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奇形植物
hutazuki
いきものです。
やあ、不特定多数のみなさん。
「皆さんは、奇形植物というのを知っているかい?
奇形と聞いて、動物の奇形を思い浮かべた人は多いのではないだろうか。
確かに、そちらのほうが、耳にすることが多いだろう。
一つ目のサメ、頭が異常なほど大きい赤ん坊、二つの顔を持つ亀…たくさんある。
奇形というのは、動物だけに限ったものではない。先ほども書いた、植物もだ。
それは、帯化(たいか)という。特に、エンドウ、イチゴ、ジャガイモなどの、農作物で多くみられる。
多肉植物や、花弁がついた花にも見られる。
植物で帯化が確認されたのは、約800種に及ぶ。
その見た目は、「不快」と、捉えてしまう人が多数いるかもしれない。
だが、生き物というのは、美しくもありグロテスクな一面があるものだ。
でもみな生きているのだ。だから、「生き」物なのだよ。
どれだけ醜いだろうが、捨てられようが生き物は生き物だ。
面白いだろう?
生きていればどんなものだって「生き物」に入るんだから。
人間もマグロも鹿も熊もバラも死にかけでもどんな見た目でも。」
なんて、僕にとっちゃあ微塵も関係ないけど。
そうして僕は、「植物」とだけ書かれた薄い本を閉じ埃っぽい本棚に戻す。
「まったくコレクター癖、直してほしかったものだよ」
父の散らかった部屋を見ながら何度も思ったことだ。
「ん?」
僕は、たくさんの本の下敷きになっているものを取り出す。
「これは…」
それは、さっきの本の挿絵にあった、「奇形植物」のドライフラワーが入った瓶だった。
「これが、奇形植物ねぇ…」
その瓶をまじまじと見た。
確かに「不快」と感じてしまう容姿だった。
だが、なぜそう感じてしまうかは、分からなかった。
何なら魅力も感じてしまった。
「これが遺伝って奴か…」
初めてそんなことを思った。
あんな父親の遺伝子が自分の体の中に入っていると思うと寒気がする。
奇形植物を父のデスクに置いた。
「片付けしなきゃ」
そう思い、また片づけを始める。
だが、なかなか床が見えてこない。
本が信じられないほど積み上げられており、なかなか作業が進められないのだ。
「うう、少し休憩しよう…」
重い本を持ち、負担をかけてしまった腰をたたきながら歩くと、
ガコッ
本に引っかかって転んでしまった
「…っ、いったぁ…」
どうやら、足をくじいてしまったらしい
「歩けない…」
イライラしながら立とうとしていると、
ドサッ
「いった!もう!今度は何!」
落ちてきたのは本だった
上を見上げると、
大量の本が落ちてきていた。
さっきつまずいた衝撃で高く積みあがった本が落ちてきていたのだった。
「きゃあああああ!」
ドササササァァ…
「…う、ぐ、ぐるじい…」
「だれか…助けてぇ…」
<いやーかわいそうだね>
「!」
「た、たすけて!」
<たすけないよ>
<ていうか助けれない>
<自分は君がさっき持ってた奇形植物さ>
<もう死んでるから君を助けることはできないんだ>
<もうじき君も死ぬんだろうけど>
「も、いぎがっ…」
<埋もれちゃってるねぇ>
<君が死んだら自分と同じ感じになちゃうね>
<君も他人が見れば奇形なんだから>
…そうだ、僕には左手首から先がない
<でもね>
<さっき君が読んでた本のことなんだけどもさ>
<どんな容姿でも生きていればみんな生き物だみたいなこと書いてたじゃん?>
<僕も元は生き物だからわかるんだけど>
<生きていても生き物って認識されないことってあるんだよね>
<今の君がいい例じゃない?>
<今かろうじて生きてるけど、はたから見たら「もうすぐ死ぬ人」っていう感じで生存の可能性をあきらめて、通り過ぎていくでしょう?それって死ぬってことと同じじゃない?>
<僕もこの見た目のせいで、残飯を見るような目で見てきて、後世に残すために写真を撮って、最終的に摘んでポイさ>
<それもこれも死んでることと同じっだと自分は感じてる>
<君はどう思う?ってもう死んでるか>
<ご清聴ありがとうございました。>
<奇形君>
展開がジェットコースター並み。