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駄作
【「究極の小説家」ヒット作生み出せず駄作】
その新聞の見出しを見た時、ただただ絶句するしかなかった。
|美空夢羅《みそらゆら》。最初は「変わったペンネームだな」と思い、彼女の書いた「煌めいた光」を興味本位で手にとってみただけだった。でも、そこからどんどん引き込まれていった。
彼女は『究極の小説家』と言われていた。本屋大賞を何度も掴み取り、その繊細な表現と丁寧な描写、綺麗なストーリーで読者を魅了していった。わたしも、そのひとりだった。
毎年1冊、彼女は作品を生み出していく。毎年100版を超えていたのだが、最近は落ち気味であった。ついに、今年は87版になった。
十分すごいのに___
美空夢羅にしか書けないストーリー。美空夢羅だけの表現。美空夢羅ならではの描写。彼女は今まで8冊書いてきたが、どれも美空夢羅らしい作品だった。
ヒット作だけが、美空夢羅を構成する要素じゃない。ヒット作かなんてどうでもいい。誰かのヒット作なら、世間の駄作でも___
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「ダメだよ、こんなありきたりな。美空夢羅?こんな馬鹿げたペンネーム、誰も使ってないよ」
パンッパンと、原稿用紙を机に叩きつけた編集長は、また深い溜息をついた。
美空夢羅は、自分の境遇とまったく同じだった。自分は売れない小説家で、ヒット作は生み出したことがない。でも、苦しいのは美空夢羅と同じだった。
「いい?ここもそうだけど、世間に認められるかどうか、が全てなのよ。それが嫌なら、ネットで公開するなり、自費出版するなりしなさい。わかった、咲良まり?」
「…すみません、書き直してきます」
美空夢羅ってペンネーム、ちょっとお気に入りだったのに。
編集長は、もうわたしのことを『咲良まり先生』と呼んでくれなくなった。別に、そんな呼び名のことはどうでもよかった。
「…もうやめよう、かな」
誰か1人の心に残ってくれればいいのに。何がいけないのか、もうちょっと教えてほしかった。何が?全てが、よ。そんなことを言われそうだ。
見上げた夜空に、光が煌めく。
すらんぷです