公開中
私の所為だね。
そう、淡々と告げられた。
「い、や…そういう、訳じゃ…」
「育て方を間違えたの。だから貴方は悪くない。」
そういう訳じゃない。
心の底から言いたいのに喉に突っかえて言葉は出てこない。
「っ…あ…」
「ごめんね。」
その一言が、重い蓋となって私の言葉をさらに深く押し込めた。
違う、そうじゃない。
育て方を間違えたなんて、そんな簡単な言葉で片づけられるものじゃないんだ。
もっと、もっと深いところで何かが決定的に違っていたんだ。
「あの……」
やっとの思いで絞り出した声は、震えていた。
もう私を見ていなかった。
窓の外の、夕焼けに染まる空をぼんやりと見つめている。
その横顔は、どこまでも静かで、まるで遠い世界の住人のようだった。
「もう、いいのよ。」
その言葉が、私の最後の抵抗を打ち砕いた。
ああ、そうか。もう、いいのか。
私の言葉なんて、届かないんだ。
届くはずなんて、なかったんだ。最初から。
心の中に、冷たいものがゆっくりと広がっていくのを感じた。
それは諦めにも似ていたけれど、もっと深く、もっと暗い感情だった。
今まで必死にしがみついていた何かが、音を立てて崩れ落ちていくような感覚。
「わかった…」
精一杯の声で、そう答えるのがやっとだった。
喉は乾ききって、まるで砂を噛んでいるようだった。
母親は、私の言葉に気づいたのか、ほんの少しだけこちらに視線を戻した。
その瞳には、憐れみのような、諦めのような、複雑な光が宿っていた。
「貴方は、貴方の人生を生きなさい。」
それは、解放の言葉のように聞こえたけれど、私にはまるで呪いのように響いた。
私の人生?そんなもの、最初からなかったじゃないか。
貴方が与えてくれた、歪んだレールの上を歩くことしか知らなかったのに。
「……はい。」
もう一度、そう答えるのが精一杯だった。
それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。
言葉は、とうに枯渇していた。
部屋には、沈黙だけが重くのしかかる。
夕焼けの色は、次第に濃さを増し、やがて深い藍色へと変わっていく。
その色の変化が、私と母親の間に流れる、決して埋めることのできない溝を、 際立たせているように感じた。
これから、私はどうすればいいのだろう。
どこへ行けばいいのだろう。
誰に頼ればいいのだろう。
そんな疑問ばかりが、頭の中で渦巻いていたけれど、口を開くことはできなかった。
ただ、静かに、母親の背中を見つめていることしかできなかった。
そして、その沈黙の中で、私は悟った。
ああ、これは終わりなんだ。
私と、この家と、そして何よりも、母親との繋がりが、完全に断たれてしまったんだ、と。
二度と、戻ることはできないのだと。