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怨恨ノ京 #10 京と播磨の奇怪な連鎖
#10 京と播磨のライバル図式
このごっちゃになった状況に、和尚は一つ手を鳴らした。
みんな和尚の方に目をやる。
「宇京さん、左夜宇さん、こちらは播磨守様のご子息、和子様と赤穂様です。播磨守様は播磨法師団の支持者でのう、赤穂様とはるあきは昔から仲がよかったんじゃ」
はるあきは久しぶりに親しい仲と会えて嬉しかった、ということだ。
それなら先程の意味不明なはるあきの言動も、説明がつく。
しかしなぜ、大国の国主がこんな寺で泣いているのか、という宇京の疑問をすぐさま察知し、和尚は話を続けた。
「播磨守一家は先程、窃盗団に押し入られて、財産を全て取られた上、窃盗団の主君と名乗る陰陽師に『呪いの札』を貼られたのじゃ。その札のせいで出世は憚られ、今や財宝もなく散位となってしまわれたのだ」
和尚の話が終わるなり、宇京は心の中で
(様ぁ見あがれ)
と密かに喜んでいる。
それはいけないことだ、と心では分かりながらも、どうしても嬉しいのだ。
だが一つ、宇京にも左夜宇と同じく『播磨守』という言葉が引っかかっている。
大昔に一度、聞いた事があるような気がするのだ。
そして、左夜宇も同じ気持ちだった。
(播磨守…昔、父上から聞かされたような…それになんだろう、この赤穂殿を恨むような気持ちは…)
「あっ…」
左夜宇のパッと何かを閃いた声に、皆が一斉に振り返った。
左夜宇自身も、手のひらに拳をポンと置く。
「播磨守殿、大納言…いや、|三河守《みかわのかみ》を覚えてはいませんか?」
「三河守…!もしや其方、三河守の息子の左夜宇君…?」
播磨守もわぁっとスッキリしたように声を出す。
悩み悩んだ末に思い出すのは気持ちがいい。
事を話せばこうだ。
左夜宇や赤穂が産まれる前、大納言は三河守、播磨守は|淡路守《あわじのかみ》だった。
二人は親友でありライバルであり、瓜二つと言われたほど実力も学業も同じ程だった。
しかし、こんなに出世離れしたことに苛立ちを覚えた播磨守は、大納言との仲が裂けはじめた。
さらに、数年前まで愛人・嘉を奪い争っていた仲だ。
それ故に播磨守と大納言は、自分たちでもいつの間にか不思議なくらい仲が悪くなっていたのだった。
この話を聞くなり、宇京も何か思い出した。
眉間に眉を寄せ、播磨守に責め立てる。
「お前、播磨守とかいったな」
「そうじゃ、ワシは播磨守じゃ」
「じゃあお前か、父ちゃんを殺したのは!」
宇京は数年前の幼き日に逢った出来事を思い出した。
あの日は昨日のことのように覚えている。
物騒な武器を持ち構え、父・弧介の前に現れた男二人は言った。
「『播磨守』様からの命だ、早く米を出せ」
宇京がいつものように裏口から出ようとしている間だったために、よく聞き取れはしなかったものの、『播磨守』という言葉は今も耳に残っている。
自分たちの食べるものさえないのに、ほんの一握りの米を奪うだけ奪ってのうのうと生きているー
宇京は、目の前にいる播磨守一家が憎らしく見えた。
「父ちゃんの仇だ!」
そう叫び、宇京は播磨守に近づいて、その拳を顔めがけて無意識にやり込んだ。
「ちくわの食べ尺!」
はるあきの声で、宇京の動きはぴたりと止まる。
ぎゅっと目を瞑っていた播磨守も、ゆっくり片目ずつひらく。
一寸もないくらい拳が目の前にあったので、さすがの播磨守もか弱い変な声をあげて逃げ出した。
「父上!拳から逃げるなど、男の恥晒しです!」
赤穂は父が殴られようというのに、興味津々で止めもせずにこの言動を見ていた。
「一旦落ち着きなさい」
和尚がもう一度手を鳴らすと、全ての声がやむ。
そして手を鳴らすと同時に、和尚が術を解いたのか、宇京が再び動き出した。
しかし宇京も、一旦冷静になる。
「宇京さん、最初からお話し願います」
「ふん。私の父ちゃんはあんたらの米のために死んだんだ!なのにその苦労も知らないで!」
「お前、農民の娘か。身分もないのに何を言うておる」
播磨守は鼻息を一つ鳴らして、腕を組む。
まるで大納言そっくりな、その偉そうな態度に、宇京は再び拳を入れようとしたが、赤穂の方が早かった。
「お前…!それでも本当に国司か!」
「そうよ父上。あまりにも酷い行いだわ」
播磨守は宇京の代わりに赤穂や和子につねるなり殴られるなりして、散々だ。
「尻に敷かれておりますな…」
散々罰を受けた播磨守は、宇京に向き直り、むすっとしながらも大人らしく詫びた。
当然、宇京が許すはずもないが、あんなに罰を受けたんだからと、少々満足したようだ。
それにしても、お互いの過去に起きた出来事の連鎖は只事ではないと左夜宇が何かを感じた。
親同士の仲が悪いこと、はるあきが道満の仇を取ろうと晴明と対決したこと、宇京の父を殺したのは播磨守だったこと。
何か共通する事があるのではないかー
左夜宇は只ならぬ出来事に巻き込まれたのかもしれない、と寒気を感じているのだった。
久しぶりの更新
赤穂君やっほー!