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夏祭りの雪。
やべぇ、ぼーっとしてたら授業寝てたわ。
不動センセーの授業おもんねーし、いーよな別に。
とん、と和子の腕に俺の腕が当たった。
「あ...悪ぃ。」
「構わん。
...あ、そういえばコオリ君、今度町で花火大会があるらしい。今度礼くんと共にでも行ってみてはどうだ?」
花火大会...あぁ、あの母親がチケット配ってる奴...。
なんでわざわざ礼となんだよ。
あんなバカさまバカさま言ってくるヤツとなんてこっちから願い下げだ
にこにこの笑顔で見てくる和子をどうしようもない気持ちで隠し見る。
「む?どうした、コオリ君」
バレてんのか...っ。
「和子は誰かと行かねーのか?」
「え?わたしか?わたしはその日は家でまったり一ノ瀬吉乃先生の著作を読むつもりだからな。」
「...そうか。」
何がっかりしてんだよ俺!
隼士とはいかねーのか...ほーん。
そう思って俺はホッと息をつく。
ん?
まぁいいか。
「なぁ、花火.....」
「バカさま、あぶないですよ、そこ。」
は?
いつの間にかそこに礼がいて、ぼそりと言った。
振り返ると、...ナナシがこっちめがけて走ってきていた。
がしっと米俵をかつぐように和子を担ぎ上げ、家の屋根をダッと駆け抜ける。
「キャ、、、ヒェエエエエ!!!」
悲鳴を抑えている和子。耳が破れるわ。
「礼、なんでもっと早く言わなかったんだよ!?」
「僕だって気づかなかったんですよ。バカさまと天照さんを見張っているわけにもいきませんし。勘弁してくれですよ。」
チッと吐き捨てる礼の耳が赤く染まっていた。
「礼、耳あけーぞ」
「は?え、あ、あぁ。さっきぶつけたとこです。気にしないでください」
ぶつけるって...なんでだよ、
「そそそんなこと言っている場合か、阿呆!!ナナシから逃げんか!」
鬼気迫る表情(もどき)で叫んでいる和子の目が必死で、その瞳に吸い込まれそうな気がした。
「もう大丈夫ですよ。撒けました。ところで天照さん、花火大会一緒に行きません?」
はぁあ!?
お前...っ
「は?どうしたんだ、あの狸原礼が...」
「ってバカさま言いたいんでしょう。僕が代弁してやりました。」
なっ....
頬が、顔が熱くなっていく。
なんだよ、俺頼んでねぇし...っ
「コオリきゅんは天照さんに結婚申し込んだほど天照さん大好きでちゅものねぇ~」
なんだこいつ腹立つな...
っていうか結婚申し込んでなんてねーわ!
「あぁ、あの雪ちゃん姿の時の...哀れな。コオリ君は知らないだろうがな......」
まさかあやめのまじないで縮んでた時に俺そんなこと言ってた...とかか!?!?
「コオリ君。私のことは気にせず、里たちと群がって...は無理か。隼士くんか礼くんとでも花火大会は行ってこい。私は平穏な日常を過ごしたいのだ。」
『なんでコイツと』「ですか!!」
礼と声が重なった。
「いいではないか。楽しんで来い。では、これにて御免!さらばだ。」
このチャンスを逃したら一生無い。そんな気がして和子の華奢な手首をつかむ
「ぬ?」
**「和子、俺と花火大会行かねーか。」**
まさかそんなことを言われると思っていなかったのか、和子は顔を赤銅色に染めて、目を見開く。
「...う、うむ。いいだろう...?」
ま、まじでっ?
殺気を感じ、後ろを振り向くと礼が仏像のような顔でこっちを見ていた。
「ぬ?礼くん、どうした。表情筋が死んでいるぞ。」
「あ、ほんとだ。礼ー?」
「...若さまに言われると不覚ですね。」
あぁん??なんだよ!
そういと礼はニッと笑って
「上さまに言って来ます。未来の跡継ぎとその嫁が花火大会行くって。」
「はぁっ?!ちょっ、礼?!俺は和子を、よっ、よ、...にするつもり何て無ぇからな!?」
そもそも付き合ってねーし!
「うむ。そうだ。私は狐屋家の者にはなれんしな。」
---
――花火大会当日
和子は綿あめをもって一口噛り付いている。
「ふわふわとしていて綿のようだな。ただ甘いだけではないか。これがうまいのか?」
「砂糖でできてるからそりゃ甘いだろ。...。」
うまそー...。
こんなこと和子に言ったらそうかそうかなんて言われそーだから言わねぇけどよ。
「そうだ、和子。ここ神社あるらしーぜ。」
「うむ。参拝しようではないか。」
綿あめはあれ以来和子は口につけていない。
二人でカツカツと境内の階段を上がる。
「コオリくん、もうそろそろ花火が...キャァ!」
「和子?」
後ろを見ると、和子が階段の下で倒れていた。
「ちょ、和子、起きろ。わこー?」
俺は階段を一足に飛んで、和子の近くに行く。
俺と和子の指先がつめたい。
「コオリく...。ちょっと…っあ…ッ痛…!」
和子!?
あの和子が、受け身もとれずに倒れるとか...。
花火大会でテンション上がってたのか?
「和子、動けるか?」
「無理....足、が…。」
これ、おかしくねぇか?
