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街
目が覚めた。
外はまだ明るくなりきっていないが、丁度良い。
この世界に来る前にしていた習慣、散歩をしようとベッドから降りる。
すると、床にはまだ彼女が寝ていた。
何も言わず出て行くのはまずいと思い、窓から外を見るだけにした。
いくつかの家が並んでいて、都会すぎない普通の街という感じ。
なんとなく違和感を感じた。
地面を見ると、光の差し込む海底のように揺らめいていた。
やはり、ここは俺が元々居た世界とは違う。
振り返ると彼女は起きており、眠たそうに口を開く。
「ん〜、おはよ。眠れたぁ?」
「お陰様で。ありがとうございます。」
「朝ごはん持ってくるね。」
「いや、流石にこれ以上お世話になるのは…」
「いいのいいの、別に料理する訳じゃないし。この世界はね、知らない内に勝手にご飯が置かれてくの。」
彼女はリビングに向かいながらそう言った。
この世界の不思議なルールに驚きながらも“この世界”という言い方に違和感を覚えた。
まるで他の世界を知っているような…
あまり考えないことにした。
行く宛も無い、しばらく居候させてもらうことにした。
二人で朝ごはんを食べた後、彼女を散歩に誘ってみた。
彼女は誘いに乗り、今着替えている。
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しばらくして、街の案内も兼ねた散歩が始まった。
といっても何か特別な施設があるわけでもなく、ただ街を歩き回るだけって感じだった。
この街の人は、俺が元々いた世界の人と何も変わらない。
少し優しいってぐらいだ。
でも、光には大きな違いがあった。
まるで水中のようにユラユラと、彼女も言っていたがこの世界は海の底にあるらしい。
「おはよう!由方ちゃんと…見ない顔だね。」
お帰りって言ってきそうなおばさんが話しかける。
「まだ若いね、何があったの?」
「それが、覚えてないみたいで…。」
俺より先に彼女が答えた。
「そう…また何か分かったら教えてね。」
その場を離れてからも、色んな人に挨拶したり、されたりした。
どうやら彼女は結構顔が広いらしい。
途中で会った子供にも懐かれていた。
少し遠くまで来て、丘の上から夕日を見た。
それは地上で見るものとは大きく違っていたが、綺麗なのは一緒だった。
下には街が続いていた。
小さく見える家一つ一つに誰かが住んでいるのだろう。
かつて居た世界のことなどどうでも良かった。