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廃工場のビスクドール〜番外編⑥〜
最終回ということでとても長いです!
時間のある時に読むのがおすすめです!
ライルとも別れ、またまた歩き出した一行。
次に辿り着いたのは静かな山の中でひっそりと佇む街だった。
そこはのどかで穏やかで、街というよりは村の方がしっくりくる。
シャルル:「ここは静かでいいな。」
メトリ:「本当…落ち着く。工場と少し似ているかも。」
リーヴァ:「居心地がいい…」
ヴィス:「廃村感がいいな。」
メトリ:「それって褒めてる…?」
猫:「にゃん」
そんなことを話しているとシャルルが急に立ち止まった。
リーヴァ:「…?どうしたんですかシャルルさ…」
シャルル:「あれは…!」
シャルルの目線の先を見ると、
???:「おぅい!シャルルぅ、久しいのぅ!」
知らない人形が歩いてこちらに近づいてきた。
老人のような喋り方をしているが見た目はリーヴァよりも幼く見える。
シャルル:「ジュール、なぜここに…」
ジュールと呼ばれた人形は当たり前だろうとでもいうふうに
ジュール:「ここはわしの家がある街じゃからな。いてもなんら不思議なことなどないわい。…街というか村か…それよりもわしはシャルルがここにいることの方が疑問なんじゃが。そして君たちは誰だ?」
ジュールが物珍しそうにリーヴァたちを見る。
リーヴァ:「あたしはリーヴァっていいます。少し遠くにある工場から来ました。」
メトリ:「メトリです!どうも!」
ヴィス:「ヴィスだ。」
ジュールは首を|傾《かし》げて
ジュール:「こりゃ驚いた!まさかわしたち以外にも動くことのできる人形がいたとはなぁ。」
メトリは聞きたくて耐えられなくなり相手が話し出す前に質問する。
メトリ:「ところで、二人はどんな関係なんですか?」
シャルル:「そうだな。いわゆる兄弟、みたいなものか。俺たちはベネットじいさんに作られた人形なんだ。」
ジュール:「他にも兄弟はおったんじゃが、なんせ人形は物であるからいずれ壊れてしまう。|今日《こんにち》まで残っているのはわしらぐらいじゃろう。」
ジュールがしんみりとした表情でいう。
リーヴァ:「兄弟がいたんですね!ちなみにどちらがお兄さんですか?」
シャルル:「俺だよ。」
シャルルは寄ってきた猫を軽くあしらいながらそう言う。
リーヴァ:「そうなんだぁ」
メトリ:「話し方はジュールさんの方が年上感あるけどね。」
そんなことを話していると、奥にあるこぢんまりとしたログハウスからおじいさんが現れた。
おじいさん:「ジュール、どうしたそんなところで…」
おじいさんはリーヴァたちを見ると目を見開いて驚愕した。
おじいさん:「こりゃたまげた!ジュール以外にも動く人形が…って、お前、シャルルじゃないか。」
おじいさんはシャルルをまじまじと見つめる。
おじいさん:「どうしてこんな|辺鄙《へんぴ》なところに…」
ことのあらましを説明する。
レーゼン:「なるほどな…あぁ申し遅れた。私の名はレーゼンだ。ベネット師匠の弟子だな。シャルルとは何年振りの再会だろうか。もう若い頃の面影もないだろう。」
レーゼンは笑って言う。その顔が少し X に似ていた。
シャルル:「いや、まだ面影はある。かろうじてわかったさ。」
積もる話もあるだろうが、どうしても聞きたいことがあったので
リーヴァは話の途中で割って入る。
リーヴァ:「あの!シャルルさんはレーゼンさんと面識が?ほら X が師匠はレーゼンさんだとかなんとか言っていたから。」
ヴィス:「そういえば、X がそんな名前を口にしていたな。」
レーゼンは X と読んでいることを知らないのでキョトンとする。
シャルル:「お前が弟子をとっているとは知らなかった。『弟子は取らない』が口癖だったと言うのに。」
シャルルがレーゼンに
レーゼン:「あぁ、X とは私の弟子のことか。あいつは私の息子なんだ。毎日毎日弟子にしろとうるさくて敵わなかった。だから仕方なく弟子に取った。」
人形一同:「えぇ!?」
リーヴァ:「レーゼンさんが X のお父さん?」
シャルル:「まさか…そうだったとは…」
