公開中
消えゆく神の子 第二話
広く洗練された部屋。青色が目立つモニターで様々な監視カメラの映像が切り替わっていく。
「いました。橋の下です!」
一人の人物が声を上げる。映っていたのは川を流れる女性の死体だった。
「始まったか……」
「早急に”彼ら”を集めた方がよさそうですね」
「ああ。人類最大の過ちから、”神の子”を救うためにな――」
他の画面にも別の監視カメラの映像が映っている。
そのうちの一つに、海にタバコを捨てている男の姿もあった――
翌日
コンコンッ
「失礼します。どのようなご用件でしょうか?防衛大臣」
「ああ。よく来てくれたね天野君。まずは先日の任務ご苦労だったね」
「防衛大臣。本題はなんですか?」
「まぁそう焦らないで」
そう言って椅子から立ち上がると、窓から外の景色を眺め始めた。外を見ると、黒の車列が現れる。
それを見た防衛大臣は横目で振り返って、
「天野君。きみは非常に優秀な人材だと思っている」
防衛大臣が神妙な面持ちで話し始める。
「きみに賭けるぞ、天野君……」
「はい?」
「時間だ。外に迎えが来てる……。次の任務に取り掛かるんだ」
「わ、わかりました……」
防衛大臣の言葉の意味が分からない天野は疑問を残しながら場を去った。
(天野くん……。きみが直面する現実は、きみの手で救うんだぞ――)
防衛省前
「……誰?」
防衛省から出てきた天野は目の前にいる人物に言った。
「やぁこんにちは。初めましてだね、天野 伊吹くん」
「初めましては重々承知だ。お前が誰かを聞いてるんだ」
「それについては後で話そう。車に乗ってくれ」
天野は疑いながらも渋々車に乗った。
移動中
「それで、用件はなんなんだ?」
「うむ。まず今まで君が勤めていた防衛省情報本部での仕事は終わった。ご苦労だった」
「は?どういうことだよ」
「これからは新しい仕事場で働くということだ」
「新しい仕事場?」
俺は理解出来なかった。仕事でミスを犯した覚えもないのに、突然仕事場を変えられるなんて……。
『きみに賭けるぞ、天野君……』
まさか、俺に賭けるって……
この先に何かとんでもないことがあるのでは?と思った天野は冷や汗をかく。
「新しい仕事場って、なんだ?」
「うむ。説明しよう。このタブレットを見てくれ」
手渡されたタブレットを見ると、画像が出てきた。
画像:https://d.kuku.lu/uytpvuphp
「IISS……?」
「ああ。国際情報統括監視機関。その名も『IISS』新しくできた諜報機関だ」
「IISS、か……」
「IISSの主な目的は世界中の莫大かつ様々な情報を監視し、テロ、戦争などといった出来事を未然に防ぐ、または解決させることだ。時には情報を秘匿したりもする」
「なるほどな……」
「そういえば自己紹介を忘れていたね。私の名前はMrマーク。組織のリーダーと思ってくれればいい。さ、ついたぞ」
車から降りると、まるでそこは軍事基地のような場所だった。
「な、なんだここ……。防衛省でも聞いたことない場所だな。あいつら陸自……?いや、そもそも自衛隊なのか?まさかアメリカ軍……」
「残念ながら不正解だ。彼らは我々の実行部隊だよ」
「つまり秘密の特殊部隊ってわけか……」
「それじゃあ、しばらく施設内を見学でも散策でもしといてくれ。また後で会おう」
そういうと、マークは基地内で一際目立つモダンな建物に入っていった――
数時間後、基地の会議室にて
テーブルの周り、天野を含む何人かが椅子に座っていた。
ドアが開き、マークが入ってくる。
「お集りのようだね。どうだこの美しい部屋は?」
テーブルの横を通り、正面の椅子に座る。タイミングを見て一人が質問した。
「Mrマークさん。我々を集めた理由をお聞かせ願いたい」
「うむ。まずはメンバーの紹介からいこう」
そういって視線を移し、淡々と紹介し始める。
「日本の防衛省情報本部所属、天野 伊吹君」
「イギリスのMI6所属、サイラス・リーヴァイ・ジョンソン君」
「ドイツの連邦情報局所属、ルーク・フォーゲル君に」
「メキシコ、国家安全調査局のルイス・ヘルナンデス・エルナンデス君」
