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17.神殿3
祈祷室に行ったわ。一生懸命、彼女たちが救われるように祈った。自分の罪が軽くなるように祈った。
あぁ…わたくしは彼女たちを救えなかった。彼女たちとともにありながら、彼女を救えなかった。
そして、人を傷つけた。人を殺す覚悟が…わたくしにはなかった。だから、被害も増えた。そうやって、被害を増やしてしまった自分が、憎い。
どうか、救えなかった彼女たちに救いあれ。
わたくしの罪を軽くしてほしい。許してほしい。
そう願い、気付いたら、寝ていた。
そして、知らないところにいた。
目の前に男の子がいた。
「大丈夫?」
「ここは…どこかしら?」
「ここは、僕達の楽園だよ。ようこそ。クラン・ヒマリア。歓迎するよ。」
「なぜ、名前を知っているの?」
「僕がここに君を呼んだから。君のことは把握しているよ。」
どういうことでしょう?
「あなたは、誰?」
「僕は…なんて呼ばれてもいいよ。」
「他の人には何て呼ばれているのかしら?」
「そうだね。心、って呼ばれているよ。」
「そう、心ね!よろしく。歓迎してくれてありがとうございます。」
心、心の神。呪いを司る神。
わたくしは、それにまだ気づいていなかった。
「一緒に遊ぼうよ!」
「いいわね!何をしましょう?」
「そうだなぁ、鬼ごっことか?」
あぁ…孤児たちと一緒だ。
「いいわよ。じゃあはじめはわたくしが鬼になるわ!10,9,8…」
心はどこかに消えていた。
かくれんぼではない。鬼ごっこだ。さっきまで、心の方をずっと見ていた。
それが、一瞬にして消えた。
「やってやろうじゃないの。かくれんぼも入れてくるなんて…!」
あちこち走り回った。
食べ物は、神殿の生活に慣れたのか、気になっているものを食べた。
…これ、よく怒られなかったわね。かってに人の楽園のものを食べたというのに。
川も、滝も、崖も、山も、森も、いろんな物があった。
飽きなかった。だから、眠くはならなかった。ずっと探した。
孤児たちなら…木の上、水の中、穴の中、いろんなところに隠れる。わたくしが見つけられなかったこともざらだ。
だから、心のこともまだ探せていないところがあるはず。
4日目。
ふと、違和感を感じた。影に。
しゃがんで触ってみる。何も以上なんてあるわけが…ない…わよね。
「触られちゃった。」
心が影から出てきた。
「どういうことなの?心。しかもあなのお友達も見つからなかったのよ」
訴えたわ。
「自己紹介をもう一度するね。僕は心、神の一柱だ。」
「えぇぇ!」
驚いたわ。
「気づかなかったの?」
「えぇ。」
「そうなんだ。」
「ねぇ心、鬼ごっこがまだ続いている中悪いんだけど、寝てもいいかしら。」
「いいよ。クランは寝ないで探してくれたんだもん。鬼ごっこも一旦終わろうか。」
「ありがとう…」
気づけばさっきまで起きていられたのが嘘のように眠くなっていた。そして、眠りに落ちた。
「おやすみ。」
そう言った心は、独り言を呟く。
「寝ないで探してくれたのは、探すことを諦めなかったのは、君が初めてだよ。僕を…最期まで探してくれて…見つけてくれてありがとう。」
そう言った心の顔は晴れやかだった。
「あなたには…そうだなぁ、祝福になるものをあげよう。最終日が、楽しみだ。」
そう言って、彼もクラン・ヒマリアの横で眠った。
5日目。
目が覚めた。昼に寝たのに、今も昼だった。
わたくしったら、24時間も寝ていたのかしら…?恥ずかしいわ。
そう言って隣を見ると、心がいた。
こうしてじっくりと見ると、可愛らしい顔をしている。
「楽園に呼んでくれて、ありがとう。おかげで、あなたを探している間は、あのことを忘れられた。」
そう囁いた。
心が起きた。
心とは、色んな話をした。楽しい話、怖い話。
心は、神様として見てきたいろんな人の生涯を教えてくれた。
神殿を守り抜いた男。実力に囚われすぎて破滅した男。みんなを救った女。
いろんな話があり、楽しかった。
7日目。
今日が、心いわくお別れの日だそう。
最後に、餞別をもらった。
わたくしへの餞別は、「約束」の呪い。
「呪いが餞別なの?」
「そう、それがここの決まり。今までの人はみんな僕を探すのを諦めちゃったからあんまりいい呪いをあげてはないけど…クランは特別。僕を見つけてくれた。だから『約束』。これは、約束したことは絶対に守れる呪い。ねえ、約束しよう。ここでのことは絶対にしゃべらないって。」
「約束したらどうなるの?」
「絶対にここでのことを言えなくなる。ここの事自体は言えるけど…内容は言えないから言わない方がいいと思うよ。」
「ならいいわ。『約束』しましょう。あなたもいえなくなるの?」
「僕は…別枠だよ。ありがとう、クラン。」
「楽しかったわ。」
「最後にもう一つ餞別を考えてきたんだけど…」
心が言いにくそうに言った。
「何かしら?」
「クラン…この前、嫌なことがあったでしょう?それの記憶をなくしてあげようかな…って」
「いらないわ!」
「…どうして?」
いけない、強くいい過ぎでしまった。
「あの子達のことは忘れたらいけないのよ、きっと。」
「そっか、けどそのままで戻っても嫌な思いをするだけだよ?」
図星だった。
「だったらどうなの?」
「クランが忘れたい時に忘れ、思い出したい時に思い出せるようにする。」
「…!そんな事ができるの?」
「そうだよ。神様だもん。」
「お願いしてもいいかしら?」
「うん」
そうして、私は神殿の自室に戻ったのだった。
夢の伏線回収完了!