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【第2話】めちゃくちゃ健全な雑談配信
ようやく昼休憩に入った俺は、自販機で買ってきたコーヒーを飲んだ。
少し咳き込みながらも、喉に流し込む。
そもそも、ブラックはそんなに好きではない。
だが目が冴えるから、眠気覚ましのようなものとして飲んでいる。
本当は砂糖をドバドバ入れて、ミルクだって大量に入れたい。
そういえば、今日も上司に理不尽に詰められた。
本当にムカつく。絶対に俺に非はない。
書類完成したあとに、急に重要事項を伝えられたせいで
間に合わなくなってしまっただけなのだ。
こっちは、やめようと思えばこんな会社いつでもやめられる。
俺が人員不足のこの会社に”いてやってる”立場だということを、
いつか分からせてやりたかった。
そんなとき、俺の耳にある若い社員たちの会話が聞こえてきた。
どうやら、配信者について話しているようだった。
「おれはやっぱミオミオが好きだな」
「わかる、ビジュ良すぎな」
ミオミオ、正式名称miomio-Chan。
彼女は登録者数が一億を超える、世界一の配信者。
ゲーム配信やテンポの良いトークから、男女共にファンが多い。
そして何より、顔がいい。
化粧品などの案件も来まくりで、テレビにゲスト出演することもある。
俺はそんな彼女を見たとき、こう思った。
...ぶっ潰したい。
俺がいつか追い越して、世界一になってやる。
「でも最近出てきた子も可愛いんだよな〜、やみかわ少女やくだっけ」
「ああ、あのネーミングセンス終わってる子」
「そうそう、初手の配信不穏だったけど、その後健全だし」
誰がネーミングセンス終わってる子だ!!
誰かと被るより100倍もマシだね!...と、強がる。
だが、一応知名度はあるようだ。
当然だ、たった数日で登録者数10万達成の大快挙。
いつか俺が世界一になる日も近い...
と、昼休憩が終わったようだ。
そうして俺は、地獄のお仕事後半戦へと移った...
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「こんばんは〜やっちゃんだよ!今日は健全な雑談配信で〜す」
《不健全なのもみせて》
《最初の路線で行ってほしかった》
《今日も顔がいい!》
まあ焦るなオタクども、と心のなかで制止を入れる。
まさか、ただの雑談で終わる気はない。
夏のこの時期、まさに世間は熱帯夜やら真夏の夜の淫夢やら
なんやらに苦しめられている。そこでだ。
怖い話をフルコースで聞かせてやろうという魂胆だ。
「そういえばね、わたしのお友達から聞いた怖い話してもいい?」
《お友達とかいたんだ》
《そのお友達実在する?》
「うんうん実在するよ〜...って、なんでわたしに友達がいることが
一番の怖い話になってるの!?」
だが、俺にまともな友達がいないのは事実だ。
なんとか即興で怖い話を創り上げるしかない。
「...お前らは、この先何年経っても自分が自分でいられると思う?」
《俺氏ずっとニートな模様》
《多分何年後かに保険金にされてると思う》
「なんか今コメントに保険金殺人されそうな人いなかった!?
...まあそれは置いといてだよ。わたしの友達、元は別人だったんだって。
朝起きたら、知らない天井が広がっていた。起き上がると、
明らかに自分の身体がいつもと違うことに気がついた。
私の友達は、花屋のおばあちゃんだったのに、朝起きたら
全く別人の女子高生の身体に入り込んでしまった人。
こんなの信じられない!って思うかもしれないけど、
たしかにその子、歳の割に落ち着いてるし所作も上品。
まさに、”おばあちゃん”っていう感じなの。
そして彼女が経営していた花屋は実在していたものの、
店主のおばあちゃんが失踪したことにより閉店...
わたしは本当に怖くて、しばらく印象に残ってた出来事。
今日急に思い出したから、話してみたよ」
話し終わり、自分のアカウント情報を見てみる。
今の時点で登録者は1万人増。
思ったより伸びなかったな...そう思った瞬間、背後で物音がする。
多分、寝室の方を走らせてるルンバがなにかに引っかかった音だ。
ちなみにこのルンバは、お試しかなんかやってる時に
モールでキャッチされ、半ば強引に渡されたものだ。
だが、その物音をオタクたちは放っておかなかった。
一気にコメント欄が賑わう。
《いま音しなかった?》
《やっちゃん気づいてー》
《やっぱ男いんのか》
これは使える、そう思った俺は
すかさず不安そうな表情を作り、こう言った。
「お前ら〜わたしのこと驚かそうとしてるんでしょ?
ちょっと見てくるから、配信切るね。ばいばーい」
そのまま配信をぶつ切りし、しばらく経ってから
つぶやきったーのやっちゃん垢でツイートを残す。
”やっちゃんです!今日は驚かせてごめんね〜
べつにやっちゃんの寝室に強盗が入ったとか、
幽霊がいたとかじゃないからね〜^^ノシ”
この一連の流れがウケたお陰で、登録者数が5万人増加。
ただウケただけではなく、スキャンダルの疑惑も出たおかげで
興味を持った冷やかし野郎からの登録が増えたのだ。
そいつらからの登録は、ただのまやかしの数字なのかもしれない。
だが俺は、今確実に波が来てる配信者だ。
《現在の登録者:15万人》