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【第3話】君の音が聞こえない。
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本番後、各自解散で僕はキャンパス内のカフェテリアに寄った。
ホットコーヒーを飲みながらほっと一息をつくと、日頃の疲労がどっときたかのように身体がだるくなった。
___疲れすぎたな。
窓の外を見ると、小さな雪がちらついてる。バイトとか、年末調整とかで忙しすぎて、季節なんて気にしていられなかったな。クリスマスが近いからか、そこら辺のカップルたちが浮かれてる。
…バカみたい。浮かれるカップルたちも、代わり映えのない日常をただただ過ごす、僕も。
別に刺激を求めている訳じゃない。このままでいいけど、本当に“これでいいのか”って…うん、何言ってんのかわかんないな。
だらだらしてても何も生まれないなんて、分かってるし、でも、今はとくになんの目標もない。やっぱ出会いとか、趣味とか…持つべきだよなぁ。
その時、隙間風を感じる。カフェのドアが開いたらしい。目をやると、またあの時の女性。
ここまでよく会うと、そろそろなにかの縁を感じるな。
彼女はキョロキョロと周りを見渡した、と同時に僕と目が合った。するとパッと笑顔になり僕の席の方へ駆け寄ってくる。驚いて思わず身構えてしまう。彼女は何も言わず席に座ると、ノート、シャーペン…と、僕のハンカチをポケットから取り出す。
___え?なんでこの人が僕のハンカチを。
彼女はゆっくりノートに文字を書き出す。
数秒後ノートには
“発表会の後、これが落ちてたんです。前、持ってたの見えちゃって。”
と綴られていた。
あぁ、あの時か、と思い当たる節があった。
あの日____そう、彼女と僕が出会った日。演奏会や、大切な日にはあのハンカチを持っているようにしている。
あの部屋を間違えた時、僕が片手にあのハンカチを持っていたのが見えたのだろう。それも、あのハンカチは元カノから貰ったもの。
今でもずっと持ってるのは、僕の中の寂しさを埋めるためかもしれない。そんな大切なハンカチだった。
落としてしまっていたのか。大切と言う割には、管理がなってなかったな、と反省しながらも、彼女にしっかりとお礼を言う。
「ありがとうございます。とても、大切なハンカチなんです。お礼に、コーヒーとか、1杯どうですか。奢るんで…」
このくらいのお礼は必要だろう。と、誘ってみる。
彼女はノートに“いいんですか?じゃあお言葉に甘えて。”と書いた。
すみません、と言って定員さんを呼んであげると、彼女は慣れたようにノートを見せた。そこには“カフェラテの、甘めで”と書いてあった。定員さんは何も言わず軽く会釈すると、キッチンへ去っていった。彼女が喋れないことを知っていたんだろうか。
注文の品が来るまでの時間に、流れる沈黙。なんとなくいずらい空気に最初に声を発したのは僕だった。
「あの、お名前はなんと言うんですか?」
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