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ウマ娘〜オンリーワン〜 08R
08R「決戦の舞台」
私の次走は、青葉賞に決まった。
トレーナーさん曰く、優先出走権を獲得できるのは、1着になったウマ娘のみだと言う。
もう勝つしかないんだ。時間はあまりない。本番は明後日に迫ってきた。
牧村「―――タイム2分25秒!また自己記録更新だ!」
私は、走るのを止め、トレーナーさんの元へ駆け寄る。
アルノ「やったー!」
牧村「青葉賞、これなら勝てそうだな!」
アルノ「はい!」
牧村「………よし、今日もたくさん走ったし、今日のトレーニングは、終わりにしよう。」
アルノ「えっ……!もっと……せめてあと1本くらいは………」
私は、まだ走り足りない感じがしていたのだ。
牧村「ダメだっ!皐月賞で勝ちたいと頑張りすぎて、体調崩して皐月賞に出走できなくなったのは、どこのどいつだーっ?」
トレセン学園の|アルノ《私》です………
アルノ「わ、分かりました………」
牧村「なにも、完璧を求めなくてもいい。あんまり自分自身を追い込みすぎると、自分自身が辛いことになってしまうからな。俺も今回の件で反省した。ずっと、アルノが頑張りすぎているのに、止めなかった。だから、アルノの夢を壊すことになってしまった。でも、これからは気を付ける。アルノの為にも、アルノがこれ以上頑張るなら、俺も容赦なく制限させてもらうからな。」
アルノ「はい。分かりました!それでは、今日のところは、ここで。お疲れ様です!」
牧村「ああ!お疲れ。」
そして、また一日、また一日と、時間が過ぎて行く。
そして、あっと言う間に青葉賞がやって来た。
〈レース当日・東京レース場〉
実況「さあ、雨の中、東京レース場は、GⅠレースが開催されないにも関わらず、今日も多くの観客が押し寄せております。」
青葉賞当日。まず、不吉なことが起きた。
雨になってしまったのだ。
そう。私は、雨の芝が嫌いだ。ぬかるんでいて、滑ると思うと、怖くてあまり本気で走ることが出来ないからだ。
本当に不吉だ。今までずっとレースは晴ればかりだったのに………
実況「本日のメインレースは、青葉賞。日本ダービーのトライアルです。それでは、人気のウマ娘を紹介します。まずは圧倒的1番人気、5番・エキサイトアワー。オープン戦である若駒ステークスでは2着。そして前走の2勝クラスで3勝目をあげ、今勢いをつけています。重賞は初挑戦です。そして2番人気は、6番・アルノオンリーワン。皐月賞は残念ながら体調不良で回避してしまいましたが、およそ2週間後のこの舞台で再び強さを知らしめられるか。リステッド競走を2勝しております。しかし、重賞ではあまり良い結果は残せていません。さあ、果たして今回はどうか。次に3番人気です。11番・グロウサマーアイズ。京都ジュニアステークスでハナ差の2着。毎日杯では5着。そして前走の1勝クラスは2バ身差の圧勝。期待が寄せられております。」
「――――なるほど、三強対決ねぇ。どのウマ娘も強そうだ。」
「――――さあ、ここはひとまず彼女たちの実力を見せてもらおう………」
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いよいよ、ゲート入りだ。雨も少しは止み、小雨程度になってきた。芝はまだ重だけど。
人数は12人。この間観た皐月賞よりはるかに少なかった。
でも、日本ダービーの|優先出走権《チケット》を獲得できるのは、ただ一人。
私が、その一人になってみせる!
実況「―――体制が整いました。青葉賞―――」
「ガシャン!」
実況「スタートしました!さあ、先頭はアルノオンリーワン!早くもリードを広げ、4バ身、5バ身と差を離します。1番人気、5番のエキサイトアワーは3番手の位置です。そして最後方は3番人気・グロウサマーアイズ。先頭から最後方まで14バ身ほどあります。――――先頭はまだ6番・アルノオンリーワンです。なんと、10バ身差!そして、1000m通過は、かなりのハイペース!」
長い。私が今まで走ってた距離よりだいぶ長い。
それもそのはず、2400mは、私がこれまで走ってきた距離の中で1番最長なのだ。
体力はある方なので、そこまで気にはしないが、やはりとても長く感じる。私がよく走っていた2000mはここで半分なのに、あと3分の2くらいの距離がある。
それに、今回は走る向きも違う。
今回は左回りコース。
私はほとんどのレースを右回りコースで走っていた。
もちろん、左回りコースのトレーニングもしたが、やはり慣れない。
そして、トレーナーさんが教えてくれた情報によると、東京レース場の芝2400メートルは、直線が長いという。少なくとも私が走っていたレースの直線距離のプラス200mくらいなのだと………
私の体力が持つかちょっと心配だ。
実況「さあ間もなく第4コーナーに差し掛かります。アルノオンリーワン、リード10バ身!さあ、他のウマ娘は追い付けるのか!そして、第4コーナーをカーブし、直線!さあ、アルノオンリーワン、逃げ切れるのか!リードはまだ10バ身です!エキサイトアワーはまだ集団の中!アルノオンリーワン、アルノオンリーワン先頭!残り200!」
誰の足音も聞こえない。体力もちゃんとある。
勝てる………!勝てる!
