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変な先生
朝。目が覚めた時点で、ホームルームは始まっていた。
スマホの画面に表示された時刻を見て、ため息をつく。
別に焦りはしない。
今更急いだところで仕方ない。
布団の中で寝返りを打ちながら、通知欄を流し見る。
ゲームの通知。
クラスのチャット。
親友―叶からのメッセージ
『そっち慣れた?』
昨夜、届いていたものだ。
既読もつけていない。
返信しなきゃとは思う。
でも、なんて返せばいいのか分からなかった。
『別に』
『普通』
『つまんね』
どれも違う気がする。
結局、スマホを伏せて天井を見上げる。
中学の頃は、こんなことなかった。
朝が苦手なのは昔から。
でも、|あいつ《叶》が毎朝電話をかけてきた。
『起きて~』
『遅刻しちゃうよ』
『あと五分で家出て』
面倒ではあったけど、嫌じゃなかった。
学校なんて、別に好きじゃなかったけど、行けばあいつがいた。
だから行っていた。
それだけだった。
高校に行って、別々の学校になった。
初めはちゃんと行こうと思っていた。
でも、一回、二回。
遅刻を重ねるうちに、誰も何も言わなくなった。
『葛葉だから』
そういうもんらしい。
遅刻しても、誰も驚かない。
注意されても、最初だけ。
今は俺が遅刻しても、何も言わない。
その方が、ずっと楽だった。
なのに。
昨日のことを思い出す。
『遅刻ですね』
怒鳴るでもなく、呆れるでもなく。
ただ、事実を確認するみたいな声だった。
『理由はありますか?』
俺は何も変わらず。
いつも通りの理由を言った。
『分かりました。席についてください。』
それだけ。
どうせ、そのうち他の先生と同じになる。
分かっている。
分かっているはずなのに。
なぜか、あの先生の顔が頭から離れなかった。
スマホを置いて、もう一度寝るつもりだった。
なのに、次に気が付いたときには制服に袖を通していた。
学校に着いたのは、一時間目が終わったころ。
教室の扉を開く。
「おはよー」
「今日は早いじゃん」
「珍し」
いつも通りの声。
適当に伸びをして、ロッカーに向かう。
教科書を取り出そうとしたとき。
「おはようございます、葛葉くん」
声がした。
顔を上げる。
昨日来たばかりの担任だ。
赤い瞳と視線がぶつかる。
「......は?」
思わず変な声が出た。
怒られると思っていた。
説教されると思っていた。
なのに。
「今日は一時間目に間に合いませんでしたね」
それだけ言って、先生は席に戻るように言った。
怒らない。
呆れない。
ため息もつかない。
「席についてください」
それだけだった。
思わず呟く
「......それだけ?」
先生が不思議そうに瞬きをした。
「何かありますか?」
「別に」
視線をそらして、席に向かう。
変な先生。
本当に変だ。
あんな扱い、最初だけだ。
きっと、直ぐにあきらめる。
なのに。
机に突っ伏して目を閉じても、さっきの声が頭の中で繰り返される。
『おはようございます、葛葉くん』
まるで。
俺が来るのを待っていたみたいな言い方だった。