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平安京に縁結び 〜1 朝霧の朝霧の別れ〜
湖上舞香
**──序章──**
霧が深く立ち込める、朝のことだった。徐々に明るくなっていく道を、ひたすら歩いていく。
山草を摘んだ籠を背負い、冷たい獣道を踏み締める。家は貧しく、村長から理不尽な仕打ちばかり受けているけれど。私には大好きな父と母、そして友達もいる。
不自由は多くても、私は確かに、この生活が好きだった。ひたすらに歩き続けているうちに、ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。
(私たちが血にじむ思いで育てた作物や、命がけで採取してきた山草は、一体どこへ消えているのだろう──)と。てっきり国への年貢、つまりお国への納めものかと思っていた。
だが、それにしてはあまりにも量が多すぎるのだ。毎年、領民が食っていけない分まで根こそぎ持っていくような、無慈悲な陛下ではないはずだった。
世間一般では、雲の上のやんごとなきお方たちは皆一様に偉そうにふんぞり返っている、という印象が根付きがちだ。だが、この国の陛下は意外なほどに心優しいお方であった。
むしろ、その周りを取り囲む役人や権力者たちこそが、陛下の名を使って偉そうに振る舞い、私腹を肥やしている場合が多いのだ。
この村の村長もそいつらと同じだ、と私は言い切れる。
今言った通り、村長は無駄に年貢をとっているのだろう。
そんな嫌な村長のことを思い出して、なんだか嫌な気分になった私は、気を紛らわすために「今日の〜夕飯は〜何かな〜」なんて自作即席の歌を大声で歌いながら帰っのだった。
私は、今一刻一刻と、家族を失う時が近づいていることに気づいていない。✵─────────✵─────────✵────────✵────────✵
「おい、お前のかっちゃが!」
「八尾、母ちゃんがどうしたの⁉︎」
人の感情にも自分の感情にも疎い私だが、今、何かすごいことが起こっているのは空気感からわかった。
私の女友達、いや、大親友である八尾は、まくし立てるように言葉を続けた。
「お前のかっちゃが、攫われたんだよ!」
「えっ⁉︎」
──あるなあ、と私は思った。 自分の親をこういうのもどうかと思うが、母ちゃんは絶世の美女だ。その辺をのんびりと散歩していたら、見知らぬ男に声をかけられるくらいの存在感だ。
その遺伝子が自分にも継がれているのかどうかは私にはわからない。田舎のちっこい村なんかに姿を映すための銅鏡などは絶対にない。先ほど話していた、糞村長たちが住んでいる郷にならあるかもしれないけど。
……ん? 郷?
前に、村長が母ちゃんのことを欲しいと言っていたような気が……。
「八尾、怪しい奴らって見なかった⁉︎」
「ん、黒子みたいな格好した奴らがこっちに向かって行ってたぞ」
八尾は「多分、だけどね……」と言いつつ、川がある方──南を指差した。
分かれ道に立てかけられている看板には『橋を渡ったら郷』と記されている。
「もしかしたら、母ちゃんはそっちに連れ去られたのかもしれない……!」
「えっ、本当? でも流石にすぐ行かない方がいいんじゃ……」
八尾の制止も振り切って、私は橋の方へと全速力で駆けて行った。