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終焉の鐘 第八話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
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第八話 ~真っ黒な雪~
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「黒雪──大丈夫か?」
Lastは自分の屋敷のとある部屋で熱を出して寝込んでいる黒雪にそう問いかける。
「Last──大丈夫────じゃない」
黒雪はそういったかと思うと、沢山の血を吐く。Lastは軽く黒雪の頭を撫でてから部屋を出て行った。Lastが部屋を出て行ったのを確認してから黒雪は隠していた体調を露わにする。どんどん顔色は悪くなり、呼吸が浅くなっていった。
「ダメだ──ダメだダメだダメだ────俺はもっと──Lastの役に──────」
「無理はしない方がいい────」
黒雪の言葉を誰かが遮った。黒雪は呆然とそこに立っていた青年を見つめる。
「Lastに任務の間、少し体調が悪い黒雪を見ていてほしいとお願いされたのだが──少しどころじゃないな」
そういった青年こと、紫雲は部屋に何かを広げ、黒雪の体を触りながら何かを作っていた。そして出来上がった物を黒雪に渡す。
「飲め」
「いやです────‼︎」
黒雪は真っ先にそう言っていた。目の前に突き出されている物は気持ち悪い見た目の液体──もしかしたら個体かもしれない物だ。いくら紫雲が調合したものだと言っても、どうしても飲む気にはなれないものだった。
「見た目はともかく、味と効果は保証する」
「味は保証してくれるんですよね⁉︎今確実に言いましたからね‼︎言質とりましたからね‼︎」
「騒ぐ暇があるなら飲め」
そして無理矢理口に流し込まれた。黒雪はそれを飲み込むと呆然と口を開く。
「美味しい────?」
黒雪が漏らしたその言葉に、紫雲はにっこり微笑んだ。
「ほらな?言っただろう?」
そして紫雲は黒雪の寝ているベッドの隣の椅子に腰掛ける。
「黒雪、お前が眠るまでここにいてやる。今は安静にしていろ」
満面の笑みの紫雲に、黒雪は顔が引き攣っていく。
「あの────アンダーボスで上司のあなたが隣にいる状態でスヤスヤと眠れませんよ──?」
黒雪のその言葉に、紫雲は「ん?」と顔をかしげた。
「もしかして──俺のこと意識してる?」
「ハ──────?」
紫雲のその言葉に、黒雪は心の底から信じられない物を見るような感じに声を出す。なぜその思考に結びつくのだ⁉︎と黒雪は内心かなり焦っていた。自分の上司はとんでもない馬鹿かもしれない──と。
「昔──俺が大好きだった人がよく言っていた。意識している相手が隣にいると、ドキドキして緊張して眠れない──と。彼はいつもそう言って、頬を赤らめながら俺を抱きしめて寝ていた」
紫雲のその言葉に、黒雪は何か楽しそうに質問をする。
「その男性、恋人ですか?」
「なっ────」
ニコニコ笑顔の黒雪に、顔を染める紫雲。誰か他の人が見たら異様な光景だろう。
「恋人────ではないと思う。俺に裏社会で生きていくための全てを教えてくれた同年齢の人のことだ。今は──もういない」
黒雪は申し訳ないことを聞いたなと思いながら、どこか遠くを見つめる紫雲を眺めていた。
「まぁ紫雲様、結構イケメンですしね。男も女も何人も侍らせてそうです」
「お前──────俺は全くイケメンじゃない」
「突っ込むとこそこですか⁉︎」
「────?他に何がある?俺は黒雪の方がイケメンだと思うが」
「この無自覚人たらしめ‼︎覚えとけよ‼︎紫雲様イケメンなんだよ‼︎」
黒雪はそう言うとハハっと笑った。いつも冷たい雰囲気の紫雲だからこそ、冷淡で怖い人だと思っていた誤解が解ける。黒雪は紫雲の優しい眼差しにそっと微笑んだ。
「温かい────」
ぼそっとそう呟いて目を閉じる。紫雲は黒雪が眠りについたのを確認してからそっと部屋を出て行く。
そして外に出た時、ふと思い出したように呟いた。
「自分はイケメンなのか────?」
彼の頬は少し赤い。無自覚人たらしが、自分の顔面偏差値を理解した瞬間だったというのは、また別の話である。
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「Lastおはよう‼︎」
次の日、黒雪は元気に起き上がり、Lastにそう笑いかける。
「紫雲様って、すごい優しくて少し馬鹿で可愛いくてカッコいいんだね」
そして黒雪のその言葉に、Lastは首を傾げた。
「紫雲様が────優しくて馬鹿で可愛い──?」