メトリ:「驚愕の事実…」
ヴィス:「僕は薄々勘付いてはいたがな。」
ヴィスとジュール以外の人形は驚いてレーゼンをただ見つめることしかできなかった。
ヴィス:「ところで、シャルルさん。懐かしい人たちと再会したわけだが、これからどうする?」
シャルルはヴィスの問いを聞いて、少し考え込んだ。
シャルル:「そうだな。お前たちと旅を続けるのもいいが、俺はここで暮らすことにする。そろそろ体もガタがきているからな…この静かな田舎で余生を謳歌するとしよう。」
シャルルは穏やかな笑顔でリーヴァたちの方を振り返る。
シャルル:「しかし、もうだいぶ暗いからな。お前たちも外を出歩くと危険だろう。」
レーゼン:「そうだな。うちで夜を越してから出発するといい。」
3人:「ありがとうございます!」
---
翌朝。
メトリ:「シャルルさん…お別れなんですね…寂しい、けど元気に暮らしてください!」
ヴィス:「シャルルさんにはお礼をしてもしきれない。リーヴァのことも救ってもらったし。本当に感謝しています。」
リーヴァ:「シャルルさんのおかげで X のことも知ることができて、旅もとても楽しかったです!今まで本当にありがとうございました!」
シャルル:「あぁ、こちらこそ楽しい日々だったよ。…またな。」
ジュール:「いつでもまた遊びにきて良いからなぁ!待っとるぞ!」
レーゼン:「私ができなかったことをやり遂げてくれてありがとう。あいつに次あったら、このことを伝えておく。」
リーヴァ:「はい!またいつか!」
リーヴァたちは手を振って3人に別れを告げた。
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シャルルと別れ、少し歩いたところで分かれ道があった。
リーヴァ:「これ、どっちに進む?」
ヴィス:「そうだな…正直どちらでもいいが。」
するとメトリがどこからかウサギのような見た目のぬいぐるみを取り出した。
メトリ:「それでは、このぬいくんに決めてもらお〜!」
そう言ってメトリはぬいくんを分かれ道になっているところに立たせた。
ぬいくんは中のわたが潰れていてヘナヘナなので簡単に倒れてしまった。
メトリ:「ふむ。ぬいくんは右の道がいいと言っているようだ!」
そうしてメトリが右の道を指差す。
リーヴァ:「ありがとう!ぬいくん!」
ヴィス:「__ありが…とう…?__」
メトリ:「どういたしましてなのさ!」
メトリはぬいくんを抱き上げ、3人と一匹で右の道に進んで行った。
---
右の道は牧場につながっていた。
牛や馬、羊、豚、鶏などなど、たくさんの種類の生き物が柵の中で
呑気に草を|喰《は》んだりしていた。
リーヴァは楽しそうに周りを見渡す。
リーヴァ:「うわぁ!すごいよここ!動物がたくさんいる!」
そう言って二人の方を振り返ると
ヴィスとメトリは牧場の入り口近くで固まっていた。
リーヴァ:「二人ともー!どうしたのー?早くおいでよー!」
猫:「にゃー!」
遠くから呼びかけるも、二人は一向に動かない。
仕方がないのでリーヴァは入り口近くに戻って、二人に事情を聞く。
リーヴァ:「どうしてこないの?」
そう尋ねると
ヴィス:「哺乳類無理哺乳類無理哺乳類無理…」
メトリ:「牛やだ牛やだ牛やだ牛やだ牛やだ…」
二人とも呪文のようなものを言っているだけで言葉が通じない。
リーヴァ:「二人とも…もう一つの道に行こうか…」
こうして3人と一匹は先ほどの分かれ道に戻り、もう一方の道へと進んだ。
こっちの道は賑やかな街に続いていた。
路面電車と人が行き交っており、道沿いにはアンティークショップや
花屋、ダイナーなどが所狭しと並んでいる。
3人と一匹はえんじ色や黒い石畳の敷かれた道を歩きながら、街の様子に目を奪われる。
リーヴァ:「何あれ?」
リーヴァの目線の先には人を乗せた部屋を連結させた長いものがあった。
ヴィス:「あれは『電車』だな。大勢の人間を乗せて遠いところまで運ぶ乗り物だ。」
メトリ:「デンシャ?うわ〜…初めて見る…」
初めての電車に圧倒されていると、
???:「ぶ〜んぶ〜ん…」
どこからか子供の声が聞こえてきた。
ドン!
