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#03
ルドは一人、廊下に立ち尽くしていた。エンジンが去った後も、自分の顔が熱いのがわかる。怒り、恥ずかしさ、そして少しの情けなさ。それらがごちゃまぜになって、胸の中で渦巻いていた。
「くそっ……俺が勝手に勘違いしただけ……か」
呟いた言葉が、廊下に虚しく響く。
(そうだ。あいつは何も嘘をついていない。俺が勝手に……)
そう頭では理解しても、どうにも釈然としない。レイラの態度を思い返せば、別に年齢をごまかそうとしている風には見えなかった。ただ単に、ルドが聞き足らなかっただけ。だが、その結果、自分が盛大に勘違いし、エンジンに馬鹿にされたのだ。
「ああ、最悪だ……」
壁に背を預け、ずるずるとしゃがみ込む。レイラの顔を思い浮かべると、どうにも気まずい。次に会ったら、どんな顔をして接すればいいのだろうか。
「……別に、謝る必要はないだろ」
そう自分に言い聞かせる。謝るべきことなど何もない。ただ、自分の勘違いを彼女に知られるのが恥ずかしいだけだ。
「……いや、待てよ」
ふと、ルドは閃いた。
(このまま、なかったことにすればいいんじゃねぇか?)
(そうだ。俺が勘違いしたことなんて、レイラも知らない。エンジンはバラすようなやつじゃないだろう。このまま何事もなかったかのように振る舞えば、何も問題ない)
よし、そうしよう。そう心に決め、ルドは立ち上がった。
その時、背後から声がした。
「ルド?なして、こんなところさ」
ゾワリと、背筋が凍りつく。
振り返ると、そこにはレイラが立っていた。手に何かの荷物を持っている。
「っ、レイラ!」
「……顔、真っ赤だよ。熱でもあると?」
レイラは不思議そうに首を傾げた。その表情はいつもの通り、無感情で、ルドの動揺など少しも知らないといった様子だ。
「ち、違う! なんでもねぇ!」
「そうけ……? けったいなやつ」
レイラは興味なさげに、ルドの横を通り過ぎようとする。ルドは慌てて、彼女の腕を掴んだ。
「お、おい! お前、今からどこに行くんだ!?」
「ザンカのところに、荷物を届けに…なんもさ」
「いや……なんでもねぇ!」
ルドは掴んだ腕を離し、再び口を閉ざした。どうにも言葉が出てこない。この場で「誕生日、いつなんだよ」なんて聞けるわけがない。
レイラは小さく首を傾げた後、再び歩き出した。その背中を見つめながら、ルドは心の中で叫んだ。
(ああ、もうダメだ……やっぱり、恥ずかしい……!)
🔚