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東方凶事裏 終。
〈〈side 暦 歴
暗めの茶髪、前髪をかきあげていて後髪はロング、すこしカーブしている毛先。
瞳は濃く深い色の青色。
目元と口に少しメイクをしていて、金色などのアクセサリーをつけた長身の女性だった。
「異変を解決するためだけにこんなところまで来たのか。お嬢ちゃん」
「何の目的でこんなことを…?」
怒っていた。自分でも分かるほど。
馴れ馴れしいそのセリフに、余裕のある表情。そして、沢山の人を不幸にしておいて何が悪いのか罪の自覚がない。
「まぁ……理由をつけるなら逆襲?下剋上?特に理由なんてないけどな」
「………は…?」
思わず溢れたそんな言葉。
「そんな理由で…?」
下剋上も逆襲も、くだらない理由でしかない。
そんな理由で、みんなを傷つけたこの人を私は許せない。
「みんながどんな思いしたか…わかってないのですか…?」
「人がどうとか、周りがどうとか…心底くだらないな」
駄目だ。この人は救えない。
あの子たちはあんなに不幸に陥ってしまったのに、なんでこの人はこんなに幸せなの。
「…許さないっ、絶対に。みんなを傷つけたこと____絶対に許さない!!時符・|時間的矛盾《タイムパラドックス》!!!!」
--- * ---
〈〈side 博麗 霊夢
「………」
落ち着いて、と何度も言ったのに彼女には聞こえていなかったみたいでスペルカードを発動して、そのスペルカードの条件で歴は倒れた。
気絶であり、死亡したわけじゃないからまだいいけれど……
「やっぱ私は運が良い」
何処かに消えていたこいつがいつの間にか戻ってきた事が問題である。
「私はプセーマ、プセマって呼んでくれても構わない」
何を考えているか分からぬ表情、掴みどころがなくて気持ちが悪い。それに加え、皮肉が多い。
「結構いい性格してるわね。異変の主犯格ってのはどいつもこいつも……」
私もそんなことを言えるわけではないが、そう言葉をプセーマにかけた。
「あんたがそんなセリフを?よく言ったもんだ」
返ってきたセリフは予想できたものであるが、無性に腹が立った。
「ほんと、どいつもこいつも……」
「話してても意味がないだろ?さっさっとやろうぜ」
私がそう言葉を漏らしている間に、妹紅が後ろから出できた。そして、その手にはスペルカードが握られていた。
「いいね、あんたみたいなのは」
プセーマが赤く塗られた唇を広げて笑った。
「さぁ、始めよう。どちらかが果てるまで」
妹紅のスペルカードを握る様子を見て、プセーマもスペルカードを取り出した。
小さな弾の弾幕が素早く、大弾が遅く一定の間隔・リズムでこちらへ向かってきた。何とも避けにくい弾だ。
「武符・一発の弾」
すぐにスペルカードを宣言し、先程の弾幕と同じようにリズムを刻んで大弾を放った。
そして、全方向に向かって高速の水色中弾、低速の黄色中弾、米弾を放った。
まるで、先ほど見た八雲紫の弾幕のようだ。
数秒程耐え抜いた後、スペルカードが終わり大弾が私たちそれぞれを追尾し、小さな弾幕が全方位に放たれていった。
そして、彼女はすぐスペルカードを取り出した。
「殺符・生死は私次第」
彼女は全方位に無数のナイフ、くない弾を放った。速度もまばら、自機狙いの弾も交じっている。弾はシンプルだけれど、複雑な弾幕。
「霊符・夢想妙珠!!」
たまらずに、私もスペルカードを発動した。
夢色の弾幕と彼女の暗い色の弾幕が重なって交わって、相殺されていく。
スペルカードが終わって、無数の様々な弾幕が遅く広範囲に放たれていく。
「混符・縦横無尽 古今東西」
そう宣言した瞬間、彼女が何処かに消えた。
目に広がったのは速度も種類もバラバラな弾幕たちだった。まるで混沌だ。
「呪札・無差別発火の符!!」
