公開中
#6 悩み委員会のお悩み相談
超健康優良児である結花が、今日は休みだ。優月先生は、なんか用があるらしい。
今日は珍しく悩みがなく、暇な時間。心葉は相変わらず、本を読んでいる。
重たそうな前髪に、黒ぶちの丸メガネ。メガネのせいなのか、割と目はぱっちり、というか、そんな感じにみえる。いつも眉毛はまっすぐ平行で、口はいつもすこし不機嫌そうだった。髪飾りは見えにくい黒のヘアピンぐらい。
言うなら、結花が休みの今しかない。
「ここっ………涼原、さん」
「何」
ぶっきらぼうな態度が、余計に腹が立つ。このあいだまで、「何ですか」と敬語だったのに、だ。
「心葉でいいってば。大橋も言ってたよ?で、何。用件は」
いや、用件はって…堂々と恋愛相談です、って言えるはずないでしょ。
「恐らくだけど____恋愛だね?」
ぎく。なんで…
「佐々木にも思われてる。だいたい、この年頃の奴は大半がこの悩みだ。バレバレだ、こんな恋愛小説なら、誰も読まないだろうな。いや、新しい感じだから、意外と読むのか…?僕は書く方も好きなんだ、ネタにさせてもらう」
いや、美玖にも思われてたのかよ。というか、どんどん話がそれてる。
心葉は本をぱたり、ととじて、ちょっとにやりと笑っていった。
「大橋が好きだね」
一瞬、ちょっとだけ視界がゆらいで、意識が途切れそうになった。顔が赤くなるのが、自分でもわかる。今、俺、どんな表情なんだろう。
「ほら、図星。こんなにわかりやすいやつ、見たことない」
けらけらと、楽しそうに微笑む心葉が、とんでもなく憎く感じる。微笑む、というより、若干の冷やかしがこもってる小さな笑いだ。心葉は楽しそうに、また続ける。
「あんな鈍感な奴に、どうやってアプローチして、告白して、OKを貰えるかだろう?単純な奴だ」
首をかしげつつ、心葉は言う。
「というか、なんで足立は大橋が好きなんだ」
くるん、と回ったアホ毛が鬱陶しい。なんなんだ、こいつ。
「いや…別に…」
「まあ、言えないのが当たり前だ。せいぜい、悩め。それが青春だ」
ああ、本当にムカつく。
けらけらと笑う、いやみったらしい心葉。きっとあいつは、あいつの言う青春をしたことがないから、こんなことが言えるのだ。
「青春、青春。青春を謳歌しな、今のうちに。まあ、僕の質問に答えたら、僕なりのアドバイスはあげるけど。減るもんでもないだろう?」
__「……だって、性格いいし、勉強もできるし、ゃ、やゃさしい、ん……」__
**「はーい、よく言えました」**
心葉の声で、俺の声がかき消される。萌え袖と思われる、ぶかぶかの上着の袖をぶんぶんふって、心葉は言う。
「まずは自分の長所をアピールしましょう。話はそれから。さ、いいとこは?」
「えー、と…」
…あれ、俺の良いとこ、とは…?
「まぁさ」
「自分でわからないこと、結構あるからな。仕方がない。大橋が一番知っている、なんてこともありうるんだから。んで、いつ?」
「何が」
「告白」
こくはく。
……は?告白ぅ?!
さらりと言う心葉に、俺は戸惑う。いや、よくそんなさらっと言えるな。いやでも、他人のだから当たり前なのか?だけどさ、仲間の恋愛だぜ?
ぐるぐる思考がまわる間に、心葉は淡々と言った。
「僕は言っていいと思うよ?風邪が治った日に。まあ、足立次第だが」
「………」
「さて、これで悩み委員会としての仕事もこなした。僕は帰らせてもらう。放課後に言うといい。僕は早めに帰るから、ゆっくり告白すればいいだろう」
つんと鼻につく喋り方で、心葉は言った。丸メガネをクイッとわざとらしくあげて、くすっと嫌な感じに口角をあげる。
「頑張れ。僕にはそれぐらいしか言うことができないんだ、わかるだろう?」
「……もうちょっと、考えてもいいんじゃねえのか」
「あいにくだけど、僕は恋したことがない。恋愛小説なんて読む気になれないんだ。だから、恋愛は全然わからない。これぐらいが精一杯なんだ。鍵、よろしく」
「……わあったよ」
ぶっきらぼうに言って、心葉は閉じていた本を持ち、ランドセルを背負った。紺色のランドセルはよれよれで、6年間連れ添ってきた相棒、という感じだ。
「健闘を祈る」
そう吐き捨てて、心葉は帰った。
悩み室の戸締りをしっかりして、俺は帰った。