実況「―――おっと、大外からグロウサマーアイズが伸びて来た!届くのか!物凄い末脚です!アルノオンリーワンとぐんぐん差を縮めていく!そして、なんと交わしたーっ!そのままゴーール!」
何が起きたか、分からなかった。
瞬きもしない間に、一気に後ろから来た。
あっという間だった。………こんなに、差を広げたのに……………
もう、二人とは戦えないのかな………
ダービーも、ダメだった。
いつも、あと一歩なのに、いつも手が届かない。
どうしてだろう。
あんなに、頑張ったのに…………
実況「タイムはなんと2分22秒05!レコードタイムです!―――――」
「――――ふうん。最後方からの追い込み一気。なかなかの末脚だ。しかし、僕はずっと先頭を走った彼女に才能を感じた。きっと僕と同じくらい強いウマ娘になるかもしれない!」
「――――そして、“僕”を超えることは出来るかな………?」
通行人A「―――あっ!あなたひょっとして……!!」
「あっ、ああ!そうだ!才能あるウマ娘はいないかと偵察に来ていてね。」
通行人A「明日の天皇賞、楽しみにしてます!頑張ってください!あっ、握手!」
「ああ、いいとも!」
通行人B「あ!私も!」
「俺も!」
「ボクも!」
「私もーっ!」
「わっ、わぁーっ!押さないで、一人ずつ!」
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アルノ「トレーナーさん………ごめんなさい!ダービー、出走はダメでした………本当に、あと少しだったのに……」
涙声で、私は話した。また、トレーナーさんをがっかりさせてしまった。
牧村「アルノ………まず、アルノに謝らなければいけないことがある。」
アルノ「………何ですか?謝りたいのはこっちの方なのに…」
牧村「……騙してすまなかった!」
アルノ「………へ?」
トレーナーさんの意外な言葉に、私は、悲しさも吹き飛ぶくらい驚いた。
牧村「……アルノ、落ち着いて聞いてくれ。実は……青葉賞の日本ダービーの優先出走権が与えられるのは、2着以内なんだ!」
私は、2着だ。
アルノ「………えっ!?…てことは………」
牧村「そうだ!アルノ!ダービー出走おめでとう!!」
アルノ「えっ……!?えと……」
状況が全く理解できない。
アルノ「ちょっ、ちょっとどういうことか説明してもらえますか?」
困惑と、嬉しさと、騙された腹立たしさで、私はとても複雑な心境だった。
牧村「いや………『2着以内』って言ったらアルノ、本気で打ち込めないんじゃないかと心配で………全然悪気はない!ゆ、許してくれ!」
トレーナーさんは、私に手を合わせ、頭を下げる。
アルノ「そっ、それは許しますけど……………でも、トレーナーさん。私は、きっとトレーナーさんが『2着以内』って言ったとしても、私は手なんか抜かないと思います。|ダービートライアル《ここ》で手なんか抜いてたら、二人に失礼だし、追い越せないと思います。私は、これで満足はしていません。やっぱり1着が良かった。でも、二人に挑戦する|優先出走権《チケット》は手に入れることが出来た。私は、まだまだこれから頑張らないとですね!」
牧村「アルノ………!!よし、一緒にダービー優勝目指そう!俺も、ここ10年はダービーに勝ててないから……!」
アルノ「はい!私、トレーナーさんを勝たせます!」
〈数日後〉
クリス「―――というわけで、アルノちゃん、ダービー出走おめでとーう!」
ユニバ「おめでとうございます………!!」
アルノ「ありがとう!二人とも。」
今は、お昼時。二人に誘われて、3人で一緒に食堂でお昼ご飯を食べている。
クリス「いやー、しかし、アルノちゃんは強いねーっ!リステッド2連勝の上に、重賞2着。凄いよ!」
アルノ「いや、二人はもっと凄いよ……そうだ、遅くなったけど、ユニバちゃん、皐月賞優勝おめでとう!」
ユニバ「あっ…ありがとう…!!」
アルノ「ごめんね。青葉賞出走でバタバタしてて、なかなか言うタイミングが無くて。クリスちゃんも2着、凄いよ!私は、GⅠで二桁着だったのに…………」
クリス「うーん、でもユニバちゃんには全然勝てないよ……それに、あたしは実を言うと2勝しかしてないから、アルノちゃんよりは弱いと思うよ。」
