拾禄．夢か現か幻か

雨天side＿＿＿。 雨天「ん…、」 美織「起きてよ！アデンス！」 目覚めた直後、美織の必死そうな声が古びたBARに響き渡る。 僕はカウンターに座って寝ていたらしく、体を起こす。 ＿＿＿シン＿＿。 珍しくまだ寝ているのか、いつもの場所に｜バーテンダー《黒霧》は居らず、 美織の声がしたのであたりを見回すが誰もいない。 …そう、本当に誰もいないんだ。 いつもならイライラする魃と兄の喧嘩や、姉の「かぁいいです！」 と言いながら僕を撫でてくれる手、いつも僕より早く起きている 美織と七夜の「おはよう」＿＿＿＿。 それら全てが無く。異様に静まり返っているのだ。 可笑しいと思いつつ、すべての部屋を見た僕は、 まだ早朝らしい商店街へ行ってみることにした。 ガチャ、 雨天「＿＿行ってきます、」 ＿＿＿＿＿＿＿＿返事は、無い。 雨天「…おかしい、」 そう。いつもならいくら早朝とはいえ、何人かはランニングや 店の仕込みで商店街で忙しなく動いているのに。 ＿＿＿誰もいない。 全ての店のシャッターが閉じ、電灯もついていない。 ＿＿＿鳥や犬の声はするのだが。 雨天「…そういえば、ここでいっ…緑谷にあったっけ。」 気楽に考えながらもう一度BARに戻ることにした。 ガチャ、 雨天「＿＿＿ただいま、」 ＿＿＿＿＿＿＿返事は＿＿＿。 弔「ぉ、おかえり」 七夜「おや、おはよう。珍しくこんな朝早くにどこに行ってたんだい？」 美織「あ、雨天ちゃん！もう！心配したじゃん！」 雨天「ゴメンね、目が覚めちゃったからちょっと散歩してた。」 なんてことない会話をカウンターに座りながら繰り広げる。 ＿＿これほどまでに幸せなことは、あるのだろうか＿＿＿＿＿。 ＿＿＿耳を澄ませば、声が聞こえてきそうで。 ＿＿＿＿＿そっと、音楽プレイヤーにイヤホンをつけ、聴き始めた。 --- 七夜side＿＿＿＿。 雨天クンが緑谷を倒して倒れてから、ゆうに五分が経過。 プロヒーローも現着しているが、一向にこちらに手を出してくる様子はない。 ＿＿＿＿それは、オールマイトの指示のおかげだが。 美織クンと僕とで待機組を呼びに行った魃クンを待ちながら、 必死に声をかけ続ける。 美織「アデンス！アデンス起きて！！！」 七夜「アデンス…！どうしたんだい⁉」 緑谷との戦闘の際、急に現れた黒霧のような黒い粒子…あれは一体何だったのかは わからないが、兎に角それのせいなのだけが解る。 頬を血と混ざった汗がしたたり落ちていく。地味に染みるが そんなこと気にしていられる場合じゃない。 どんどん左目付近から発生する黒い霧…？粒子…？に巻き込まれ、 見えなくなっていく雨天クンの体。相変わらず彼女の瞳は閉ざされたまま。 不安と焦りが僕の感情を支配する。 ＿＿＿＿その時。 魃「アデンス…ｯ！」 Mr.「アデンス⁉」 トガ「アデンス…！どうしたんです⁉」 荼毘「雨ｯ…アデンス…ｯ！」 待機組の雨天クンの移動＆戦闘向きメンバーが駆けつけてくれ、 僕の心に少し余裕ができる。 ＿＿＿＿覚悟を決め、皆を真っすぐ見据えて言い放った。 七夜「みんな…今から、僕の言う事に従ってくれ。」