「珠符・明珠暗投!!」
妹紅の赤い弾と私の陰陽玉の弾幕と、混沌のような彼女の弾が重なって相殺されていった。
数十秒後スペルカードが終わった後、消えていた彼女が戻った。
そして、また直ぐスペルカードが放たれた。
「愛符・裏切りの愛」
シンプルな米弾のみの弾幕が、大弾、くない弾、ナイフ、蝶弾の順でどんどん物量が増していった。ナイフから後に追加されていった弾幕は軌道が滅茶苦茶で不安定で厄介だ。
「光霊・神霊宝珠!!」
また堪らずにスペルカードを使った。
私の目と鼻の先まで迫っていた弾幕は打ち消された。
その後、スペルカードを取り出した彼女はまた口を開いた。
「手の内は見せずに」
彼女がまた消え一瞬の間、何も起こらない空間が広がった。
かと思えば、一瞬の間に辺りは激しい弾幕が広がる。速度も、種類も、挙動も、量も全て不揃い。
そんな弾幕が襲いかかってきたと思えば、一瞬の間に去っていく。
混乱はするが、先程の弾幕よりかは避けやすい。
瞬きから目を開いた瞬間、そこにはプセーマ、主犯が立っていた。
「あーあ、負けちった」
ちっとも悔しくなさそうなその姿にニマッとした笑顔を浮かべて、彼女はそう言葉を吐いた。
「あら、悔しくなさそうじゃない」
「負けは負けだしな」
煽るつもりで言ったのだが、どうやら彼女はまるで気にしていないみたいだ。
「そのお嬢ちゃんに幸せを与えてやるよ。覚めないうちに早く連れ帰っておきな」
きっと、暦が彼女、プセーマの事を嫌っているとプセーマ自身も察しているからだろう。
何だかんだ、配慮ができている。
「まぁ……あとコインの表が出たら幸せ、裏が出たら不幸を幻想郷に与えてやるよ。見ときな」
そう言い、彼女はポケットからコインを取り出した。そのコインは、古く錆びていた。
表には動物が旗を持ったような絵が描かれており、裏には勲章が描かれていた。外の世界の金貨なのだろう。
コインが上に回りながら高く舞い上がって、コインが彼女の手の平に吸い込まれるように落ちていった。
「あ、裏だ」
その結果を見た彼女は一瞬青ざめた後、直ぐまたケロッとした表情に戻って、私たちにそう告げた。
「うーん……まぁ仕方ないか」
「は?」
本当に実行しそうな勢いの彼女を見て、私は思わずそんな声を漏らした。
「ははっ、中々面白い冗談だな」
横からそれを見ていた妹紅がそう笑いながら、プセーマにそう言葉をかけた。
そう妹紅が言ったあと、プセーマもその答えを待っていたかのように笑った。
「その通り、冗談だ。私に任せとけって」
「ほら、今からこの幻想郷の住民に幸せが降りかかる」
そんな言葉を吐いたあと、プセーマ、妹紅、私…いや、幻想郷にあるもの全てが少しの風に靡かれたような気がした。
「気持ちはありがたいけど、そんなの目視できないものでしょ?」
「お前も幻想郷の住民だろ。いつか幸せは降りかかる、その時目に見えるように分かる」
プセーマが笑顔を浮かべて、私の指摘にそう言葉を返した。
その後、彼女は暦を抱き抱えたあと、私たちに暦を渡した。気絶………というか、寝ているみたいだった。
「じゃあな、また何処かで」
その瞬間、私たちはまた落とされるような感覚に包まれた。彼女の青い瞳が一瞬の間に赤い瞳に変わったあと、そこは人間の里の寺子屋に移動されていた。
「紫ね……」
紫の能力で寺子屋に移動させられた事を理解しながら、慧音を探した。寺子屋の中で仕事をしていた慧音に報告をして、暦を布団寝かせてもらった。寺子屋を後にして、妹紅とも解散をした。
その後、博麗神社に戻った私は目を疑った。
何もなかったはずの賽銭箱に溢れるほどのお金が入れられていたり、本殿に続く石の道が落ち葉一つなくまるで新品のように綺麗になっていたからだ。
「ふふっ異変解決ね」
その様子を見て、私はそう言葉を呟いた。
行先も分からぬ風に吹かれながら。
異変解決〜