アルノ「なっ、何言ってるの!?私、ずっと二人が目標だったんだよ!きさらぎ賞で負けてから、ずっと……二人に勝つことだけを考えて、ここまで来た。………こんなところで、あれかもしれないけど…二人のきさらぎ賞の借り、ダービーで返すから!」
クリス「おっ!宣戦布告かー!じゃあ、あたしも!……あたしは、二人よりはずっと弱くて……日本ダービーに出られるのも、皐月賞でたまたま2着に食い込んで、優先出走権が貰えただけで………でも、あたしも頑張る!二人に勝つよ!……あと、これから二人のことは………アルノ!ユニバ!………って呼ぶから!」
ユニバ「わ………私だって負けてられません。ママが勝ったダービーの景色、私も見てみたい………三冠ウマ娘目指して、まずはダービーを勝って二冠ウマ娘になります!………それと、私もお二人のことは、これからアルノちゃん、クリスちゃんとよっ、呼んでもいいでしょうか………?」
クリス「もちろんだよ!」
アルノ「いいよっ!」
クリス「……でもさ、あたしたち数少ない同期で、今までだってあたしたちなりにお互いを支え合って来たじゃん?……でも、もうあたしたちライバルなんだね……」
アルノ「……そうだね。」
ユニバ「……はい………」
クリスちゃんの発した言葉に、私たちはただそう返すしかなかった。
沈黙が、私たちを包んだ。
ダービーは、刻一刻と迫ってくる。
私も、この間ほど過度なトレーニングはしていないが、ストイックな練習を続けた。
トレーナーさんが言うには、私の逃げのスタイルの場合、距離が長くなるほど大逃げでの2番手との距離も比例して長くなるだろうと言う。そして、勝てる確率も上がるという。
私は、それを信じて、精一杯走り続けた。
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プロミス「ダービー、あと2日ですねー!」
アルノ「うん!」
プロミス「私、応援してます!……実は、アルノ先輩が皐月賞や日本ダービーに向けて頑張ってるのを見て、私も新しい目標が出来ました!……日本ダービー……いや、クラシック三冠に出走することです!」
アルノ「おお!いいじゃん!」
プロミス「はい!……実は、もともとティアラ三冠路線に行こうと思ってたんです。……親からも、トレーナーさんからも、みんなからも、『その才能なら、ティアラ三冠取れる。』ってよく言われるんです。でも、アルノさんを見て思いました。才能じゃなくて、努力して取ってみよう……って!無謀かもしれないですけど、あわよくばクラシック三冠ウマ娘になりたいです!」
アルノ「プロミスちゃん……」
私の頑張りで、目標を持ってくれる人もいる。
その人の為に、私も―――――
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実況「さあ、今年も日本ダービーがやって参りました。世代の頂点を決める、年に一度の頂上決戦。さあ、まずは1番人気です。二冠達成に期待がかかります。13番・ユニバースライト。今年に入り、4連勝中の負け知らずです。
次に、2番人気です。4番・カナタサンセット。骨折で、残念ながら皐月賞には出走できませんでした。しかし、休養明け最初の初戦・京都新聞杯では、GⅠウマ娘の意地を見せつけ、3バ身差の快勝。こちらも期待が高まっております。
続く3番人気は、10番・ルナビクトリー。皐月賞は4着と惜敗しましたが、こちらもダービー制覇への期待が高まる一人です。あとは、4番人気、15番・グロウサマーアイズ。5番人気、11番・クリスタルビリー。6番人気、6番・アルノオンリーワンといった人気です。非常に大混戦となりそうな予感です。」
私は、思った。他の5人全員、私は負けている。
ルナビクトリーさんには、札幌ジュニアステークスで。
カナタサンセットさんには、ホープフルステークスで。
クリスちゃんとユニバちゃんには、きさらぎ賞で。
グロウサマーアイズさんには、青葉賞で。
でも、勝ったらその全員にリベンジを果たせる。
こんなチャンス、二度とない。
勝とう!私が世代の頂点に!
