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又旅浪漫
何だかこのハヅキという黒ネコと話すと
調子が狂う感じがする。まあ俺もネコなのだが。
「じゃあ、あんたの主人は
何か野菜作って売ってるんだ。
それであんたはマタタビね。なんかいいね。
いいモノ持ってるってこの辺じゃ有名だし。」
「それはどうも。しかし有名は困るな
ネコは良い物を持ってると狙われる。
特に上、空からな。」
見上げる。空を。
そうだ。気をつけなければならない。
空はとても怖いのである。
空は...
「あんなに良い物を一体どこから
仕入れてるのか気になるけどそれよりも、」
尻尾をくねくねとさせてハヅキが考え込んでいる。
「そんなに沢山ニボシを稼いでどうするの。
リスの道具屋でもアナグマの|干物屋《ひものや》でも、
使いきれない程の沢山のニボシ
もう結構持ってるでしょう。」
「オキナワへ行く。」
急に言い返された言葉に
鈴虫の声だけが聴こえる。
ぽわぽわとしていたら、するりと返答してしまった。
ひと足遅れて夏のいたずらかよ。
「オキナワってキヨシあんた。
ここは灰降る町よ、たまにだけど。
ああ分かったわ、ニンゲンとバカンスね。
なんて羨ましいの、マタタビ吸い込んで
ニボシ片手にビーチで毛繕いってところね。」
あまり喋るつもりは無かったのだが...。
「いや俺だけで行く。|理想郷《りそうきょう》を作るんだ。」
「ああ、怖くなってきたわ。面白い超えて、
あんたの事が怖くなってきたわ。」
もうしばらくすると
俺はここから居なくなるだろう。
それが幸運か不運かなど誰も知らないが
その場を離れ遠くに行かねばならんことくらい
ネコには分かるのだ。
まあ、こいつには幸運と信じて
少しくらい喋ってやってもいいか。
「|特攻平和会館《とっこうへいわかいかん》を知ってるか。」