてった。
「行ってきまーす!」
朝御飯をもそもそと食べ終え、いつものように憂鬱な気持ちで家のドアを開ける。もちろん、それを感じさせない声で挨拶しながら。
私が家の外に出た瞬間に、ちょうど隣の家のドアもガチャっと開いた。
「ほの、はよ。」
「…っ!…おはようっ…!」
…っ、最悪だ。よりによって朝から大河に会うなんて。
「……」
な、何!?
「…っ、じ、じゃあねっ!」
さっきからじっと見てくる大河の視線に耐えられなくて、私はさっ、と目を逸らした。
ダッシュで逃げようとした私の腕をパシッ、と掴んで、
「何逃げてんの。せっかく会ったんだから、一緒に行こう。」
いつもの眠たげな、でも少し訝しげな表情で口を開いたそいつ。
皇大河(すめらぎたいが)。
切れ長な瞳、漆黒でサラサラな髪、私とは30センチくらい違うんじゃないかってぐらいの高い身長の、女子にモテそうな、いわゆるイケメンなこの男子は、実は私の幼馴染だ。
「きゃー、皇くんじゃん!!」
「朝から会えるなんて冥福ー!!!!」
そして案の定、女子にモテる。
大河から誘ってきたくせに、特に話すこともなく、気まずい思いで学校へと歩く。
「ってかさ、隣にいるちっちゃい女子、誰?」
「なんか幼馴染らしいよ。ずるくない?」
「あの子、全然釣り合ってないよね。隣歩いてて恥ずかしくないのかなww」
そして案の定、陰口が聞こえる。
—————恥ずかしいに決まってるでしょ!!
そう言いたくなったけど、今の私の状況を考えれば、悪意を振りかざしてる人に意見するなんて、自分から火に飛び込むようなものだ。「仕方ないこと」。誰だってそう言う。
そのまま2人で昇降口に入った。
大河とは靴箱の場所が違うため、離れられたことに少しホッとした。
靴箱を開け、いつもの光景に苦笑いすら漏れてくる私。いろんなものが入れられてる中、私は器用に上履きだけを取り出した。
その時だった。
「ほの、どうしたの。行くよ。」
—————ガタンッ
背後で投げかけられた声に、気づけば私は扉を勢いよく閉めてしまっていた。
びっくりした。でも、反射的に扉を閉めた私を見た大河の方が、もっと驚いてる。
———大河にだけは絶対知られたくない。
その思いが、不自然な行動で恥ずかしい気持ちよりも勝ってしまった。
「……ご、ごめんねっ、私用事思い出したから、先行くねっ…!!」
「ちょっ、ほの…!」
大河が何か言ったけど、私は無視して走り出した。
やっと大河から見えない廊下に着き、しゃがみ込む。
———-「死ね」「ウザイ」「消えろ」
あの言葉たちが一瞬でも大河に見えたと思うと、気が気ではない。
————大河には絶対に知られたくない。
私がクラスで「いじめられてる」ということを。
一つのお話にすると長いので、シリーズにさせていただきました!