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さむがりのクリスマス
とく…とく…とく…。
とく…とく…とく…。
時計の針の音は絶えず鳴り、頑張ってずっと働き続けてるんだぞと言わんばかりに主張してくる。
次第に音がだんだん大きくなってきてる気がするけど、気のせいだろうか。
いつも通りの灰色の壁と薄暗い黄色の灯りは、冬休みに入ってもおんなじだ。
明日は、クリスマスイブである。…少し、何か期待してしまう僕がいる。
今更寂しがり屋になっても、父さんと母さんはうちに帰ってこない。
そして、サンタクロースも___。
いつも思い出すのは、父さんと母さんがいた最後のクリスマスの日。
あの頃はまだ8歳だった。父さんからはぬいぐるみを、母さんからはマフラーをもらった。
あれから2年、今もそれらはある。変わったところは、埃をかぶってすすけてきたことぐらい。
もう少しだけ素直になれたら…
僕はもう少し変われたのだろうか…?
クリスマスイブ。
すっかり冷え込んだ空気はすっかり部屋を満たして、僕の体から水分をじんわり奪ってくる。
ついにかさかさして、かゆくなって、暖かそうな赤色になった。
冬休みになっても何もすることがない。
友達なんているわけもないし、家族もいない。
そもそも生きるだけでも精一杯なのに、楽しむ余裕がない。
僕は一体なんなんだろ?
どうして、どうして…なんだろ?
思考を巡らせていると、いつものコンビニの前にやってきた。
定員さんはサンタの帽子をかぶっていて、だけど店の中にいるお客さんたちは、みんな目もくれてなかった。
さっさと商品を手に取って、僕はそそくさと店を後にした。
弁当の味は、あんまりしなかった。
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いつものレンガの地面を歩いて、ふとデパートのショーケースを覗いた。
かっこいい人気のロボの横に、
Merry Christmasと書かれたポップ。
縁起がいい日なのにも関わらず、僕はどうしてかもどかしくなってくる。
子供連れとかカップルとかがデパートへとどんどん入っていくのを見て、僕はどうしてか怖くなって、その場を後にすることにした。
気づいたらうちにいた。
あんなにめっぽう怖くなるほどになるとは思わなかったし、そんな自分に僕は切り傷のひとつでも付けてやろうかとも考えてしまった。
クリスマスは、どんなイベントだったか。
そもそも____。過ごすことすら、ままならなかった。
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小さなブランケットを膝にかけ、ついでに布団も背中にかけ…。
お湯は沸かせないので、自販機で買ったアツアツのコーヒーを冷ましながらテレビを見た。
クリスマス特集とやらで、いろいろなものが紹介されたり、芸人の人が面白おかしくやり取りしたりしていた。
「たのしそうでいいなぁ。僕も、こんなことできたらな。ね?母さん…。」
がらんとした部屋。使われるのが少なくなった椅子と机。
掃除が面倒になって、いつしか綺麗だったこの場所は薄汚い埃の棲家と化していた。
今日ぐらい、掃除しておけばよかったと、少し後悔する。
だって…サンタがやってくるかもしれないから。
朝。クリスマスだ。
昨日ベッドの横にはほったらかしていたぬいぐるみを埃を取り払って置いておいた。
ついでにマフラーも埃を払って畳んで置いた。
部屋の中はいつもどうりで、トクベツなことはなーんにもなかった。
ただの平日なんだよ。
きっと、これからも、ずぅーっと。
…ずぅーっと…?