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絶対零度 #4
#4 「兄と真」
あの電話から少し‥4〜5分程たった頃だか。
カフェの外からドタドタ走る音が聞こえて来たと思えば、すぐにカフェの扉が勢いよく開いた。
「琴葉ぁ!彼氏とやらはどいつだぁ!!」
そう叫びながら。
は?彼氏?
「だから彼氏じゃないって言ってるでしょ‥」
「いや、じゃあ要件はなんなんだ!?」
「コイツ。」
「は?」
琴葉が俺のことを指さした。コイツ呼びすんな。
「コイツ、制服見たら分かるだろうけど青藍の新入生なの。だけど星蘭までの道がわからないらしくて‥連れてってやってくんない?」
「あー!彼氏じゃないのかぁ!なら良かったわ〜!」
「‥」
んだコイツ。
「えー‥お前、星蘭一年になんの?」
「‥だったらなんだよ。」
「いやいや、新入生が来るの楽しみだな〜と思っただけだ!」
「‥?お前、星蘭の奴なのか?」
「?あぁ、そうだけど?」
「‥強いのか?」
「まぁな?」
「ちょっと二人とも‥」
「へぇ‥強いのか。」
「強くなきゃ俺は星蘭にいないからな!舐めるんじゃないぞ?」
「‥なら、案内しろ。俺を星蘭とやらにな。」
「ちょっとアンタ生意気すぎ。一応物頼む相手なんだから少しくらい敬語使ったりさ‥」
「いやいや、愛しの琴葉よ。」
「誰が愛しのだ。私は愛してない。」
「寂しいなぁ〜!!」
「おいイチャコラすんな。」
「してないわ。兄妹でイチャコラとか有り得ない。」
「‥兄妹?」
「それは‥面倒だからあっちから聞いて。ほらほら行った行った!時間ヤバいよ!」
「おい、追い出すな!客だろ俺!!」
背中を扉の方まで押して追い出そうとしてくる。
俺客だよな?おかしくないか?
そんでもってもう一人は‥
「琴葉ってばツンデレだな〜!!」
駄目だ。頼りにならない。
「学校終わったらまたおいで!!」
バタン‥
閉められた。追い出されたぞ。‥時間ヤバいのは理解したが、遅刻してもいいだろ。
「さて!初日から遅刻は俺の顔に泥を塗る行為‥やめてくれよな?」
笑顔で圧をかけられるのはこれ程まで恐ろしい事なのか。流石に逆らう気にはならなかった。
まるで天使の皮を被った悪魔だな。
「‥」
「星蘭は商店街の入り口から反対のあっちにある。建物も〜‥頑張れば見えるんじゃないのか?」
「雑だな。」
「別にいいだろ。」
「‥お前、名前は?」
「ん?名前か?ん〜‥ま、秘密?」
「は?」
「やだよ〜どうせ後で名前分かるのに今言うの〜!」
「‥」
アホらし‥こいつも星蘭生なのかよ‥
「‥あ」
「?どうかしたか?」
「お前と琴葉って、兄妹なのか?」
「んー‥まぁ兄妹だな?」
「なんだその曖昧な返事。」
「兄妹だけど兄妹じゃないって言うか‥あ、血の繋がってない兄妹ってやつ!」
「両親が別って事か。」
「それそれ〜!俺は父さんが違うし、琴葉は母さんが違う。」
「‥なんか、聞いて悪かったな。」
「気にしなくていいぞ!血が繋がってなくても、俺達は兄妹だからな!」
「‥っそ。」
血が繋がってない兄妹、か。琴葉のあの拒絶はそれ故なのか照れ隠しなのか‥いや、どちらでもないか?
「あ‥すまない‥えー‥名前なんだっけ?」
「篠原真。」
「真か。‥すまないが学校まで案内できそうにない。」
「は?なんでだよ?」
「個人的な事情があってな。少し遅れる。」
「自分で自分の顔に泥を塗るのか?」
「いや、これは自分の威厳を保つ為の行動だ。」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ。突然何を言い出すかと思えば真面目に話しやがって。
「喧嘩か?」
「‥はぁ‥まぁそうだな。他校の奴等がちらっと見えた。多分星蘭生探してる。」
「だったら俺も行く。」
「いや、やめておけ。遅刻したら大変な事になるぞ。」
「行くっつったら行くんだよ。」
「来るな。お前がどれほど喧嘩が強いか知らないが、気を使うのが面倒だ。」
「‥」
んだよ面倒って‥あ”ーイライラする‥!!
「行くっつったら行くんだよ!連れてけ!!」
「お前いくつだよ!?本当に一年か!?」
「一年だよ悪かったな!」
ギャーギャー騒ぎ散らかす。名前も出身も学年も何も知らない目の前の人間と口論。中々におかしいな。
「だー!わかったわかった!じゃあ‥挟み撃ちにしよう!俺は右に行くからお前は前に進んでいけ!わかったな!?」
「おう、任せとけ。」
「んじゃ‥解散!!」
アイツは右へ、俺は前に突き進んでいく。桜並木を走り抜けて前へ前へと進んで行く。
だが一向に敵の姿は見えない。人もいない桜並木をただ走っているだけ。走るスピードを落として歩いて行く。‥やっぱり、
「敵がいねぇ‥?」
あるのは、目の前の落書きだらけの建物だけ。
学校らしき面影はあるが、それを学校と呼ぶには難しい。落書き落書き落書き落書き‥
校門の横にある板に何か文字が書いてある。掠れて読みにくいが、読めないほどじゃない。
【星蘭高校】
「‥は?」
待て待て待て。アイツは何処へ行った。俺は何故学校の前に?
‥アイツ、連れてく振りして学校に案内しやがったな。本当は連れてく気なんて初めから無かったってか?ふざけんじゃねぇ。次会ったら絶対ぜってぇぶっ殺す。
ここまで来てあいつを探し出すのは面倒だ。一つ舌打ちをしてから、敷地内へと足を踏み入れた。