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急に駆け足 (7話)
ひとりぼっち - 居残り林間学校2 - (6話)のつづきです。
ヤケカミの1匹が
僕の腕を舐めたかと思うと
いきなり噛みつく
そしてもう一匹が
僕の首元に
牙を近づける
やっぱり最期の時が来たようだ
僕は目をつぶる
辛いことの多い人生だったけど
ミチと過ごした
あの短い時間
それがあっただけでも
幸せだったな
新しい学友たちには
がんばってほしいかな
僕達の文明は
滅びるしかないのかもしれないけど
残す価値があって
残せるものがあるなら
残して欲しいな
おや
ヤケカミには
子供も2匹いるな
お父さんとお母さんと
子供2匹の
ヤケカミ家族
僕の人生なにもできなかったけど
最期にお腹を空かせた
ヤケカミ家族の命が繋げるなら
それもありか
僕は自分の生まれた家族は
嫌いだが
ミチとなら
家族も持ちたかったかな
僕がいた社会や文明のなかで
僕の親たちのように
精神が破壊され
変な病気になって死ぬより
動物に食べられた方が
よほど良い死に方にも思える
それが自然
自然の掟
歪んだ文明に殺されるより
ずっと人間らしいのかもしれない
交通事故なんかより
穏やかで自然な最期
自然の中で
自然に
さぁ
もうすぐミチに会えるかな
ずっと会いたかったミチ
に
あれ
今ミチに会っている
そんな気がする
そしてミチの意識は
僕の意識を
将来へと誘う
ここは
僕の時代から見たら
未来なので
それは
もしかしたら
根っとわーく に蓄積された
僕自身の記憶なのかもしれない
それとも
誰かが作成し
根っとわーく に投稿した
物語が
僕の中に流れ込んできたのかもしれない
僕はここでヤケカミに
命を渡すことなく
生き延びる
僕の腕を噛んだヤケカミの歯は
根っこらぼ を貫通することはなかった
そして
根っこらぼ にヤケカミが忌避する
仕掛けがあるのか
ヤケカミ達は
おとなしく去って行った
その後僕は
何か月か
自然の中でひとりで生活する
その間の食糧の中心となるのは
森の木々と共生する
蔓植物の実
その種類は
多種多様だが
その実に近づくと
不思議なことに
根っとわーく から
不思議と情報が頭に流れ込んでくる
食べられる実なのか
食べられる時期なのか
今こだわりを持って
育てている最中だから
食べないで欲しい
空腹の方は
どうぞ自由にお食べ下さい
今不足している栄養素があるから
この実は是非食べたほうが良い
そんな情報が流れ込んでくる
根っこらぼ が欲すれば
その樹液も分けて頂く
根っこらぼ のオプションのおかげで
雨風の中でも
なんとか
寝泊りすることができた
食糧も1日歩き回れば
1日分は確保できた
そんな生活の中で
自然の美しい姿に
次々と触れる
自分でも気づかないうちに
疲れ果てていた心が
ゆっくりと回復してくる
なにをやっても無駄だと
無気力になっていた心だったが
この自然を守るために
できることがあれば
やってみたいとの
気持ちが強くなってきた
そんな時に
僕はカタリと再会し
自分の時代に戻るための
根っこらぼ のオプション探しの旅を
この未来の世界で始める
この未来の文明は
全ての人が全ての人の生活を
支え合っていた
お金などは存在しない
また一部の人に
権力や富が集中するような
過去の社会主義や共産主義とも違う
格差や差別は存在しないので
全ての人が自分の素直な
気持ちや意見を実現している
僕達の時代に蔓延する病がなければ
人々はこれで
平和に幸せに生活することができる
旅の途中でみたのは
宇宙船の建造現場
太陽の経年変化で
地球が生命の生存に
ふさわしくなくなった時も
地球の生態系を絶やさない
それこそが人類に与えられた役目
弱いものも慈しみ
多様性を大切にして
自分だけでなく
周囲や
さらに広い世界のことを
考える
それこそが
地球全体の生態系の中で
その生態系を維持するために
人間が授かった能力
それなのに
僕の時代の人類はひどい病にかかっている
自分の欲のために
多くの生物種を絶滅に追いやってしまった
差別・格差・価値観の押し付け・
ハラスメント・内乱・戦争
そんなことを繰り返す
ひどい病
自分達がお金を儲けることができれば
世界全体は悪くなっても良い
お金を儲ける事こそが正義
健康な人や軽症の人も
お金を儲けることを考えないと
生活できない
重症者たちが
そんな社会をすっかり作り上げてしまった
それが当たり前となってしまった
とても重篤な病状
僕の時代の文明が滅び
