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#13 夏休みの宿題なんて嫌だ!
『夏休み、楽しみなんですけど宿題が絶望的です。とにかく勉強ができないので教えてください! 5年2組 七せつむぎ』
裕くんとの手紙とともに投函されていた悩み相談。わたしと優月先生、宙と心葉の2ペアにわかれて解決をする。うーん、喧嘩していないといいけどな。
「結花ちゃんは、勉強得意なの?」
「まあ、はい。けっこう100点とれます。宙より成績いい自信だけはあります」
「ああ…勉強嫌い嫌い言ってるから、そりゃそうよね」
うん。宙を比較対象にしたら、87%は成績がいいだろう。いや、97%か?
「5年生の内容…今の時期って、何やってましたっけ?」
「えーと。1000倍とかの整数と小数」
あー、それすっごい簡単だった気がする。
「直方体、立方体の体積」
計算すっごいめんどくさかったなあ。
「比例」
6年生と5年生の勉強の根本だ。
「小数のかけわり算」
分数(6年)のほうが楽である。
「合同な図形」
それも割と簡単だったよなあ。
…と、各単元に一言ずつコメントしていきつつ、わたしは唸る。だいたい引っかかるのは、比例と小数だろう。宙に教えていたことも相まって、教え方を考える。
「だいたいつまずくのって、比例と小数ですよね」
謎だよなぁ。だって小数は小数点をずらすだけだし、比例だって仕組みが理解できてれば簡単だ。
…思い込みすぎか。
「あと4日だし、最後か。うわ、さみしい」
そう思いつつ、5年生教室に到着っと。
「すみません、七瀬さん」
優月先生がそういう。
「はいっ、優月せんせー?」
「勉強のことなんだけど」
そう言って、さりげなーくわたしはたずねる。
「勉強、どこかわからないとことかある?」
「うーん…小数とか?あっ、あと比例!」
はい、ピタリキター。
うん、元気タイプだな。こういうタイプは、勉強<友達タイプで、友達と目一杯遊びたいけど9月1日痛い目みるタイプだ…(偏見)。
そう言われたわたしと優月先生は、限られた時間で苦手分野をみっちり教えてあげた。理科と社会もつまずいてるらしいから、それも。
あんまり書き高がないから、今回は割愛〜っと。
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「たっだいま〜」
今回は昼休み、本当に休むことができる。ふぅ、疲れた。
「結花、だったっけ?」
「ん、どうしたの?」
ぼさついた髪を振り向かせ、わたしの名を呼ぶ。
「ちょっ、返事…!」
慌てて美玖が止める。その横で、
「あんた、暇?」
とキツめの声をかけてくる女子・水木真奈。彼女はわたしを見ておらず___
心葉を見ている。
「なんだ。僕は読書で忙しいのは、目に見えてるだろう」
戸惑ってると、
「君さ、いつもどこか行ってるけど、どこ行ってるの?」
「えっ…」
言葉に詰まる。
悩み委員会のことは、言ってはいけない。この人に相談するのは嫌だと思って、悩みを打ち明けられなくなる___
話しかけてきたのは田中圭一。態度がおっきくて、ちょっと苦手だ。勉強はできるらしいが。真奈と心葉の冷徹な言い争いをよそに、わたしはまた戸惑う。
「何が言いたいんだよっ」
そう宙が吐き捨てた。
「はっきり言ってもいいなら言おうか?」
どき、と心臓が跳ね上がる音が聞こえたような気がした。何言うの?
「夢物語なんだよ、全部。皆が皆、ちょっと勉強を教えられただけで、賢くなるわけがない」
「…そんなことだったの」
思わず声がこぼれた。死ねとかじゃなくて、一安心。…という気持ちのほうが大きい。
「夢って…」
「違うと私は思う!」
そう声を張り上げたのは__佐山あかりちゃん。
「だって私、大橋さんに勉強教えてもらったもん。それで、多少なりとも点数は上がったと思う。夢物語なんかじゃないから。頑張ったらがんばった分だけ、じゃなくて、頑張ったらなにかなるから。勉強したっていう達成感だって得られる」
あかりちゃんに勉強を教えた記憶が、次々と蘇ってくる。
「なにかひとつは覚えられるから。絶対。真剣に勉強と向き合ってたら、絶対になにかなる。わたしも、あかりちゃんと同じ。頑張ったら、その努力とか、達成感とかが得られる。成績がすべてじゃないし」
「…」
少し沈黙が走った。すらすら出てきた反論に、矛盾がないかひやひやする。
やがて圭一は椅子から立って、教室を出た。わたしとすれ違ったとき、小声で囁いてきた。
__「仲間がいてよかったな」__
__わたしはまた、敵対視されてしまうのだろうか。