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自分の人生は自分で決める~青い鳥との出会い~
星
「私、大きくなったら学校の先生になりたいな」晩ご飯のあと、私――奈々(なな)は、ずっと胸に秘めていた大切な夢をお母さんに話してみた。でも、お母さんは少し難しい顔をして、ため息をついた。「先生? もっと他のお給料が良い仕事とか、もっといいことをしなさい」お母さんの言葉に、私の心はチクリと痛んだ。大好きな夢を否定されたようで悲しくなった私は、お母さんを怒らせたくなくて、慌てて別の夢を口にした。「じゃ、じゃあね、お弁当屋さんを開くのはどうかな?」すると、お母さんはパッと顔を輝かせて笑顔になった。「お弁当屋さん! それは素敵ね。その方がずっといいわ」お母さんが喜んでくれたのは嬉しい。けれど、私の心の中には、まだ「学校の先生になりたい」というキラキラした気持ちが、あきらめきれずにたくさん残っていた。次の日の朝。カーテンの隙間から差し込む朝日で、私は目を覚ました。ベッドから起き上がろうとしたその時、部屋の机の上に、今まで見たこともない不思議な青い鳥がいることに気がついた。羽は宝石のサファイアみたいに綺麗な青色。私は驚かせないように近づいて、優しく声をかけた。「君、迷子なの?」すると、その青い鳥はパタパタと小さな羽を動かして、あっさりと答えた。「僕は迷子じゃないぴよ」「へぇ、そうなんだ」まだ寝ぼけていた私は、それが鳥の声だとは全く気づかずに会話を続けていく。すると、青い鳥はくりくりとした目を丸くして言った。「奈々、誰がしゃべっているか分かっているぴよ?」「え……?」言われてみれば、この部屋には私しかいない。私は混乱して、とりあえず一度ベッドの布団へと目をそらした。すると、机の上からまたあの声が聞こえてきた。「やっと気づいたぴよ」見ると、やっぱりあの青い鳥のくちばしが動いている。私は心臓が飛び出るほどびっくりして、壁にぶつかるまで後ずさりしながら鳥を見つめた。「なんで、しゃべるの……?」びくびくしながら聞くと、鳥は胸の羽をふんぞり返らせて、こう答えた。「しゃべれる鳥だからぴよー」あまりにも堂々とした答えに、私は毒気を抜かれてしまった。最初は怖かったけれど、一生懸命に「ぴよ」とおしゃべりする姿を見ていると、だんだんこの鳥が可愛く思えてきた。「君は、どこから来たの?」「向こうの森だぴよ。それより、僕は奈々のことを気にしていたんだぴよ。本当は何がしたいぴよ?」鳥の問いかけに、私は戸惑った。「どういうこと?」「本当は学校の先生になりたいんだぴよね」「なんでわかるの!?」私は飛び上がらんばかりに驚いた。誰にも言っていないはずなのに。「きいたからぴよー」「こわいね……」私は少し身をすくめた。でも、鳥の気持ちが少しわかった気がして、素直に打ち明けてみることにした。「でもお母さんに止められたから、やめようと思ってて……」うつむく私に、鳥はまっすぐな声をぶつけてきた。「どうして自分の好きにしないぴよ?」その言葉に、私はハッと息をのんだ。そういえば、私はいつもお母さんの言う通りに動いていたのかもしれない。『学校はこの学校がいい』って私が言っても、『こっちにしよう』ってお母さんに言われたり。『この服買おうよ』って私が言うと、『こっちのほうがかわいいよ』ってお母さんに止められたり。「わたし、操り人形みたいになってたんだね」自分の本当の姿に気づいた私は、鳥に向かって「ありがとう」と力強く言った。そして部屋を飛び出し、階段を駆け下りて一階の台所へ向かった。お母さんはいつも通り、そこに立っていた。「お母さん」「なに?」お母さんが振り返る。私は拳をぎゅっと握りしめて、言葉を絞り出した。「わたし……わたし、本当は自分の好きにしたい!」「なんで?」お母さんは驚いたように目を丸くした。私は一歩前に踏み出して、心の中のすべてをぶつけた。「だって、いつもお母さんに決めてもらってる。それはとっても嬉しい。でも、自分の人生は自分で決めたい!」「……っ」お母さんが、ぴたりと黙り込んだ。台所に重い沈黙が流れる。それでも、私はもう目をそらさなかった。「お願い! 将来、学校の先生にならせて! それと、あの服買って! それと……!」「奈々」お母さんの静かな声に、私はビクッとして顔を上げた。怒られるかもしれない。そう身構えた私の目に飛び込んできたのは、意外な光景だった。お母さんの目には、涙が溢れんばかりにたまっていたのだ。「お母さん……?」私が戸惑っていると、お母さんは目からこぼれ落ちた涙をそっと拭いながら、愛おしそうな目で私を見つめて言った。「赤ちゃんだと思ってたのよ。」「お母さん……」お母さんは遠い目をして、優しく、どこか寂しそうに微笑んだ。「赤ちゃんの時、とてもかわいくてね……。夜は思いっきり泣いて、幼稚園では『友達とけんかした!』って叫んで帰ってきて……。今も赤ちゃんみたい。かわいいし、泣くときはすぐになく……」お母さんの頭の中には、私が小さかったころの思い出が、今でも鮮明に残っていたのだ。いつまでも私の手を引いて何でも決めてあげていたのは、私を縛り付けたかったからじゃない。ただ、あのころの可愛い私のまま、ずっと守ってあげたかっただけだった。お母さんは一歩私に近づいて、私の肩にそっと手を置いた。「でも、もう六年生だもんね。――自分の人生、自分で決めなさい」その言葉を聞いた瞬間、私の目からも涙がポロポロと溢れ出してきた。「お母さん、ありがとう……!」私はお母さんの胸に飛び込んだ。お母さんは、しっかりと私を抱きしめ返してくれた。自分の夢を応援してもらえる嬉しさと、お母さんの大きな愛に包まれて、私の心はこれまでにないほど温かくなっていった。しばらくしてお母さんの部屋から自分の部屋に戻ると、机の上ではあの青い鳥が、相変わらず胸の羽をふんぞり返らせて待っていた。「上手くいったみたいだぴよね」鳥は嬉しそうに羽をパタパタとさせた。「うん! お母さん、私の夢を応援してくれるって。自分の人生は自分で決めなさいって言ってくれたの。全部、君が背中を押してくれたおかげだよ。本当にありがとう」私が心からお礼を言うと、青い鳥は満足そうに何度も頷いた。そして、その綺麗な青い羽を大きく広げて、窓の枠へと飛び移った。「お母さんのお人形を卒業した奈々なら、きっと素敵な先生になれるぴよ。僕の役目はこれでおしまいだぴよ。じゃあね、奈々!」「あ、待って! 君の名前は――」私が呼びかけるより早く、青い鳥は青空に向かって力強く飛び立っていった。その姿は、まるで私の新しい未来を祝福してくれているようだった。とてもうれしくなった。窓から差し込む光は、朝よりもずっとキラキラして見えた。私におめでとう、とでもいうかのように。私は自分の机に向かい、新しいノートを開いた。お母さんの言う通りにする私じゃない。自分で決めた夢に向かって、今、私のかけがえのない「第一歩」が始まったのだ。(おわり)