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「夏の夕方の空に混ざる赤は、殺人現場と良く似ている」
夏の夕方の空に混ざる赤は、殺人現場と良く似ている。と言っても、殺人現場なんて見たことはないのだけど。あるとすれば、いつか叔母さんの香水の匂いがする家で見た刑事ドラマくらいだろうか。血はどうにも好きじゃない。俺は乱暴も痛いのも嫌いだ。
朝起きたら、母さんはまだ寝ていた。昨日も化粧を落とさずに寝たらしい。酔っていたから仕方ない。だけど起きて、化粧を落としていないことに気づいた母さんはきっと不機嫌だ。母さんが不機嫌な朝が俺は怖い。何をされるか分からない。
階段の途中にクッションが置かれていた。ビールの缶もあった。昨日母さんは階段で酒を飲んだらしい。酔った母さんは変なことばかりする。何人目かも分からない彼氏を連れて家に帰ってきたから、急いで子供部屋に逃げこんだことは覚えている。昨日の彼氏さんは、感電したみたいな金髪で、新品の服の匂いがする男の人だった。
母さんが彼氏を連れてきたとき、俺は夜ご飯を食べていた。学校から帰ったら机にお金が置いてあって、それでスーパーにオムライスを買いに行った。俺がよくお弁当を買いにくるのを見て、心配そうな目で見てくる人も何人かいたけど、俺はもう慣れていた。
昨日の母さんは全体的にピンクだった。たぶんあの男の人の趣味なんだろう。母さんはいくつも服を持っていて、よそゆきの服を着ている母さんからは決まって、フルーツジュースみたいな匂いがした。
母さんが今子供部屋で寝ているということは、何もなかったということだ。あの男の人とはウマが合わなかったらしい。母さんはよく俺に教えた。母さんとウマが合う人は、母さんの部屋に入れる。合わない人は帰して、母さんは俺の部屋で寝る。今回は後者だった。ウマが合う人と母さんは、部屋で楽しいことをするらしい。甘いものでも食べているのだろうか。
台所で水を飲んでついでに顔を洗いながら、蓋が開いたままのゴミ箱を見る。母さんが男の人と飲んだらしいお酒の空き缶の下に、俺が食べかけていたオムライスが捨てられていた。半分以上残っていたのに勿体ないことをした。子供部屋に食べ物を持っていくと母さんに怒られるし、かといってあのままリビングで食事を続けていたらもっと怒られただろう。叩かれたかもしれない。叩かれるくらいならこうやって捨てられる方がましかもしれない。でもやっぱり勿体ない。お腹が鳴る。俺はいつもお腹を空かせている気がする。
母さんが起きてくる前に早くご飯を済ませてしまおうと思って、俺は冷蔵庫を覗きこんだ。
未完っぽいけどこれで終わり