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実況「各ウマ娘、ゲート入りが進んでおります。最後に、18番・ライクユーがゲートに入ります。GⅠ初挑戦です。――――さあ、体制が整いました。日本一のウマ娘は、一体誰なのか!日本ダービー――――」
「ガシャン!」
実況「スタートです!……揃ったスタートになりました。さあまずは先行争い。やはりここは、6番アルノオンリーワンが制しました!現在もうすでに10バ身差です!これは凄い大逃げだ!1番人気のユニバースライトは、集団のやや後方。その前を行く2番人気のカナタサンセット。それに並ぶ3番人気のルナビクトリー。前走の青葉賞も追い込み一気で優勝しました、グロウサマーアイズはやはり最後方の位置につけました。そして、クリスタルビリーは6番手でしょうか。集団の前の方をキープしております。しかし、先頭はアルノオンリーワン!――なんということでしょう!ここで1000m通過タイム56秒03!これまでの日本ダービーで史上最速のタイムです!」
アルノ(体力はまだある……あとは、加速力の問題だ。)
クリス(―――やっぱり、アルノちゃんはすごい。でも、あたしも負けてられない!少しずつ加速して、最後の直線で一気にスパートをかければ……!!)
ユニバ(相手が誰だろうと関係ない。私は、勝つだけ。ママが空から見ているかもしれない。だから、こんな弱い自分は、みせたくない……!!)
カナタサンセット(皐月賞は、骨折して出走できなかった。でも、このメンバーの中でも、僕はGⅠを勝っている!勝って世代の代表ウマ娘の座に!)
ルナビクトリー(皐月賞は、調子が悪かっただけ。でも、ダービーだけは……!!)
グロウサマーアイズ(青葉賞を勝ったウマ娘で、日本ダービーを勝ったウマ娘は、誰一人いないという。でも、そんな常識、この私が打ち砕いてみせる!!)
実況「さあ、3、4コーナー中間。まもなく第4コーナー!アルノオンリーワンが一足先に第4コーナーをカーブしました!」
この|直線《525m》に全てを懸ける!!!
アルノ「はあああああ!!!」
クリス「うおおおおおっっ!!!」
ユニバ「やああああ!!」
実況「クリスタルビリー!そしてユニバースライトが抜け出した!果たして、届くのか!」
足音が近づいてくる。でも、負けない。
絶対に負けたくない!!
『俺も、ここ10年はダービーに勝ててないから……!』
『アルノさんを見て思いました。才能じゃなくて、努力して取ってみよう……って!』
『アルノは私の自慢の娘だよ!』
負けない!私が、皆の|憧れ《ゆめ》になれるなら!
もう何ヶ月も考えていたのは、2人に勝つことだけ。
今こそ、決戦の舞台なんだ。
実況「アルノオンリーワン、先頭!しかし外からユニバースライトが上がってくる!クリスタルビリーも負けじと追い詰める!後方からカナタサンセットも上がって来た!しかし、アルノオンリーワン粘る!粘る!ユニバースライトが徐々に差を詰める!この2人の叩き合いだ!両者一歩も譲りません!アルノオンリーワン、ユニバースライト、並んでゴーーールっ!しかし、ユニバースライトがわずかに差し返したかっ!?」
アルノ「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ………」
ユニバちゃんと、並んでゴールした。
実況の人は、わずかにユニバちゃんか、って言ってたけど……
でも、信じたくない。またこんなに手が届きそうだったのに……
実況「………おっと、結果がまだ確定していませんね……な、なんと、たった今、審議のランプが点灯しました!」
観客の歓声が、一気にザワつく。
スタンド前の掲示板の右上に、いつも「確定」と赤く光っているはずの場所が、今は、「審議」という青いランプに変わっていた。
しかし、何故審議のランプが点灯しているのかは、後で分かった。
つまり、その原因は、私にあったのだ―――
-To next 09R-
〜キャラ紹介07〜
ガーネットクイン(Garnet Quen)
誕生日…4月30日
身長…169cm
体重…増減なし
スリーサイズ…B89W57H85
とあるレースに勝つために全力をかけているウマ娘。先祖代々そのレースに負け続けているので自分が無念を晴らそうと必死に頑張る。大柄で他のウマ娘によく怖がられてしまうが、見た目に反して根は優しい。結構周りより常識人で、ツッコミ役にまわることもしばしば。
一人称・アタシ
毛色・栗毛
所属寮・栗東寮
イメージカラー・橙