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一
「素敵な瞳だね」
そう言った彼の瞳を、私はいまだに覚えている。
どこか寂しげで、悲しげで、どこか安心したようで、嬉しそうで、———
———切り裂かれたような傷跡は、もう彼の中に魔力がないことを表していた。
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その日、おつかいを頼まれていたことをすっかり忘れて、慌てて急いで買いに行っていた。
慌てて急いでいるので、走るのは当然で———
ドン、と誰かにぶつかってしまった。
自分の小柄な体ではバランスを保てず、その場に尻餅をついた。
「……危ないだろ。そんなに道を爆走すんな」
私の脇の下に腕を通し、そう言いながら体を抱き起こしたのは、知らない男の人だった。
「あ……すみません」
やはり急ぐものではない。頭を下げながら、そう思う。
そのうちに、トントン、と肩を叩かれた。顔を上げろ、ということだろうか。
恐る恐る上げると、彼と目が合った。切り裂かれたような傷跡。
自分の顔を、瞳を、じっと見つめている。彼の瞳に、私の黄金色の瞳が映っている。
「あ、の……?」
恋愛経験があるわけではない。あまり見つめられると、ドギマギしてしまう。
しばらく彼は、じっと私を見つめていて、ふっと口を開いた。
「……素敵な瞳だね」
その声と、その瞳と、私はどこかで会ったことがあるような気がした。
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「またいたのかよ」
ある日、おつかいついでに店の中を物色していると、誰かに話しかけられた。
振り向くと、あのときの男の人だった。最近よく会う。「レオ」という名前らしい。
「またいたのかって、こっちのセリフです。何で私の行く先行く先、あなたがいるのよ?」
私が反抗的に答えると、レオは目を細めて笑った。
目を細めてもなお見える傷跡が痛々しい。思わず視線を逸らしてしまった。
「……どうした?」
目を背けて黙り込んだ私を不審に思ったのか、レオが不思議そうに尋ねてきた。
「いや、……目の傷が痛々しいな、って」
なんとなく誤魔化せなくて、そのまま言ってしまう。
レオが大きく目を見開く。そして、ふっと笑った。
そうかもね、と言った彼の声は、空中に転がって消えていった。
「ところでさぁ」
露骨に話題を変えて、レオが話を切り出した。痛いところをついてしまったようでなんとなく気まずかったので、ありがたかった。
「ここで何してるの?」
ぐるりと店の中を見回しながら、聞いてくる。
「見て回ってるの」
それだけ言うと、「ふーん」という何とも興味のなさそうな反応が返ってきた。
何、自分から聞いておいて。
むっと唇を尖らせていると、「じゃあ俺もう出るわ」と手をひらひらさせながら出口に向かっていく。
すれ違いざまに、|囁《ささや》き声が聞こえた。
元気そうでよかった、と———