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禍福は糾える縄の如し
「紫妖苑 天神」及び「紫妖苑 魅怪」の視点で進みます。
兄上を探しに、地上へ降りてきた。地上は人間で賑わっていた。
燦々と輝くお天道様は、兄上や天照大御神様にそっくりで、少し安心できた。
山、海、村、町...色んな所に行って。行く先々で願いを叶えたり、人助けをしたり。
でも、中々兄上は見つからなかった。妖怪に聞いても、情報は得れず。
時間の流れが違うのか、数年、数百年、いや、数億年程経っていた。
新月の夜、曖昧な記憶が急に鮮明に頭を廻り、不安が込み上げる。
(お月様は何処ですか?いつものように、煌々と地上を照らして見守ってください...)
心の中で呟けど、月は答えなかった。不安で、我はいつの間にか泣いていた。
「貴方、大丈夫ですか...?」
聞き覚えのある声に、顔を上げる。目の前には、赤い目の、角の生えた妖怪がいた。
...兄上だ。姿は変わっても、変わらず優しい目で、我を見つめている。
『...兄上...』
咄嗟に出た言葉だった。それを聞いた兄上は、少し困ったように笑った。
「...貴方の兄だったかもしれない。でも、自分の名前すら忘れてしまった。」
兄上は、そう言いながら、我を見つめる。
『...童のことも、覚えてないか...』
小声で呟く。また、涙が零れそうになる。
「.....天神?」
ふと、兄上は、童の名前を口に出した。
『!?』
覚えているのか?自身の記憶も無いというのに?
「...天神なんだな...良かった、天神が生きてて...嗚呼、忘れなくて良かった。」
何だか懐かしい、とても優しい眼差し。
罪悪感が自分を苛む。何故、あの時忘れてしまったのか。
『...我が其方を、忘れなければ...』
声が震える。自分が忘れなければ、こんなことにならなかったのに。
何故、忘れた?何故、忘れてしまう程度で信仰が途絶えた!?
くぐもった声は、感情のほんの一部しか表せなかった。
「...天神のおかげで、僕は消えずに済んだ。」
『......どういうことじゃ...?』
「本当は消えるはずだったが、例外的に天神の心の奥の願いが、消えずに残った。」
...何故、例外なのか。願いとは何か。疑問だらけだった。
「...天神が禍苛よりも強いからなのか。」
一旦区切り、我の目を見つめる。
「本来抗えぬ術に勝てる程、天神の気持ちが強かったのか。」
そう言うと、兄上はふっと優しく笑いかけてきた。
『...童の...我の、心の奥の願いとは...?』
「...大切な者が、居なくなりませんように。それが、貴方の願い。」
...言われてみれば、我は...童は、大切な者のことについて、いつも祈っていた。
『...先代様が、叶えたのか?』
あの頃はまだ先代様が、願いの神だった。
「いや、天神自身で叶えた。強い想いが、力となったんだ。」
我は、驚きで言葉を失うと共に、自責の念が押し寄せる。
「...名前を、僕につけてくれないか?」
『...?兄上は、名が既に...』
「それは、神様の名前だ。|妖怪《僕》の名前じゃない。」
その言葉にはっとした。
...もう、「赤天妖 陽火魅」という存在は無くなったようにも感じた。
『......赤妖火、それが今の其方の名じゃ。其方の記憶が全て戻った時、真名を教える。』
「...分かった。有り難う。」
...これなら、「赤天妖 陽火魅」という存在が完全に消えることはないはず。
いつの間にか、夜が明けていた。そういえば、兄上は夜更かしが苦手だった。
ちらりと兄上を見ると、やっぱり眠そうにしていた。
『...わざわざ夜中に、童の所に駆けつけてくれたのか...』
嗚呼、昔からそうだった。
童は夜は起きていたが、兄上は何かあった時はすぐに起きて、駆けつけてくれた。
兄上は姿を術で消して、眠ってしまった。
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それからは、兄上が傍に居てくれた。夜は寝たまま姿を消して傍に居た。
兄上は妖怪を統べる存在でもあった為、童はその手伝いもしていた。
結果。数年、数十年くらいに一度妖怪を童が統べることになった。
「天神」と「魅怪」の切り替えも上手く出来るようになった。
人助けをし、願いを叶え、悪を善に導き、時が流れていく。
**そして、「君」に出会った。**
最後の「君」は誰でしょうねぇ.......え、ねぇ天神マジで最後の「君」って誰?(((主コメ)