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過去に希望を持ってって!
皆さんはタイムスリップって知ってますか?
まぁ、簡単に言えば過去や未来に移動することですね。
私は今、昔から伝わっているタイムスリップができる洞窟を探しているんです。
え?話が唐突すぎる?
…たしかにそうですね、順番にお話ししましょうか。
私は澄風 梨乃|《すみかぜ りの》と申します。お気軽に梨乃と呼んでください。
それで私がタイムスリップをしようとしているわけですが…
彼氏が何者かに殺されたんです。
彼の名は橋縁 賢|《はしぶち けん》。
ケンって賢いという漢字なのに、よく補習に引っかかって…私が勉強を教えてました。
それでよく関わりあって…彼の方から告白されました。
付き合ってまだ3ヶ月なのに...本当に辛いです。
そこで私は思いつきました。
タイムスリップで過去へ戻り、殺されるのを防げばいいんじゃないかと。
過去は変えられない、変えてはいけないという考えの方もいると思います。
でも、もうこの辛さに耐えられないんです。
大切な人が突然いなくなって…別れも告げられてないのに。
これは世界が変わるとか、悪化するとかではなく、一人の命を救うことですから。
...どうか見逃してください。
まぁそれよりも本当にタイムスリップできるのかが問題ですし。
ただの言い伝えであって、実際にタイムスリップした人は聞いたことないですし…。
でも、こういう時に希望を捨ててはいけないと私は常に思っているんです。
この考えのおかげで、何度も助けられましたし。
それでさきほどから山奥の洞窟を探しているわけですが…
なかなか見当たりませんね...噂では青色の光を発していると聞いたのですが。
って冷たっ...!?
え、なんですかこれ、急に足元が、濡れて...。
赤くて...鼻をつく独特な臭い。
血、ですか…。
まさかこんなところで見るはめになるとは。
誰かが怪我をしたのでしょうか…血が奥まで続いていますね。
少し、追ってみましょうか…でもこれ一体どこまで続いているんですか…?
あれ...ここは...。結構奥まで…来たようですね…。
とりあえず、あそこの洞窟で一回休むとしますか。
洞窟...?
あぁ、これが...!?
タイムスリップできる洞窟ですか…⁉
まさか血が導いてくれるなんて…!!
待っててください、賢君。
あなたは私が、助けてあげます。武器も持っていますし、これで大丈夫。
こんなに上手くいくとは思っていませんでした。それでは画面の向こうの皆様、ご機嫌用。
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あ、いけね。溜息が。
もうこの溜息の原因は分かっている。
彼女だ。
昔はバカだった俺に付き合って優しく勉強を教えてくれた。
俺は外見よりも性格が好きだ。だから俺から告った。
彼女も嬉しそうに了承してくれた。
…けど。
あきらかに彼女がおかしかった。
ちょっと外出するたびに場所と時間と一緒にいた人物を聞かれ、浮気を疑ってくる。
そのうえメッセージの返信や電話の着信を少しでも遅れると永遠にといつめてくる。
この前は既読スルーをしただけで3時間は泣いた。
正直言って、疲れた。
たしかに俺が悪いのかもしれない。
でも、俺だって少しは自由が欲しいんだ。
誰かに束縛される生活は、嫌いだ。
大丈夫?と、横の羽生 紅亜|《はうう くあ》が心配そうにこちらを見つめている。
大丈夫だよ、と俺は笑顔で返す。
紅亜とは1週間前に知り合った。
初めはサークルの同じメンバーというだけだったが次第に話が合い、よく会うようになっていた。
彼女は、俺のことを心配してくれた。
彼女と話すだけで俺の心は癒された。
…この現場を梨乃に見られたらなんて言われるだろうか。
きっと彼女はずっと泣いて、紅亜のことを許さないだろう。
いや、俺のことだって許さないに決まっている。
そんなことを考えていたら突然、紅亜が足を止めた。
横を見ると顔は真っ青で、血の気がない。
「…どうした?」
