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Chapter 8:火の魔法少女
事情により長くなりました。お時間のある時にどうぞ。
小さい頃、綺麗な光がシャワー状になって出てくる花火がお気に入りで、触ったことがある。
あの電流が走るようで、肉を焼かれていくあの感覚に、似ていた。
気がつけば、バーガンディーのウルフカットだったはずの髪の毛は少し明るい赤になっており、だいぶ伸びている。相変わらずの癖毛はそのままだ。
緋色のケープ型ジャケットに、セットアップのコルセットロングスカート。
胸元には、黒か赤の中間のような色をしたバラのコサージュが付いている。
魔法少女に、なったんだ。
普段だったらテンションが上がっていたところだが、今はそれどころではない。
花「武器はその腕時計に手をかざして、武器よ出てこい!的なこと思ったら出てくる。足の痛みはあそこにいる葉の魔法少女、ミール・リーフェーズに頼めばなんとかしてくれます。」
だいぶアバウトな説明をする安藤さんだが、今は詳細を語る暇はないだろう。ま、僕も理解できる余裕はないからこれくらいがちょうどいいよねー。
花「頼みます。火の魔法少女、『ロジエ・バンカー』。」
聞き慣れない呼び名に背筋が伸びる思いでサテンでできた履き心地のいいストラップシューズで地面を踏み締める。そして、まだ軽く痛む足首を堪えながらアキレス腱を解放した。
ピストルも笛も鳴らない。でも、行かなきゃ。
僕は夢解星羅じゃない。魔法少女、ロジエ・バンカーだ。
腕時計に手をかざすと、鉄製の持ち手に水牛の筋が貼られたクロスボウが出てきた。
矢は…と思っていると手元に矢形の炎が現れる。
その矢をクロスボウに構え引いて離すと、驚くほど正確にサティロスの心臓部分に命中した。
雄叫びを上げることもなく、サティロスは溶けていく。
だが、どこまでも湧いて出てくるサティロスたち。
ロジエ「ミール・リーフェーズ、大丈夫?」
あの少女──ミール・リーフェーズは、僕を捉えると、呪文をこちらに送った。
ミール「【フィールライフ】。足、治った?」
スゥッと足の痛みが消え、あれだけ痛かったのが嘘みたいだ。
ロジエ「うん。こいつ、倒すよー!」
ミール「わかった。後方から援護する。」
愛らしい容姿の割に無愛想に返事をすると、彼女は僕の3歩後ろまで下がった。
ふは、と声がでる。
さぁ、倍返しだ。サティロスども。
僕がどんな顔をしていたかは知らないが、一瞬こちらをみたミール・リーフェーズが引き気味に目を逸らしたことから概ね想像できるだろう。
ピーナッツを打ち砕くが如く、ぶっ潰すぞー!
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ミール「づ、がれたぁ…家帰って寝たい…」
ロジエ「そだねぇー…」
サティロスの駆除はあれから2時間ほど続き、普段運動しないタイプであろうミールちゃんは死にかけている。
呼び方が変わってるってー?
そりゃ、2時間共闘してたんだもん。絆も芽生えるでしょー!
ミールちゃんの変身が解けたと同時に、僕の変身もパッと解けた。
土埃まみれののミールちゃんの顔と、綺麗な服がミスマッチで思わず笑ってしまう。
そのことを伝えるとミールちゃんは不服そうに頭を叩いてきた。
星羅「痛いなー、もうー!ミールちゃんったらー!」
「元の格好に戻ったんだから、ミールちゃんはやめろって。」
星羅「えー?可愛いのにー!」
「…はぁ…斗霧芽衣。適当によんで。あんたは?」
星羅「夢解星羅だよー。よろしくねーめいちゃん!」
自然と口角が上がった状態でそう呼びかけると、めいちゃんは『ちゃん、ねぇ…』と微妙な反応を見せた。
花「うっひゃー!だいぶ荒れたねぇー!後処理はこっちでやっておくから、大丈夫。」
星羅「安藤さんー!無事だったー?」
芽衣「安藤さん…?」
めいちゃんの方を見ると、顔が引き攣っている。解釈不一致といった具合だろうか。
花「安藤さん、ねぇ。確かに他人行儀だわぁ…あ、そうだ。これ給料。」
給料なんてあるんだ…と思っていると、目の前に渋沢栄一3枚がこんにちはしてきた。
花「危険手当みたいなもんかな。……これでも足りないくらいなんだけど。」
ごめんね、と言いながら安藤さんは30000円をめいちゃんと僕に渡す。
めいちゃんは普通に受け取ったので、僕も受け取っておいた。
ふと、その万札達に一枚の名刺が挟まっていることに気がついた。
花「あぁ、その名刺。私の連絡先だから。また活躍してもらうと思うし。」
芽衣「えぇ、またやるの?」
星羅「まぁ、ここまできたら後には引けないよねー」
紙を取り出すと、連絡先と住所、メールアドレスを書き込んでいく。
2人に配ると、芽衣もその場で連絡先をくれた。
数年前まではスマホを使えたのだが、今は電話線すら繋がっているか怪しい。
こうやって紙を使ったほうが楽だ。住所も書いたから、手紙も届くはず。
そう、住所。
書いてしまったからには、帰らないとな。
彼女らがこの場所を知っている。それだけで、あの場所──児童養護施設のことを、帰る家として認識できる様になった。
給料をもらったことで電車賃は出た。帰れない理由もない。
そんなことを思いながら、駅に向かって歩いていった。