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第9話:楽園の裏側
感情の境界線が崩れ、人間らしさを取り戻し始めた彼らにとって、ファントムの非情な命令は、もはや絶対的なものではなかった。彼らは、自らの意志でファントムの真の目的を探り始めた。
玲華の情報収集能力が火を噴いた。彼女は、これまでの任務で得た断片的な情報、報酬の金の流れ、そしてターゲット間の共通点などを徹底的に分析した。
「分かったわ」
--- ある夜 ---
玲華は深刻な面持ちでタブレットを操作しながら言った。
「ファントムの狙いは、裏社会の支配だけじゃない。彼は、特定の技術を持つ企業や研究機関をターゲットにしていた。そして、私たちが抹殺してきた人物たちは、偶然にもその技術に関連する者たちばかりだった」
「技術?」
雷牙が眉をひそめる。
「どんな技術だ?」
「人体工学、神経科学、記憶操作に関する最先端技術よ」
その言葉に、4人は息をのんだ。「記憶操作」という言葉が、彼らの心をざわつかせた。
「……まさか」
と白藍が呟く。
「あの『楽園』は、記憶操作の実験施設だったのか?」
「確証はないけど、可能性は高い」
玲華が続ける
「あの洋館は、外界から完全に遮断されている。そして、私たちが見た豪華な生活は、もしかしたら、都合よく記憶を植え付けられたものだったかもしれない」
仄は、白藍との穏やかな日々が、全て偽りの記憶かもしれないという事実に震えた。
「そんな……嘘よ。あの時、白藍くんは本当に笑ってた」
「仄、落ち着いて」
白藍が仄の手を握る。
「たとえ記憶が操作されていたとしても、僕たちが感じたことは本物だ。僕たちの絆は、偽りじゃない」
雷牙は、怒りに燃えていた。
「あの野郎、俺たちを駒として利用していただけか!」
「彼の最終目的は不明だけど、私たちを感情のない完璧な暗殺者に仕立て上げることだったのは間違いないわ」
彼らが信じてきた「楽園」は、甘美な檻であり、ファントムという冷酷な男の実験場だったのだ。自分たちの人間性を奪われ、利用されてきたという事実に、4人は深い怒りと絶望を感じた。
その時、ファントムから新たな連絡が入る。
『次の任務、準備しろ』
メッセージを見た雷牙は、スマートフォンを握りつぶしそうな勢いで睨みつけた。
「今度は何だ。次の実験台か?」
彼らはもう、ファントムの指示に盲目的に従う駒ではなかった。自分たちの意志で、真実を明らかにし、偽りの支配から抜け出すことを決意した。
「私たちは、もうファントムの思い通りにはならない」
白藍が静かに宣言する。
「真の自由と希望を求めて、この檻から抜け出すんだ」
4人の目は、もはや楽園への執着ではなく、未来への希望に満ちていた
🔚