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第六話:四神の集結
天帝からの勅命が下り、世界の運命は四柱の神々に託された。彼らは天帝の宮殿からそれぞれの神殿へ戻り、事態の収束に向けて動き出さねばならない。
グライアは、宮殿を後にする際、ゲネシスを一瞥した。彼の顔色は優れない。自分の行いが世界を危機に陥れていることを、彼自身も薄々感じ取っていたのだろう。しかし、グライアは私情を挟まない。今は柱神としての責務を全うする時だ。
「ゲネシス、後で妾の神殿に来い」
グライアは冷たく言い放ち、振り返ることもなく自分の神殿へと戻っていった。その言葉に込められた意味を、ゲネシスだけが理解していた。
「……はい」
ゲネシスは力なく応じた。
ゼフィールとシルフィアも、二人の間に流れる張り詰めた空気を察していた。
「ゼフィール様、グライア様、怒ってるのかな……」
とシルフィアが不安そうに呟く。
「怒っているだろうね。彼女の『理』と『仕事』に対する妨害行為なのだから」
ゼフィールは冷静に答えながらも、データ分析で見た破滅的な未来を思い出し、表情を曇らせる。
「自分たちも、できることを探さないと!」
シルフィアは持ち前の行動力で、ゼフィールと共に今後の対策を話し合うため、彼の神殿へと向かった。
--- 数分後 ---
北の神殿では、グライアがゲネシスを待っていた。霧が立ち込める神殿内は、いつも以上に冷え込んでいるように感じられた。
やがて、ゲネシスが神殿に足を踏み入れる。グライアの「無言の圧力」は今日に限っては弱く、ゲネシスは難なく彼女の前に立つことができた。
「グライア、話というのは……」
ゲネシスが口を開こうとした瞬間、グライアは彼の顔面を思い切り殴りつけた。
「ぐふぅっ!」
鼻血を吹き出し、後ろに倒れ込むゲネシス。しかし、彼はすぐに笑顔で起き上がる。
「うわぁ!久しぶりに神力のこもったパンチ!愛の証拠だね、グライア!」
「うるさい変態」
グライアは冷たい視線を向けながらも、内心の動揺を隠せないでいた。彼はいつも通りだ。しかし、今回の問題は、いつもの痴話喧嘩とは次元が違う。
「なぜ、あそこまで世界の理を弄った?妾の仕事に泥を塗るだけでなく、世界を滅ぼしかけている」
グライアの口調は厳しかった。いつものお約束のやり取りではない、真剣な怒りがそこにはあった。
ゲネシスは鼻血を拭いながら、真面目な顔で答える。
「……ごめん。でも、すべての命には輝く権利がある。死の運命に抗いたいと願う命に、俺は『生』を与えたかったんだ。俺の理想なんだ」
彼の目は純粋で、悪意は微塵もなかった。しかし、その純粋さこそが、グライアの心を最も抉るものだった。
「その理想が、世界を滅ぼすというのなら――」
グライアは言葉を詰まらせた。愛する人を罰さねばならないという「理」と、彼の理想を理解したいという「情」が、彼女の心の中で衝突していた。
「――妾は、柱神としての責務を果たすまでだ」
グライアは冷徹な「冥府之神」の顔に戻り、目を伏せた。ゲネシスは、彼女のその表情を見て、自分の禁忌がどれほど重大なものであったかを、改めて思い知らされたのだった。
🔚