ヴィスはその子供に突き飛ばされて、石畳に倒れた。
そのひょうしに指が少し欠けてしまった。
リーヴァ・メトリ:「ヴィス!大丈夫!?」
ヴィスは欠けた指を見て少し動揺したようにも見えたが、
ヴィス:「大丈夫だ。」
安心させるようにそう言って上を見上げる。
ぶつかってきた少年は人形たちを見て口と目を大きく開けて驚いていた。
リーヴァ:「すごい顔…」
リーヴァは思わず吹き出しそうになる。
すると、少年の背後から中年くらいの女の人が現れた。
女性:「あら?どうしたのケビン。…そこにあるのは人形?…って、その子指が欠けているじゃない!急いで治さないと…」
女性は人形たちを持ち上げ、少年と一緒にどこかへ歩き出した。
リーヴァ・メトリ:「えぇ!?」
---
彼女に担ぎまれたところは工房のようなところだった。
工房の看板には『人形の病院』と書かれている。
女性は工房に入ると、リーヴァとメトリをソファの上に置いた後
ヴィスを木製の台の上に優しく置き、
何やらごちゃごちゃとした棚をさらにごちゃごちゃに掻き回し始めた。
リーヴァ:「一体何を…」
メトリ:「すごく怪しい…」
猫:「にゃ…」
一緒に連れてこられたリーヴァとメトリと
後からついてきた猫は疑いの目で女性の様子を観察する。
女性:「あった…!」
女性はそう言って、何かのチューブを持って、ヴィスの前に戻ってきた。
女性:「今、治してあげるからね…」
そう言ってチューブの蓋を開き、中身を紙の上に絞り出す。
人形たちは何をするのか興味深そうに見ていたが、
そのチューブの中身を見て流石に声を上げた。
メトリ:「何このグニョグニョ!」
リーヴァ:「おお…恐ろしい…!」
女性はその声を聞いて小さな叫び声を上げた。
女性:「ヒェッ!何!?人形が喋った!?…というか動いてる!?」
女性は思わず後退りしたひょうしに後ろの棚にぶつかり、
棚に載っていたものがバラバラと落ちてきた。
女性:「ヒェイアア!」
女性は慌てて棚のものを押さえる。
ヴィス:「落ち着きのない人間だな。」
メトリ:「…あはは。」
---
女性は棚に落ちた物をある程度戻し、ふぅ、と深呼吸する。
女性:「ところで、あなたたちは本当に人形?」
リーヴァ:「もちろん!」
リーヴァがはっきりと告げると、女性は困惑しながらも頷いた。
女性:「あの…彼を修理してもいいかしら?生きている人形なんて治したことないけど…私こう見えてここの工房長で、壊れた人形を直すのが仕事であり、生きがいでもあるの。」
女性は人形たちにお願いした。
人形一同:「ありがとうございます!」
---
数時間後…
応接室で待たされていたリーヴァ、メトリ、猫は茶菓子なるものを目の前に出されていた。
リーヴァ:「これは何?」
メトリ:「クッキ…?とか言っていたような?甘い香りがするね!」
猫:「にゃん」
猫が茶菓子に口をつけようとする。
女性:「ダメェー!」
さっきの女性が猫から茶菓子を取り上げる。
女性:「猫は食べられないから…!…あれ?人形も食べないか。私ったらうっかり…」
女性は一人でぶつぶつ言いながら、茶菓子を下げに行った。
その先でさっきの少年、ケビンが騒いでいる。
ケビン:「ジーンおばさん!そのクッキー僕にちょうだい!」
ジーン:「はいはい。わかったよ〜」
ジーンはケビンに茶菓子を渡すと、リーヴァたちのところに戻って言った。
ジーン:「さっきの人形さんの修理は終わり。あとは乾かすだけ。ところでみんなの名前を教えて欲しいんだけど…って、まずは私からよね!私はジーン。あの子はケビンと言って私の甥なの。」
リーヴァ:「あたしはリーヴァ。」
メトリ:「私はメトリ。この子は猫で名前はないのさ。さっきの仏頂面の人形はヴィスだよ。」
各々自己紹介を済ませるとヴィスが来た。
ヴィス:「またせたな。」
手元を見ると欠けた左手の中指は元の完全な指に戻っていた。
ジーンの技術に感心していると
ジーン:「ところで、あなたたちは何者なの?」
大まかに説明をするとジーンは
ジーン:「なるほどね。旅をしているんだ…いいね、そうゆうの憧れる!」
にっこりと笑って、しかし少し心配そうに
ジーン:「でも、目的地はないのね…いつまでもこうして旅をするわけにはいかないんじゃない?ほら、3人とも少しボロボロになっている箇所もあるみたいだし…」
ジーンは3人の姿を観察してそう言った。
確かにリーヴァたちの衣服は少しほつれ、陶器の肌にも汚れや微かな傷がついていた。
そしてジーンはハッと思いついたようにこう言った。
ジーン:「そうだ!うちで暮らさない?とりあえずの宿っていうことで!」
リーヴァたち人形は突然の提案に驚き、ジーンを見つめた。
リーヴァ:「そのお誘いは嬉しい!けど…」
メトリ:「迷惑じゃない…?私たちは生きてる人形だし…」
ヴィス:「それに猫もいるぞ。」
ジーンはにっこりと笑って
ジーン:「賑やかでとても楽しそうじゃない!」
ケビン:「え!なになに?そいつらここで暮らすの?やったー!」
リーヴァ:「まだ暮らすと決めたわけじゃ…」
ケビンは話を聞かずに喜びの舞を踊っている。
3人は思わず顔を見合わせて吹き出した。
メトリ:「あはは!ここで暮らすのも、まぁ…悪くないかもね!」
メトリは笑いながら賛成する。
ヴィス:「今まで人のもとで暮らすとか考えたことなかったが、この旅で少し考えが変わった。」
リーヴァ:「人と一緒に暮らすのも、工場で暮らすのと同じくらい素敵なことだよね。」
猫:「にゃ〜」
3人はふかふかなソファの上で笑いあう。
人形たちの物語はまだまだ終わらない。
番外編も意外と長くなりましたがここまで読んでいただき感謝です!
ここは矛盾している!とか細かい部分の質問とか、このシーンの裏側がみたい!とかありましたら送ってください!質問、要望、イラストのリクエスト大歓迎です!
改めて最後まで読んでいただきありがとうございました!