そう言いつつ俺も前を見る。
そこにいたのは…
「賢君...?どういうこと…???」
そう。梨乃だった。
先ほどまでいなかったのに突然目の前に現れたのだ。
疑問と言い訳を考えていると、梨乃のほうから口を開いた。
「ねぇ…私に言わないでなんで二人きりでいるの...?その女は誰…?」
ぞっとするような目つきと口調。こんな声は今まで聞いたことがなかった。
言い逃れしようと考えたが、彼女の冷たい目はじっとこちらを見つめている。
これは...言い逃れできそうにないな。
真実を語ろうとした瞬間、隣にいた紅亜が前に出た。
「元々はあなたが彼を束縛しているからよ!!彼ずっと悩んでいたのよ!!」
しまった_と思ったころにはもう遅い。
紅亜はとても正義感が強く、思ったことはなんでも正直に言ってしまうタイプだ。
俺が彼女に愚痴っていた時も、紅亜は「別れたらいいのに」とか「完全に向こうが悪いじゃん」とかばかり言っていた。
その時から紅亜は梨乃と会わせてはいけないなと思っていたのだが。
最悪の状況だ。
「私が…賢君を束縛...?そんなわけない、私はただ賢君を」
「嘘言わないで!!あんなの監視よ!彼だってずっとあなたに構ってられないのよ!!!」
遮られた影響もあって、梨乃の表情がますます険しくなる。
その辺にしようと俺が言いかけたが、紅亜は止まらない。
「ほんっとーにいい加減にしなさいよね!!彼ほんとに悩んでいたんだから!!!話聞くだけでも大変そうなんだけど、あなたほんとに大丈夫!?一回精神病院かなにか行った方が」
と、そこで会話が途切れた。
かわりに、俺の頬に生暖かい液体が飛び散った。
独特な香り。
恐る恐る横を見る。紅亜の顔には包丁が刺さっていた。
紅亜は驚いたままの表情で、崩れ落ちる。
刺さっていた包丁が抜けると、紅亜の周りに血だまりができる。
「ねぇ、賢君。」
梨乃が先ほどとはまた違った口調と目つきで話しかけてきた。
それでも、俺の寒気と鳥肌はやまない。
「どうしてこの女と二人きりでいたの?」
彼女は笑っていた。しかし、目の冷たさは変わっていない。
うまく言葉が出てこない。喉元でつっかかっている感じだ。
声を出せ、俺。
「…そう。黙秘するのね。あなたの癖だから仕方ないけど。」
仕方ない。その言葉に俺は僅かな希望を見つけた。
そうだ、癖ということでこのまま黙っていれば...。
と、数秒前の自分の考えを愚かだと思った。
自分の腹にはナイフが突き刺さる。不思議と痛みは感じなかった。
未だに痛みよりも恐怖が勝っていたからかもしれない。
「ごめんね賢君…。」
目の前にいる彼女が涙声で言っているのが分かった。
「こちらこそ、ごめん。」そう言いたかったが口に力が入らない。
いや、その時にはもう全身に力が入らなくなっていた。膝を落とし、瞼を落とす。
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「賢君…。」
彼が完全に瞼を閉じた姿を見て私は呟いた。もちろん彼から返事は返ってこない。
ふいに視線が横に動く。そこにあるのは紅亜の死体だった。
そうよ。こんなやつがいるから賢君は死んだんだわ。この死体は捨てましょう。
…って結構死体って重いんですね。引きずるのが精一杯。どうしましょう...。
そうだわ、川に流しましょう。ついでに彼女の衣服に石をいれて、川底に沈めましょう。
ここは丁度人目もつかないし、絶好のチャンスだわ。
あら、皆様見ていらしたのね。
何をしているって、見ての通り死体処理ですわ。
手伝わないならはやく別の場所へ行ってくれます?目立つし邪魔ですわ。
…え?私がこれからどうするかって?そうねぇ…
とりあえずタイムスリップで現代へ戻ります。そこへ彼の死体を運びますわ。
多少血は出ていますが…問題ありません、引きずったら運べますし。
…彼を救えなかったのは残念ですけど。
そろそろお別れの時間ですわね。短い間でしたが、わたくしもいい時間を過ごせましたわ。
それでは、ご機嫌用。
どうも、いかがでしたでしょうか。
これ、この後彼女どうするんでしょうね。
タイムスリップってややこしい…。