公開中
旅立ちは突然に
後悔しない。
後悔したくない。
だから、俺の思いを聞いてほしい。
「まだ、死ぬなよ。」
俺は病院のベッドに横たわる恋人、美咲に向かって言った。
「まだ、死なないよ。春君が言うなら。」
俺は不意にしゃくりあげそうになって、涙を必死にこらえた。
ここでなくなんてダサいじゃないか。
「まだ、死んじゃだめだ。」
何回も繰り返す。暗示でも呪いでも良いから、彼女に言い聞かせる。
「方法はある。不治の病なんて嘘だ。」
「人はいつかは死ぬよ。」
「美咲が、美咲が死ぬのは今じゃない。明日でもない。まだ先だ。先のはずだよ。」
「運命だよ。受け入れなきゃ。」
泣かないって決めたのに、二人とも涙を浮かべてしまっている。
そんな日をずっと繰り返してる。
俺ー春(しゅん)は、恋人、の美咲にが病で倒れてから、まともに学校にいっていない。彼女がいない高校生活は、ひどくつまらないものだった。
だから、俺は学校にいかない。
学校側は、心身の不調ということにしてくれているけど。
「学校、行かないの?」
「ああ。」
「何で。」
「美咲がいないから。」
「そんなんじゃ、私が死んでからどうやって生きてくの。」
彼女は笑っていたけど、どこかこの状況を俯瞰しているところがあった。
あきらめている。とでも言うべきか。
「春君は私の分も生きてよね。」
冗談目かしてそんなことを言う君が嫌いだ。
「うっ。」
発作で苦しみ、意味をなさない言葉を叫ぶ君を見るのが嫌いだ。
「つっ。」
たまにこぼす、君の涙が嫌いだ。
大嫌いだっ。
こんな風にしか思えない俺が嫌いだ。
彼女に、もう少し時間をくれ!
彼女が後悔のないように生きる時間をくれ!
俺の願いは、ただ、それだけですから。
どうか、どうか。
彼女に時間を!