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ガラスのような貴方 第4話
「じゃ、行きましょうか」
「お願いします」
体育祭予行2日前の放課後。俺は愛車の助手席に福田先生を乗せて、ハンドルを握っていた。
「まずは本崎中、次に木谷中ですね。どちらも2個ずつ貸して下さるそうです」
「本当ありがたいですよね」
予行は明後日、明日は予行準備だから行く暇はない。すなわち、今日行くのがベストなのだ。車内は空調をつけているが、日の光が入ってくるため少々暑い。特に信号待ちの時間。
「今日の給食、美味しかったですね」
無言だと気まずい、なんてことはないが、BGMも何もない車内では会話が弾む。
「ああ、キムチチャーハンですよね。俺、おかわりしちゃいました」
「私、いつもやりとり帳のチェックに時間かかりすぎて食べる時間あんまないんですよね。おかわりする余裕がなかったです」
「それは残念」
やりとり帳の言うのはうちの学校で生徒一人一人に配る手帳×日記みたいなもので、時間割を書いたり一言日記を書いたりして、それを担任に毎朝提出するのだ。と言っても出さないやつも多いが。
「でも、俺の部活の福田先生のクラスの子から聞きましたよ、先生いっつもやりとり帳の日記にすごいコメント書いてくれるって。それをクラスの少なくとも20人以上の分やってるんでしょう?すごいと思いますよ。俺はいつも一言コメント書くだけで終わりですから」
「中学だと担任と生徒の関わりって小学校と比べたら結構少ないじゃないですか。だから生徒に何があったとか共有してもらうの嬉しくて、私あんまり要領良くないんですけど、ついつい色々書いちゃうんですよね」
「いい先生ですよ。福田先生が人気な理由が分かります」
生徒思いで優しくて、話しかけやすい。中学生の目には大人が敵に映ることもあるだろうが、そういう尖ってる生徒も福田先生は敵に見えないだろう。俺もあんまり反抗はされたことないけど。
「そうですか?それは嬉しい」
「でも、先生って職員室じゃあんま喋りませんよね。無口だけど仕事はしっかりしてるって感じ」
「本間先生とは喋りますけどね」
「確かに」
でも他の先生とは日常会話?というか学習関係以外のことを話している様子を見たことがない。俺が見てないだけで話してるかもしれないけど。
「本間先生は話しやすいので」
「んー、そんなのどの先生も同じじゃないですか?」
「いやいや、先生は特別ですよ」
「はい!?」
ちょっと待ってちょっと待って急に何!?特別とは何を根拠にして言ってるんだ!?
「あ、もうすぐじゃないですか?」
「ほんとだ」
ナビを見ると、あと少しで本崎中に到着するようだった。福田先生の発言が気になるが、一旦頭を仕事モードに切り替えた。
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「無事に借りられましたね」
「やりとりもスムーズでしたね」
無事に2つの学校からテントを借り終え、学校に戻るためにまた車に乗った。
「よし、帰りましょうか。福田先生はもう期末テスト出来てますか?」
「実は、まだなんですよ」
「じゃあ頑張らないとですね」
なんと、今回の期末テストは体育祭のほぼ1週間後にあるのだ。厳密に言うと1週間もないけど。
「本間先生は出来ましたか?」
「1、2年生の分は出来てます」
「あ、そうか3学年分あるんですよね。大変そう」
そう、俺は全学年全クラスの授業を担当しているため3学年分のテストを作らなければならない。ただ、50点満点だしマークシートだから作るのは比較的楽。俺は毎回テストの度に同じ学年の国語担当の先生がに大変そうに問題を作っているのを眺めながら模範解答を作っている。
「あ、先生」
「なんでしょう」
俺は車のルームミラーを見てあることに気づき、信号待ちのタイミングで福田先生の方に手を伸ばす。
「ネクタイ、緩んでましたよ」
「……………ああ、どうも」
俺は先生のネクタイを直し、信号が青になったので走り出した。恥ずかしくて先生の顔は見れなかったが、俺の心臓は自分で音が聞こえそうなほどバクバクしていた。
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「おかえりなさーい。あ、テントありがとうございます。こっちに置いておいてもらえます?」
学校に着くと、体育の先生たちに迎え入れられてテントを校庭の方まで抱えて運ぶ。
「なんか本間先生も福田先生も顔赤くないですか?熱中症とかなってないですか?水分補給ちゃんとしてくださいね」
俺の顔が赤いのはなんとなくわかっていたが、福田先生も赤くなっていたとは。非常に声をかけづらい。
「あとはこっちでやっておくので大丈夫ですよ。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺と福田先生はほぼ同時に体育の先生たちに頭を下げ、俺は早歩きで職員室へと戻った。