その病を払拭した人類は
長い年月をかけて
地球全体の生態系から与えられた
その役目を果たそうとしていた
宇宙船の建造現場も
僕達の時代で想像するものとは
全く違っていた
職人が掌や指先で
特殊なオプションを持った
根っこらぼ を介して
微生物を操作し
機体を作っていく
微生物たちは
有機物と無機物の
ハイブリッドの機体を
形成していく
見ていると
手で撫でているだけで
機体が少しずつ出来上がっていく
計算されつくした分子構造を
組み立てていく
大きなエネルギーをつかうことなく
公害も出ない
このような技術は
差別も格差もなく
多様性を尊重することから
可能となった
差別も格差もなければ
人は本心で
コミュニケーションをとることができる
偉い人に気を使うなど
そんな無駄な労力は
必要ない
各人が知識や技術を専有しようとせず
全て共有することも
新しい時代では当たり前
全ての人が全ての人の生活を支え合うのが
当たり前の社会では
社会全体・世界全体が
よくなるのであれば
知識を独り占めしようとなど
思いつきもしない
それらのこともあり
僕達では想像もできないような
高度が技術が生まれていた
ツナグは
僕のミチへの思いが
想像以上に強かったことが辛く
しばらく僕とは
会おうとしなかったが
気持ちの整理もできて
僕のオプション探しの相棒を
カタリと交代する
ツナグと旅を続けるが
自分の時代に戻るためオプションは
なかなかみつからない
そんな中
時空の歪みで
さらに先の未来へ行けるポイントを
見つけた
そのポイントを抜けた先は
何十億年も先の世界
太陽は赤色巨星となり
地球は生命の存在できる星では
なくなっていた
人類は地球上のあらゆる生命とともに
地球の軌道よりさらに外側で公転する
人工惑星で生活していた
そして次なる太陽のイベントへの
備えを進めていた
新しい文明は
こんなにも長く
発展を続け
存続していた
それは
差別と格差の小さな芽を
こまめに
地道に
摘み続けた
努力の賜物であった
そして僕の探していた
根っこらぼ のオプションも
ようやくそこで見つけ
手に入れることができた
そのはるか先の未来で
なによりも驚いたのは
僕達の歌が残っていたこと
ロプタンの仲間たちで作り
ヒカリが歌い配信した曲
その時の社会の流行や常識に
そぐわなくても
自分達がどうしても伝えたかった
メッセージ
僕達の時代では
予想通り
視聴数はごく少なく
特別取り上げられることはなかった
でも
その歌を聴いてくれた誰かの記憶に残り
その誰かが
僕達の時代の文明の壊滅時に
僕達とは違うコミュニティで生き残り
僕達の歌と思いを語り継いでくれた
それが格差と差別のない
文明の存続に
ちょっとだけでも
役立ってくれた
それはなによりも嬉しいことだ
残っていたのは歌と
間違いを繰り返さないようにと
僕達の文明の悲惨な状況の記録
僕の名前もヒカリの名前も
残っていない
でもそんなのは関係ない
自分の名前が売れることを求めるのも
僕達の時代の病の一面なのだから
ただ
根っとわーく の中には
僕達の思いの一部は
記録され続けていた
僕とツナグは
ツナグやカタリ達の時代に戻る
しかし時空の歪みにずれが生じており
もとのコミュニティの場所には戻れず
ツナグの時代の他の場所から
僕の時代に戻れる場所への
困難な旅となる
そんな中
ツナグの
人のしての魅力や
僕への好意に触れる
僕の心の中では
ミチへの想いと
ツナグへの想いの
葛藤が始まる
旅の途中で
根っとわーく が
大量の情報を集積している場所の
一端に迷い込む
根っとわーく の情報も得て
僕の時代に戻る場所には
すぐにでも容易に行けることが
わかった
しかし
時空の歪みに変化が生じ
ツナグの時代と
僕の時代を行き来できる時間は
短いと知る
ツナグは
僕と一緒に僕の時代に行きたいと言う
今後文明の崩壊が起きるであろう
不安定な時代に
僕がミチへの想いを捨てられないなら
それでもよいと言う
時間がなんとかしてくれることを
信じると言う
僕の時代に戻る場所は
容易に行けるはずだったが
なぜかまた
根っとわーく の森に
迷い込んでしまう
なにか優しいものに
誘われるように
そこで出会ったのは
ミチの意識の片鱗
ミチはどこまでも優しい
ミチは
僕に幸せになって欲しいと
ツナグとの
一対の男女としての交際を
祝福してくれる
そして
ツナグと僕は
僕達の時代へと向かう
文明崩壊への
カウントダウンの始まている
僕達の時代へ
つづく
つづきは1月3日投稿予定です。
最終回となるかもしれません。