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#7 告白?
ふぅ。
昨日、急に熱を出した。超がつく健康優良児であるわたしは、なんとか午後に治し、今はすっかり元気だ。
さてと、今日も今日とて、悩み委員会やりますか……
最近、あんまり悩みが来ていない。ありがたいことだけど、退屈で暇だから困る。
「ねぇ、宙ぁ。来てた、悩み?」
「うぇっ、、いや、別に来てなかったよ、ぉ__ぉ…__」
うーん、なんだか怪しい。怪しさ抜群。だいたい、顔が赤くなってるから、熱でもあるんじゃないの?いや、そもそもわたしがうつしたやつかも……すいません。
「心葉ぁ」
「どうした、大橋」
相変わらず、彼女は淡々と本を読みふけっている。よくもまあ、そんなに読めるものだ。
「ひやぁ、文字がびっしり」
ちょっと覗いてみると、文字がびっしり。五ミリサイズの文字がずどどどどっと連なっていて、とてもじゃないけど読める気がしない。しかも、見たところ挿し絵はひとつもなさそうだ。「殺した恨みを復讐しにいく」とかいう文がちらほら見れるから、児童文学ではないことは確実。大人が読むやつではないだろうか。
「大橋、読むか」
「いや、ちょっと。お探し物でだいぶ苦戦したから」
お探し物、とは『お探し物は図書室まで』のことである。
「ああ、これ読んだあと教科書読むと、くらくらするんだ。字がでかすぎて。めまいがする。で、大橋が無理なら足立も無理だな」
ちらっと、煽るように彼女は宙を見た。
「何言おうとしてんだ心葉」
「そんなの、足立の勝手だろう」
そう言っている間に、20分休み、昼休みが終わった。
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6月下旬。それなのに、8月並みにムシムシして暑い。本当、温度の神様と季節の神様を恨みたくなる。
帰りの会が終わり、わたしは悩み委員会と喋る。
「心葉、宙、今日はわたしが鍵返してくる」
悩み室の鍵は、悩み委員会が返すことになっている。
「ああ、ありがとう。今日は僕、用事があるから助かる。先に帰っている」
「わかった」
「あ、俺っ…え、と、いっししょに行く、よ。きょ、暇だだしぃ」
暑いのか、顔を赤くして言う宙。
「ああ、そう」
そう言って廊下の突き当りに行き、悩み室のドアを開ける。クーラーが効いていて涼しい。
「ゆゆゆ結花、ええっとぉ…」
「んあ?」
鍵を手に取る。鉄独特の冷たさがあって気持ちいい。
「じゃ、返しに行くよ」
「ちょっ、待て……__うぅ…__」
「もぉ、はやく用件言ってよっ」
「__好き……__」
「なんてぇ?」
うまく聞き取れない。何言ってるんだろう。
「だから、なんて言ってるのってば」
「だーかーらっ…す…!!」
「大橋さん、足立さん」
「「わぁ!」」
ああ、びっくりした。村木先生か。
「あ、そっか、今日職員会議ですよね。すみません、はやく帰りますっ」
「鍵は返しとくから」
村木先生に鍵を預けて、わたしたちは一目散に校舎を飛び出した。
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「んで、何言おうとしてたの」
「……すっ、つつ、付き合っ……てほ、ほしぃ__ぃ__……」
付き合ってほしい、だってさ。
わたしはその言葉をうまく飲み込めなかった。どこか知らない国の言語と思ったぐらいだ。だいいち、そんな言葉が宙から飛び出すなんて思いもよらなかった。
付き合ってほしい、はそのまんまの意味合いなんだろう。恋愛的に、友達じゃなくて、恋人同士……というぐあいに。
「は、はあ…(困惑)」
「だ、だだめ…?」
「いや、別にいいけど、小6はちょっと早くない?」
「じゃあ、中1」
さっきとはひとが違うぐらい、すんなり、さらりと言った。
「あぁ、無理。私立行くから」
「し、しりつ…?」
「受験すんの、中学校。楠木中じゃなくて、遠めのとこ。|多楚私立中等学園《たそしりつちゅうとうがくえん》ってとこ、相当な学力とか必要だから、中学校は多分無理」
「じゃあ高校」
「あ、それも無理。多楚中は中高一貫で、次、多楚私立高等学園だから」
「大学は!?」
「東大行くって夢があるから」
「はあ……」
げんなりとした宙を横目に、わたしは空を仰いだ。
まあ、付き合うのに10年はかかりすぎって思うよねぇ。うんうん。そもそも東大、浪人するかもだしね。
「付き合いながら、勉強は。家近いし」
「あー。まあ、小6でも早くないかもしれないもんね。オッケー」
初めてのことだし、これを通して悩みを解決できるかもしれないもん。
「ほっ、本当!?!」
「ああ、そうだけど」
「やったっ」
交差点に来る。わたしは左折、宙は直進だ。
「じゃねー、ジャネーの法則ー」
「おん」
そう言って、わたしは宙とわかれた。