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素敵な日常をお届け
「憂鬱だ。」
|羽純《はずむ》はつぶやいた。いつもの日常に退屈を感じているのだった。
そう、羽純は非日常というものを、いつしか求めていた。自分が過ごしている日々は退屈としか感じない。平和な日常だけじゃつまらない。彼の思考はいつも刺激を求めるそのものだった。
「ゲームでもやるか。」そんな非日常は、ゲームで味わう、これが羽純の日常。ただ、最近の悩み事は母親にゲームのやりすぎでゲームを取られようとしてること。それはもう辛いことであった。
「羽純!ゲームやりすぎよ!もうやめて、もう9時でしょ?早く学校の準備しなさい!明日学校よ?」
彼にとっても難問はこれであった。「はいはいはい!わかりました!やりますよ!やればいいんだろ?」
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「おはよう!」「おはよう、朝倉くん」「あ、氷室さんおはよう」
彼の野望はもう一つあった。それは、氷室綾香の彼氏になること。氷室綾香は、クラス1の美女で、優しくて明るく、文武両道、気配りも上手なモテ女子。1日に何人からも告白されてるとか。
そんな噂が流れるほどの人気女子にこんなゲームオタクで、地味で頭もあまり良くない羽純では当然のこと叶わない恋であるだろう。彼は、そんな氷室が彼女になることさえ非日常に思うほど。
「朝倉くん、きのう『クロノス・バウンド・オンライン』やってた?」「へ?なんでわかるんだよ、」「いや、ユーザーネームからしてそうかなって思ってたの。あのゲームのバグに落ちたりした?」「落ちてねー」「ならいいよ、バグに落ちたりしないように気をつけて。大変なことになるから」
氷室綾香は、何かを忠告したように、聞いてきたが、羽純はそれをあまりそう言った目で受け止めようとしなかった。
(氷室さん、今日も綺麗だったな〜。早く俺も付き合いたいけど、、夢でしかねー)
放課後
「気をつけろって言われてもな」
羽純は、綾香の後ろ姿を見送りながら、独りごちた。彼女の言葉はいつも少し変わっていて、まるでゲームの世界の忠告みたいだ。学校指定の靴に履き替えながら、昨晩のゲームを思い返す。
確かに、昨日アップデートされたばかりのその最新VRMMOゲーム『クロノス・バウンド・オンライン』には、いくつかの奇妙な都市伝説が囁かれていた。特定の条件を満たすと、ゲーム内の隠しエリアに飛ばされるとか、最悪の場合はアカウントが永久凍結されるバグがあるとか。
(俺はメインストーリーしかやってねーし、大丈夫だろ)
羽純は、軽い気持ちでその忠告を流した。しかし、彼の退屈な日常が終わりを告げる瞬間は、すぐそこまで来ていたのだ。
放課後。羽純はまっすぐ帰宅し、自室のドアを閉めるなり、母親の目を盗んで隠していたヘッドセットを取り出した。
「さてと、非日常の時間だ」
いつものようにヘッドセットを装着し、ログインプロセスを開始する。美しいオープニングムービーが流れ、キャラクター選択画面が表示される。彼は自分のアバターを選択し、広大なファンタジー世界へとダイブした。
「よし、今日は新しいダンジョンに挑戦するか」
彼はゲームパッドを握りしめ、マップの未踏エリアを目指して走り出した。途中、モンスターとの戦闘をこなし、順調に進んでいた、その時だった。
突然、視界がノイズで覆われた。まるで古いテレビの砂嵐のようなザッピング音が耳をつんざく。
「なんだ、バグか?」
羽純は慌ててログアウトボタンを探すが、インターフェースが消えている。画面には赤いエラーコードが点滅し始めた。
[CRITICAL_ERROR: VOID_ZONE_DETECTED]
[ATTEMPTING_TO_STABILIZE_REALITY]
[LOGGING_OUT_FAILED]
「おいおい、マジかよ!」
羽純の焦りが頂点に達した瞬間、足元に巨大な黒い渦巻きが出現した。それはゲーム内のエフェクトではなく、システムそのものの異常を示しているようだった。彼は渦に吸い込まれ、真っ逆さまに落下していく。
意識が遠のく中、脳裏に綾香の顔が浮かんだ。
「バグに落ちたりしないように気をつけて。大変なことになるから」
あの時の彼女の真剣な眼差しは、予言だったのか。