「アメリカ、CIA所属のエース・アンダーソン君とアリア・ペリー君の計6名だ」
(マジかよ……思ったよりヤバい構成だな……)
「こりゃあ……」
「諜報機関の……」
「オンパレード、だな」
「なるほど……」
「来た甲斐があったぜ……」
「面白そうじゃねぇか」
部屋がざわつくが、すぐに静かになった。
「メンバーを聞いて分かると思うが、今回の事案はとても機密性が高い。それと、我々には一刻の猶予もないことを伝えておこう」
マークが真剣に話始めた。
「諸君らは知っているかね?神の子の存在を」
正直言って聞いたことなかった。そもそも神の子ってなんだ?と思った。
他の人たちもわからない様子で
「なんだそりゃ?」
「神話か何かか?」
「聞いたこともないです」
と、声を上げていた。しかし、CIAのアリアが口を開く。
「違うかもしれませんが、『常人にはない遺伝子を持った特殊な人間がいる』そんな話を聞いたことがあります。確か名前は……」
「ゴット。ゴット遺伝子だ」
マークが先回りして言う。
「ひとまず、これを見てほしい」
そういって、テーブルに置いてあったリモコンで正面のモニターを付けると、会社のロゴのようなものが出てきた。
画像:https://d.kuku.lu/sgbtxxpc3
「GBSって……まさか」
「GBS Institut de recherche……フランスの遺伝子バイオサイエンス研究所だ」
「その研究所なら知ってる。ある日突然すべての研究員が失踪して、その後解体された研究所だろ?すごい研究をしていたって聞いてる」
「うむ。その研究員だが、我々が掴んだ情報ではカナダで生き延びている」
「カナダ?」
「正確には、カナダへ連れ去られたんだ。連れ去った犯人も、明確な目的も分からないが、連れ去られる少し前に、彼らはあるすごい発見をしている」
「すごい発見?」
「それが、ゴット遺伝子だ。ゴット遺伝子は正真正銘、『GBS』の研究員によって作り出された人工遺伝子なんだ」
「なん、だと。GBSの奴らが……?」
その場にいた全員が息をのんだ。信じられない話だ。
「連れ去った奴らは恐らくゴット遺伝子と何かしら関係があるだろう。そして、そのゴット遺伝子を持つ者は『特定遺伝子所持者』というものに認定されている」
「なるほど」
とここで、俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「マークさん。ゴット遺伝子を持っている人は何か特別なことがあるのか?」
さっきアリアが『特殊な人間』と言っていたのが気になっていたのだ。
「ああ。ゴット遺伝子を持つ者は、運動神経や頭の良いんだが、尋常じゃないほど良いんだ」
「ちょっと頭の良くて運動のできるやつ……って訳じゃないみたいだな」
「ああ。彼らはその力から、君たちと同じ諜報員として活動している」
「「「諜報員⁉」」」
「ああ。国家治安維持の元、諜報、戦闘を行う諜報員。それが、特定遺伝子所持者。通称『神の子』だ――」
休憩スペースにて
「結局どうしろって言うんでしょうね」
「どうせあれだろ。そいつらが厄介だから全員殺せって話じゃないか?」
「そんな単純な話か?」
「他にも考えられる可能性はいくらでもありますよ?」
「うるせぇ!」
みんながそんな話をしているとき、外では――
屋外にて
「天野君とエース君には一足先に任務に向かってもらう」
「何をすればいいんだ?」
「これから向かう先に神の子がいる。それらを確保し、ここへ連れてくるんだ。実行部隊も同行して行く。交戦規定は自由だ」
「まってくれ!戦闘が起きるのか⁉」
「ああ。だが神の子は殺すな。間に合えばいいが……」
真剣に話すマークと違って、天野とエースは話の意味が理解できていなかった。
「意味わからないな……」
「要するに自分の目で確かめろってことだ」
天野がそう返事をすると、二人はヘリに乗り込んだ。
ヘリが飛び去っていったのを見ると、マークが呟いた。
「『神の子を、すべて、一人残さず殺す』か……。神の子の命は、君たちに託されたぞ」
--- ―― 天野 伊吹君 ―― ---