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終わらない話し合い
もちろん、これで終わりにはならない。マンホールの中に逃げてしまった一匹がいるのだ。
当然のことながら、誰もマンホールの蓋を開けたがらなかった。
飼育小屋にゴキブリが出たという話は、瞬く間に他の飼育委員の耳にも入った。
私も見た、俺も見た、そんな声が他のシフトの飼育委員からも聞かれた。
———そして、顧問の先生の耳にも入る。
火曜日。いつも通り、委員会が開かれた。
普段なら、真面目に取り組んでいるか確認され、よく分からないお話を聞かされ、イベントがある期間はその準備をし、そこで終わりになるはずだった。
その日は、少しばかり空気が張り詰めていた。
話し合いが行われた。題材はもちろん、飼育小屋に出たゴキブリについてだ。
誰かが手を上げて、現状を先生に報告する。
「……最初は二匹でした。いや、一匹殺したから一匹か。でも、……最近はどんどん増えてる気がします。」
気がする、と言ったのは、マンホールの中を誰も見ていないからだ。
マンホールの蓋は巣穴代わりのその空間の上側にくくりつけられていて、横の出入り口は開いている。そこから覗いたときの感想だろう。
繁殖している場所がマンホールの中で良かった。ほとんど見なくて済むからだ。———他の場所だったら、どれほど恐ろしいか。
先生は神妙な面持ちで俯いていた。どうするのか思案しているのだろう。
「先生、ゴキブリホイホイとか置けないんですか。それか、マンホールの中を目掛けて殺虫剤|撒《ま》くとか」
またも誰かが提案する。先生は緩く首を振った。
「ウサギにどんな害があるか分からない。間違えてホイホイを食べてしまうかもしれないし、撒いた殺虫剤で体を壊してしまうかもしれない」
それはその通りだった。誰も反論しない。
でも、それすらできなかったら、どうすればいいのか。
結局結論は出ないまま、その日の委員会はお開きとなった。
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自分の当番の日が来た。
いつ迷い出てくるか分からないゴキブリにハラハラしながら、いつも通りの仕事をこなす。
幸い、一匹も外には出てこなかった。
ふと気になり、帰り際にマンホールの出入り口を覗く。
———黒い《《何か》》が、中でたくさん|蠢《うごめ》いているのが見えた。