和子はいくら突然でも、何があってもピンピンしてたじゃねーか。
階段で考え込んでいると、ぶわぁ、と何か悪気のような、赤黒いモヤモヤとしたものが神社の境内から流れ出てきた。
「なんだコレ...っ。ウバワレの悪気か!?」
ウバワレの悪気は青白い。
それに比べて、今の悪気は赤黒い。
悪気にアテられている人もいねぇ。
いたって普通の夏祭りだな。
とりあえず、和子を動かさねーと、
「和子、痛いかもしんねーけど我慢しろよ」
そう言って和子を背負おうとしたとたん、和子がふっと消えた
「は?」
おかしいぞ、これ。
礼と上...母親に言わねぇと。
けど、この悪気を無視することはできねぇ。
もしも、ここにウバワレがいて、それが和子の好きな歴史人物だったりしたら...。
和子が悲しむだろ。
...和子を守るのは、俺だ。
「行くか。」
一歩、境内に向けて足を踏み出した。
---
ゴトリ、と音を立てて神サマが祀られている扉が開いた。
そこはより一層悪気が強かった。
ぴちゃっ
下を見ると、透明な水があった。
「なんだコレ?」
触ってもすり抜け、手につかない。
ザコ幽霊みたいなもんか?
水のことが気になったけれど、今は和子のほうが大事だ。
「おい!そこに隠れてる...なんか!出て来い!!!!」
気が付いたら、木造の天井が見えた。一瞬のことだった。
背中が痛い。
急に、息が苦しくなってきた。浅くなる呼吸。
**パキッ**
どこかから凍てついた音が聞こえてきた。
ぼーっと手を見ると、凍り付いていた。
...このまま、心も凍らせられたらよかった。
それなら____
__「和子のこと…、好きになることもなかったのに」__
って、何考えてんだ。和子は俺の友達だよ。
礼だろ、和子のこと好きなのは。
凍り付いていく指先をみつめながら、ちいさく息を吐く。
寒ぃ。感覚ももうほぼない。
「和子...。」
ぽつりと呟いた、救けの声。
暗い部屋に、ふいに一筋の光が差し込んだ。
「...くん!!」
頭がぼーっとして、呼ばれているのにそちらに顔を向けられない。
「生きることを放棄するな!!!」
ぱっと、急に頭が晴れ渡った。
「和子......?どうして...和子が...。」
「助けに来たのだ。階段から転げ落ちるから、呆れていたのだが...急に君の身体がフッと消えてな。境内から悪気が出ていたので見に来たのだ。そしたら案の定、倒れていた。」
お互いに話が食い違っている。俺は和子を助けにここに来た。
和子は、俺を助けにここにきた...?
意味わかんねぇ。
「俺は倒れてねー。倒れたのは和子だろ」
「なぬ?よもや、またほまれの時のように偽物が出ているのか?...あの時は権之助の仕業だったが。それか、雪舟さまの時のようにドッペルなのか?」
「あぁ?またあんなめんどくせぇことになるのか?」
「えぇぇい!私には無理だ!わからん!ウバワレもいないし、訳が分からない!」
ウバワレが...いない、
そうだ。今、ここにウバワレはいねぇ、
それなら...
「和子!!今ウバワレはいねぇんだよな!?」
「...?うむ。そうだが?」
「ついてこい、和子!」
俺はあの透明なよくわからない水のところに行った。
「なんだ、これ?」
「わかんねーけどよ、ほんのり悪気がすんだよ。これがウバワレかもしんねぇ。」
じっと水を見ていると、薄らぼんやりとした木目に目がいった。
「そういえば君、さっきまで凍てつかれていただろう。何があったのだ?」
「あ~...急に倒されて、気付いたらあーだった。あのまんまだったら死んでたな、俺」
和子が来てくれなきゃ、今頃トーシ?してた。
「水...氷...」
和子がブツブツ言っている。
「そういえば、私がここに来る途中、雪のようなものが降っていた。夏なのにおかしいと思ったのだ。」
夏なのに雪!?おかしくねーか!?
「まて!!わかったぞ!このウバワレの正体が!!」
俺はホイヨと消札を渡す。
水とか冷凍とかに関係ある歴史人物とかなのか?
消札を覗いて、びっくりした。
そこに書いてあったのは、
**「狐屋 雪」**
キツネヤ、ユキ。
誰だ、それ。
なんか聞いたことあるよーな...。
歴友カツドーで聞いたのか?
考えていると、和子が消札を渡してきた。
俺はうけとって、それを水に突っ込んだ!
その瞬間、頭がハッキリとした。
そうだ、俺の名前は狐屋 雪。
字はコオリ。
俺、雪っていう文字に反応しなかった...。
自分の名前がわからなくなる?
こえぇ。俺が俺みたいじゃない。
俺が消してきたウバワレも、こんな風に、怖かったのか... ?
つーか、なんで俺の名前が奪われてたんだ?
死んでねーのによ。
まぁ...とりあえず、
「和子が無事でよかった。」
そう言うと和子はムッと眉根を寄せた。
「...わたしは現代のラストサムライなんて言われてるんだぞ。おちおち死んでいたら名折れだ、」
そう言うと、和子は息をついてニッと笑った。
「ひと段落ついたし、帰るとするか..........雪ちゃん」
そう呼ばれた瞬間、胸がドキリと高鳴った。
これって、俺___________
__| 《和子のこと…好き、かも、》__
和子「な、なななななんだこのふしたらな小説は!私とコオリくんは友だ!恋愛感情などあのコンコン狐にあってたまるか!!」
作者「あははー。あ、読者さん、恋愛の女神さまのいたずらで偽物登場&ウバワレの定義ぶっ壊しましたってことで!よろしくねっ」
和子「なぬ?こやつが作者か。なんだ、めんつゆではないか。」
コオリ「トイレに流しとけよ、コイツ。」
作者「イヤァァアアア~~~~~!!!ヤメテー!!チョットー!!!」
ダバダバーー
作者「アァァァァァァァァァ..........。」
ちなみに解説をしておこう
水→雪→コオリ
(感情溶けてるコオリ)→(溶けてるコオリ)→(水)
2025.2.5 10:00 4210文字