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嫌いな彼と
部屋の隅に置かれた小さな箱を見つめる久我。
その中には、いつも隠してきた過去の欠片が詰まっていた。
幼い頃の記憶は、怒声と鉄拳の音で満ちていた。
父の拳が母の顔を打ち、母のすすり泣く声が夜を裂いた。
久我はいつも、ただそこにいることしかできなかった。
誰かが泣いても、誰かが怒鳴っても、
自分だけは強くならなきゃと、ただ耐え続けた。
ある日、幼い久我は、父に殴られたあと部屋に閉じ込められた。
壁の冷たさが肌を刺すなか、誰も助けてはくれなかった。
「お前が悪いんだ」
父の言葉が胸を締めつける。
その日から、久我は自分を責め、誰にも心を開けなくなった。
母はいつしか笑わなくなり、家の空気は冷え切っていた。
学校では明るく振る舞い、友達と笑うこともあったけれど、
家に帰るたびに押し込められる孤独が、彼の心を蝕んでいった。
そんな彼が唯一、心の支えにしたのが「悠馬」だった。
悠馬の優しさは、久我にとって救いだった。
でも同時に、悠馬に依存しすぎてしまう自分に気づいていて、
その弱さがまた不安を呼んでいた。
久我は、過去の痛みを胸に秘めながら、悠馬にだけは本当の自分を見せていた。
時に強がり、時に不安をぶつけ、でも決して離れたくない――
その切ない矛盾が、今の彼を形作っていた。