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俺の修学旅行計画
斉藤からのLINEを、未読無視していたことに気がつく。
『芦屋、万博誰と行く?』『一緒に行かん?』
修学旅行の、万博研修の誘いだった。
『見るの遅れた』
とりあえず、一言。
どう送ろうかと思案し、指を弄ぶ。
そして、文字盤を打つ。
『ごめん、もう行く人決めた』
LINEのホームに戻って、上から五つ目のアイコンを押した。クロミの、紫っぽい女子のものだ。名前は「hana」。
キーボードを立ち上げる。
『万博なんやけど』
『行く人いないから一緒に回ってもいい?』
何度も見直して書き直して同じような文を作り続けた。『行く人いないから』なんて、嫌な感じにならんな、とか考えて。斉藤に送ったときには気にしていなかったことが、今は無性に気になって仕方がない。なんや俺、ほんとにいつも通りのLINEでいいやんか。
やけくそになって、送信ボタンを押した。二通の、緑色の吹き出し。既読はつかない。
送ってしまったメールを見つめながら俺は、これはたぶん、これまでの人生でいちばんの決断だろうなと思った。
○●○
隣のクラスを覗けば、彼女は女子と親しげに話しているようだった。クラス替えで『佐橋がいないと話す人がいない』と嘆いていたわりには楽しそうだった。まあそんなもんか。
あのLINEのあと、比較的すぐに返信はきた。二通。
『あたしは佐橋と行くけど』
『一緒にいく???』
佐橋。佐橋まこと。去年と一昨年、クラス同じだった女子。ちょっと変人。小1から何回かクラスは同じになっていたけど、ちゃんと話したのは中1が初めてだった。たしか小学校のときは、わりとクラスの中心にいたと思う。面白かったかはさておき、面白い奴という認識ではあった。
年が上がるにつれ、彼女はクラス内での発言が減っていったように感じる。雰囲気に乗り遅れたのか。もともと女子力や周りを気にするタイプではなかっただろうから。最近は、申し訳程度の触覚を出しているが、でかくて額のほそい丸眼鏡のせいで形がちょっとおかしい。そんなことで、俺の評価は変人だ。
まあ、別にいいんだけど。一緒に行っても。喋りゃあ面白いことはそうだし。
…いや待てよ、これは逆に好都合かもしれない。俺は考える。
ふたりで行くよりも、一人間にいた方が怪しくないんじゃないか、と。
さすが俺。よく気づいた。心の中で拍手喝采。
男女二人だと、確実に周りからなんか言われるだろうしな。
男子女子女子だったら、別にばれなくね? 違和感は減っただろ。