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***の前にブランデーを
どーせ、何したって変わんない。この状況は。
同期が変なおじさんに持ち帰りされようと、法律に則ってない客が来ようと…私には関係ない。
今に飽きたら
「別れよ。」「つまんない」「気分上がんないから。」
って言うだけだもん。さっさと捨ててしまえば良い。
安っぽい嘘くさい愛なんか与えられたくない。それなら独り身で充分。
店であって、お持ち帰りされて、夜を越す。出会いとしてはすごく不格好だけど私はそれで良かった。
この男とだって明日には忘れるんだもの。高望みはしない。
|そういう《・・・・》事するのは決まって金曜日。次の日が店の休業日だからね。
馬鹿みたいにたった5時間しか愛し合って交わるこの金曜日。
でもそれすらも終わってしまう。今日でさよなら…だね。
くだらない金曜日だと思ってたけど、最後だと分かって寂しくなってる自分がいる。
今やっと気づいた。私はこの1日のためだけに生きてきたんだって。ずっと縋り付いてちゃダメだけど。
あーあ。でもそれが何?最後だからって金曜日のルーティーンは変わらない。
サービスの前に、グラスにブランデーを注いでもらう。あぁもちろん私の金じゃないよ?
「ブランデー?何高望みしてんだよ。」
「でも、私と夜を越すときはそれがルールなんだよ?」
「いちいちうっせーな。分かったよチップおいてきゃ良いんだろ。
気分下がった。部屋代は払っておくからさっさと帰れ。」
「…何それ」
泣くつもりなんかなかったのに。自然と瞼から溢れた雫を強引に拭った。メイクなんて構わず。
なんか、私まで馬鹿みたいじゃない?…何が起きたって関係ないんでしょ?
…飽きたらただ捨てれば良いんだから。
たった1日の関係なのに愛し合ってた。その一瞬だけ。でもこれが最後の魔法の金曜日。
最後ぐらい、あなたの手でブランデー注いでくれないかな。グラス、空いてるよ。
ブランデーの上品な音が辺に響く。大丈夫だよ。今日の思い出はすぐそばにいてくれるだろうから。
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あの日から、数年がたった。血迷った毎日を送ってた。まぁでもこんな事すでに夢の中だから。
確かにあの日より満ちた毎日は送ってない。どうせだんだんと壊れてく。
でも良いの。忘れてもすぐそばにあるんだから。今日は金曜日。なんにもない金曜日。
この一瞬で魔法は解けた。