気がつくと、羽純は見知らぬ場所に立っていた。石造りの冷たい床、周囲は深い森に囲まれている。先ほどまで操作していたゲームパッドは手になく、代わりに腰には見覚えのない錆びた剣が下がっている。そして、何よりも決定的な違いは、風の匂い、土の感触、肌を刺す冷たい空気だった。
「嘘だろ……ここは、本当にゲームの中なのか?」
これが彼が求めていた非日常だった。望み通り、彼はゲームの世界――『クロノス・バウンド・オンライン』の中へと文字通り「転移」してしまったのだ。そして、彼の目の前には、巨大なオークの群れが、彼を獲物として見定めていた。
「おい、冗談だろ……」
羽純は腰の錆びた剣を引き抜こうとしたが、まるで体の一部になったかのように抜けなかった。ただ、ゲームのチュートリアル通り、ステータス画面を開くことはできた。表示されたのは、初期装備、レベル1という無惨な現実だった。目の前のオークたちは、ゲーム序盤の雑魚モンスターのはずだが、レベル1の彼にとっては死刑宣告に等しい。
オークの群れが、低いうなり声を上げながら距離を詰めてくる。羽純は逃げようとしたが、足がすくんで動かない。
「くそっ、終わった……!」
目を瞑り、死を覚悟したその瞬間。
「そこっ!」
澄んだ声が響き渡り、羽純とオークの間に一筋の閃光が走った。オークの先頭にいた一匹が、光の軌跡を残して消滅する。
羽純が目を開けると、そこには見慣れた姿があった。白いローブを身につけ、銀色に輝く杖を構えている。
「ひ、氷室さん……?」
氷室綾香は、いつも学校で見せる穏やかな表情とは正反対の、鋭い眼差しでオークたちを睨みつけていた。彼女のアバターは、まるで伝説の魔法使いのように神々しいオーラを放っている。
「朝倉くん!ぼーっとしてないで、私の後ろに隠れて!」綾香が叫ぶ。「『フレイム・ランス』!」
彼女の杖の先端から炎の槍が次々と放たれ、オークたちは為す術もなく灰燼に帰していく。圧倒的な戦力差だった。一瞬のうちに、あれほど羽純を恐怖させたオークの群れは掃討された。
「な、なんで氷室さんがここに……?」羽純は動揺しながら尋ねた。
綾香はふぅ、と息をつき、杖を下ろした。いつもの優しい笑顔に戻り、こちらを向く。
「前に言ったでしょ?『バグに落ちたりしないように気をつけて』って。私、このゲームのベータテストから参加してたから、この転移バグのことは知ってたの」
「ベータテスト……?」
「ログアウトできなくなったプレイヤーは、この『始まりの森』に飛ばされるの。そして、一定時間保護されないと、本当に意識不明になってしまう危険なバグよ。私が様子を見に来て正解だった」
綾香は歩み寄り、羽純の肩に手を置いた。
「とりあえず、ここは危険だから安全な街まで行きましょう。あなたはまだレベル1でしょ」
綾香は頼もしいリーダーの風格で、羽純を導き始めた。羽純は、彼女が学校でひそかに「姫」と呼ばれている理由を、今なら心底理解できた。この世界での彼女は、まさしく戦場の姫君だった。
道中、綾香は手際よく周囲の安全を確保し、羽純にこの世界のルールを教えてくれた。なぜか彼女は最初から羽純のユーザーネームを知っていたし、彼の地味な日常とはかけ離れた、プロフェッショナルなゲーマーとしての知識を惜しみなく披露した。
「すごいな、氷室さん……」
「ここでは綾香でいいよ、羽純くん。私たちは今、同じ世界でサバイバルしてる仲間でしょ?」
「あ、ああ、綾香……」
綾香の気さくな態度に、羽純は頬を赤らめた。クラスで憧れの的だった彼女と、二人きりで、しかも異世界で冒険している。これ以上の非日常はない。
「街に着いたら、まずあなたの装備を整えないとね。私がお金出してあげる」
「え、いいよ、悪いし!」
「気にしないで。私を助けてくれたお礼みたいなものだから。それに、この世界で頼れるのはもうお互いしかいないんだから、遠慮はなし」
その日から、二人の非日常的な共同生活が始まった。学校では決して交わることのなかったゲームオタクの地味な羽純と、クラスの美女である綾香は、この理不尽な世界で生き残るため、最高の「親友」として手を取り合うことになった。
羽純は、彼女の隣で、退屈だった日常が色づき始めるのを感じていた。
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これが、氷室綾香
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んで、これが朝倉羽純
りょーほー、、色々見つけたの使った