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第5話:さよなら三丁目、こんにちは眉間
三丁目庁舎の給湯室。いつもと変わらぬ麦茶の香り。だが、その日届いた1通の通知が、静かに空気を揺らした。
「スパイ課・三丁目は今月末をもって解散。新部署『眉間対策室』へ統合予定」
ユカリ:「眉間…?今度は額の真ん中を守るってこと?」
レン:「顔のパーツ、移動してない?」
ゼロは黙って段ボールの上に座っていた。スカーフは灰色のまま、何も知らせていない。
庁舎内のデータをすべて封印し、段ボール1箱にまとめる任務を与えられた松本部長。だが――彼は静かにこう言った。
「我々の任務は、箱には収まらん。三丁目には、記憶がある」
ユカリ:「部長…なんか、詩人になってません?」
その日の午後、レンは段ボールの裏に小さな穴を見つけた。 そこには、かつてゼロが隠していた“鼻センサー付き眉毛パッチ”が入っていた。
レン:「この三丁目、あったかくて好きだったな…仕事も眉毛だけだし」
ユカリ:「それ、褒めてるの?けなしてるの?」
ゼロ:「ワン」
部長:「眉毛も眉間も、どこかの誰かが守っている。その“どこか”を、我々はずっと背負ってきたのだ」
窓の外には、秋風と、ひらひら落ちる書類。誰が落としたかはわからないが、内容は「三丁目秘密任務報告書」。
ユカリ:「この報告書…“眉毛と人類の関係史”になってる…」
ついに庁舎を出る日。 松本部長は自らの段ボールに入り、「移転開始」と書かれた札をぶらさげる。
ゼロは背中に小さな箱を乗せ、ゆっくり庁舎を後にした。 レンとユカリは、庁舎の壁に小さなメモを貼って去った。
「眉毛、異常なし。三丁目、異常なし」
新しい部署――『眉間対策室』。 そこには、なぜか「麦茶製造機」が標準装備されていた。
ユカリ:「…まさか三丁目から転送した?」
レン:「三丁目は消えてない。眉間に移っただけだよ」
部長:「段ボールは、形を変えて、記憶を運ぶのだ」
ゼロ:「ワンッ」
次の任務は――「怒った眉間をなだめる対話術の開発」。 世界は、まだ守るべき表情であふれている。
「スパイ課・三丁目」は終わっても、彼らの小さな任務は、誰かの笑いを守りつづける。 たとえそれが、眉毛ひとつでも。
このシリーズはこれで終わりです!
みてくださりありがとうございました