理解できないと言いたそうな顔のLastを見て、黒雪は満足する。自分と紫雲の2人だけの秘密。そう思っておくことにした。
「あ、そういえば。氷夜さんの所にきた新しいソルジャーって誰?ボスが名前を付けたんだよね‼︎しかも氷夜さんも気に入ってるとか‼︎めっちゃ会ってみたいんだけど‼︎」
思い出したようにそう言う黒雪に、Lastは苦笑した。
「今日俺は会いにいくつもりだけど──一緒に行くか?多分──というか絶対黒雪とは気が合わないやつだけどな」
Lastのその誘いに、黒雪は笑顔で頷いた。
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「氷夜兄さん。僕コイツら嫌い」
「Last──俺様今すぐにこのクソガキ殺したいですね──‼︎」
「僕は別に──どうでもいい。てこくん、帰ろうよ。お子様には興味ない。黒雪くんも、レモンくんも、僕にとってはただの他人。勝手に滅んでくれていいよ」
幹部が率いるそれぞれのソルジャーの代表がそれぞれ顔合わせをした結果に、幹部の3人は溜息をついた。
「レモン──この2人は任務で一緒になることも多いだろう。仲良くなっておけ」
「黒雪、だから言っただろう?絶対に気が合わないって」
「七篠。俺も同意見な部分もあるが、滅んでいいとかは良くない。俺が責任を負うことになる──」
それぞれが溜息混じりに説教をするのを、2人遠くから見ている人影がいた。1人は紫雲。もう1人は、変装していない闇雲だった。
「うん。予想通りの仲の悪さだね──。あとは任せたよ紫雲」
「え、ちょ────」
そして闇雲は面倒になったのか笑顔でそう言って去っていく。
「あ‼︎紫雲様だ‼︎」
そして紫雲を見つけて黒雪はブンブンと大きく手を振る。紫雲は軽く顔を引き攣らせた。「黒雪っ──無礼だ。やめろ」というLastの静止を綺麗に無視した黒雪は、紫雲が完全に感情を失った時に浮かべる笑顔を貼り付けている紫雲に走り寄っていく。
「紫雲様‼︎お願いがあるんですけど、七篠とレモンくん消してください」
満面の笑みでそう言う黒雪に、紫雲は助けを求めるように幹部に視線を送らせる。ただ、全員が気まずそうに目を逸らした。黒雪もレモンも紫雲も年齢が近い。「紫雲ならうまくやれるだろうから俺には押し付けるな」というように3人は笑顔で視線を逸らしたのだった。
「首領のせいだ────」
紫雲はそう溜息をついてやけに近い黒雪を引き剥がす。
「やぁ──Lastに氷夜にてこ。俺から視線を逸らすとは──いい度胸してんね?このクソ野郎め──」
「「「え」」」
そして幹部の3人は固まった。紫雲の口調が荒い。「殺される」3人はそう悟った。
「おいLast──どうしてくれるんだ──お前の黒雪が全ての元凶だぞ」
「てこの言う通りだ。Last、お前の責任だな」
「おい、お前ら2人のところのやつらのせいでもあるだろ」
3人は引き攣った笑顔でお互いにそう言い合って目の前でニコニコ笑っている紫雲から少しずつ退く。そこで、紫雲の懐から着信音が鳴る。紫雲はスマホを出して画面を見てから固まった。スーッと空気が冷えていくのがわかる。紫雲は何かに怒っていた。画面を眺めてから電話に出る。
「何のようだ。────っ知らない。────てこ?てこがなんだ。早く要件を言え」
自分の名前が上がったことに、てこは少し驚き、紫雲に釘付けになる。
「──────そうか。ただ、用件を飲む前に確認しておきたいことがある。お前らの首領は誰だ?幹部は誰だ?|終焉の鐘《うち》と敵対したくないなら教えろ」
「教えろって言われましても、困るんですよ」
電話越しではなく、リアルで紫雲に応える物がいた。綺麗な藍色の髪の青年だった。
「ルキア帝国のただのマフィアグループですよ。【地狱的入口】我々のファミリー名です」
「で?お前は?」
「地獄偶人。この名前の形、気になるでしょう?」
偶人のあおるような言葉に反応したのは、紫雲ではなく、七篠だった。
「お前、地獄傀儡の仲間?」
冷たく問いかける七篠を偶人は笑顔でスルーして紫雲に笑顔を向ける。
「紫雲くん、あなたが我々と敵対したいと思っても、闇雲がそれを許さないだろう。我々と闇雲は仲が良い。敵対するのは、終焉の鐘ではなく、あなただけになりますね」
偶人は静かに銃を取り出し、紫雲に銃口を向けながら言った。
「こちらも任務な物でして。てこさんを大人しく引き渡してくれない限り、戦いたくないあなたと戦う必要があるんですよね」
偶人はてこの方を見ながら呟いた。
「てこさんを、正しくはイリアス王国の第3皇子を殺せという任務でしてね。私も失敗という不名誉を背負いたくない人間なので」
偶人は深い笑みを浮かべた。
「とりあえず、邪魔するやつ全員殺しますね」
狂人王者
黒雪
真っ黒な雪