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10.帰村
「またな、ヒビキ様。」
別れを惜しまれて、帰路につく。
「うむ、またな。」
なぜか、響は尊大な言葉で返すのだった。神子の振る舞いも板についてきたというのだろうか、だが、また村に戻ったら、この振る舞いともおさらばである。
(裏切られたかもしれない、と思ったりもしたけど、みんなやさしい人だったし、何も問題はなかったな。)
「ヒビキ様はどんなことができるのですか?」
そう、村で神子について、聞きまくった。その結果、以下のことが分かった。
・神子は、頭がよく、想像力が豊かであり、我々に恩恵をもたらしてくれる。
まとめると、それだけである。
そして、それは当たり前だと思われることであった。
頭がいい……学校に通っているから。この村ではどうやって知識をつけているのか、響は疑問に思ったりした。
想像力が豊か……先進的な生活を送っているのだから、実際に見たりしているだけ、想像力は豊かであると言えるだろう。そして、響は、なんで今までに複数もの神子があらわれているのに、こんな原始的な生活を送っているのかを、疑問に……思わなかった。当たり前である。そうならない設定を貫いていると響は考えているのだから。
我々に恩恵を与えてくれる……(え?与えていいの?)響はこう思った。もちろん、村のためにもそんな迷惑行為を響が行うはずがない。
「私も想像力が豊かですよ。」
頭に関しては……一部のものにしか響は興味がないため、いいとは言えない。だから現に触れていない。そして、恩恵は与えないので、それに関しても触れない。
いろんなことができると思っていた村人は、さぞかしがっかりしただろう。
「他には……?」
他にも何かあるはずでしょう、とでも言うように響を見てくる。
「私が与えられるのは発想力だけです。」
響は神子らしく大仰に答えてみた。
「では、何か一つ……」
「私はまだ修行中のみですよ。今だって修行の一環でこうやって過ごしているのです。失敗するわけにはいかないので、むやみに与えたくはありません。」
矛盾している。響は昨日、確かに村長の娘だと伝えたはずである。それなのにそれを修行としていいものか。いや、よくない。
……もっとも、響は、村長の娘としてこういう場に出ていることを修行だと思っているかもしれない。
「戻……ただいまもどりました。」
思わず「戻った。」と、尊大に言ってしまいそうになった響。だが、何とかとりつくろえた……のではないだろうか?
「おう、仕事はちゃんとやってくれたと息子から聞いた。」
「あのー。」
「なんじゃ?」
「私、行く必要ありました?」
「あの伝承を知るだけでも意味があったじゃろう。」
「え?」
どうやら、村長はあの村の伝承を知っていて、響をその村に行かせたらしい。
「それは……また仕事を増やしてもらわなくてはなりませんね。」
「いや、別にそこはいいぞ?」
「でも……」
「大丈夫じゃ、この村にあの伝承はない。」
そんなことは気にしていない。まあ響としても、仕事が減って面白いネタを得ることができたのだから、いいことだらけだろう。
「そうですか……」
強引に納得することにした。
「あと、この馬、もらえませんかね?」
「それは無理じゃ。すまんな。」
「やはりですか……」
響もダメもとで聞いただけだ。
「それで、最後の仕事じゃが、」
おや?
「最後?」
「そうじゃよ?」
「いえ、そうならいいんです。」
「そうか?それで最後の仕事じゃが、ちょっと村で問題が起こっていてな、それを解決してくれ。」
響は耳を疑った。
(みんなが解決できないものを、私が解決できるわけないじゃん!!!)