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無題
最後の文が書きたかっただけ
有岡は幼い頃、魔法を信じていた。読んだ本、誰かの絵、音楽。妖怪、幽霊、昔話。そういったつくりものに魔法を信じていたのだ。そして、自分もいつか使えると、使えるようになりたいと信じてやまなかった。
だが、有岡には才がなかった。
具体的には、形に降ろす才、絵として字としてとらえる才。そして何より、これらの結果を待つ才。これだ。こいつが特になかった。
有岡は悩んだ。それなりに努力らしきものをしたような気もするが、どこの境目から努力に入るのか、結ばれた実感がないもので当てはまると思えなかった。それに上には際限がないのである。更に厄介なことに、有岡は他人と比べては他者か自分を貶める癖もあった。
有岡の「上」は世界一でも文豪でもない。だが上は上だった。ことに題材が同じであると有岡の嫉妬と苦心を生んだ。
心の中で、膿が白く腫れていく。普段は研鑽を積ませてくれるものがバランスを崩し、過度な繁殖の末に辺りを食い荒らすのだ。アクネ菌と好中球のように。
この膿は死骸だった。書きかけの自作そのものだったり、思いついただけのアイデアであったり、何より密かな誇りであったりした。
有岡は溜め息をつく。アレはジャンクフードなのだ。有岡は言い聞かせる。アレはジャンクフードなのだ。題材を同じくした作品とは、なるべく袂を分かつことにした。
アレは味が濃く美味い代わりに、脂が多い。際限のないそれは食いすぎれば膿を生みやすいのだ。うみだけに。