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又旅浪漫
俺は走っている。鉄箱よりも速く。
視界は一点集中し、限界まで絞られ
左右の景色は吸い込まれるように流れていく。
「あ、片目のキ」
今のは近所のキジトラだ。
まだ何も知らない若造で
あのような子ネコにマタタビはまだ早い。
とはいっても5ヶ月程、若いだけだが。
自分とお揃い柄の若造は
風のように走り抜ける先輩ネコを
遥か後方できょとん、と眺めている。
太陽はマグロほどの高さにある
日没が近い。
耳は洞窟の時よりも背中の方を向き、
体の重心はシシャモ一匹分下げている。
短い尻尾は真っ直ぐ後方に伸び、
空気抵抗を減らし最高速を維持している。
「見えてきた」
建設会社と、
その手前に大きなドーロが。
夕暮れ時の上空は薄暗くオレンジ色で
カラス達が「来るなら来い。」と言わんばりに
フクロウ達の攻撃に備え一触即発の状態である。
大きな道路に大きな鉄箱が
右から左へ、左から右へ走っている。
口の中に残してあるマタタビを噛み砕き
俺は鼻で大きく息を吸った。
ドーロの幅は獣道十本分
鉄箱はドーロからサバ一匹分浮いている。
回転する黒い輪と輪の間はシャチ程だろう。
いける。このまま突撃だ。
鼻腔にマタタビを充満させ息を止める。
「俺は、ネコ呼んで|零戦《ぜろせん》のキヨシ。」