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終焉の鐘 第二部 第四話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
青年は不気味に微笑み笑いかける
青年は不気味に微笑み動き出す
青年は────────
全員の感情が全てを闇へ突き落とす
「所詮ただのレストラ共和国だ──紫雲にはもっと良い場所がお似合いだよ」
朱色の髪の毛を綺麗になびかせ、青年はそう言って微笑んだ。
「兄上は狂っている‼︎」
「孌朱様は俺のせいでっ────」
「なぁLastくん。君、何か忘れてない?」
複雑な関係が、全てを狂わし惑わす──
孌朱は紫雲に告げたとさ。
「それならもう勝手にしろよ」
紫雲は涙を流したとさ。
「何も出来ない自分が、1番嫌いなんだ」
────────────
「ふざけんな」
────────?
「あなた達は狂っている‼︎どういうことですか、紫雲様‼︎」
「兄上は狂っている‼︎」
「どういうことだ────なぜ屑洟兄さんを────」
「屑洟なんていう使えない雑魚は勝手に滅んでくれて助かったよ────全ては君のためなんだ」
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第四話~動き出す歯車~
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「久しぶりだね───」
暗い夜、明かりがついた屋敷で、ガラクタは目の前で感情のこもっていない笑顔を浮かべている孌朱にそう声をかける。
「君の方から来てくれるなんて、嬉しい限りだよ」
くるくると銃を回しながら、ガラクタは孌朱に微笑みかける。
「今日、俺がここに来たのは仮にも自分の兄上である貴方に挨拶をしに来ただけです。全くもって、兄上に協力するつもりはありません」
無表情でそう言う孌朱に、ガラクタは微かに微笑みを浮かべる。
「そっかぁ──そしたら、困ったな。少しの乱暴は許してね?」
そして素早い動きで孌朱に攻撃を仕掛ける。力強く床に押し付けられた孌朱は、不気味に微笑んだ。
「兄上は絶対に、俺たちには勝てない」
そう言って意識を手放した。
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「昨日から、孌朱様との連絡が取れなくなりました」
レストラ共和国王城執務室にて、1人の青年はそう報告する。
「昨日から───?こちらでも黒雪が昨日から見当たらないんだ」
そして、青年ことLastに話しかけられた紫雲は不思議そうに顔を傾げる。
「一度俺の方から通信機で連絡を入れてみよう」
紫雲はそう言うと、懐から小さな通信機を取り出し、孌朱に通信をかける。
雑音と共に、繋がった通信機をみて、Lastは目を見開いた。何回連絡しても繋がらなかったのが、一発で繋がったのだ。
『あぁ───君、誰?』
そして通信機越しに鳴り響いた声に、紫雲を息を呑む。
“孌朱じゃない”
誰ですか?と小声で尋ねるLastに、紫雲は静かにと意味を込めて指を立てる。
『ん、あぁ、もしかして紫雲?』
ちょうどよかった。という声とともに、紫雲は顔を顰めて呟いた。
「なぜ孌朱の通信機を───」
『明日までに“紫雲1人で”フェリンド帝国まで来い。君の大好きな黒雪くんと、君のことを愛している孌朱がまってるよ』
「まて──────」
紫雲の静止を聞かずに、容赦なく通信は切断される。Lastは通信が切れたのを確認すると、紫雲を心配そうに見つめた。
「誰ですか──なぜ今の男は紫雲様のことを────」
「話すと長くなるから今度話す。俺は今からフェリンド帝国まで行く。何かあったら氷夜と協力して国を回しておいてくれ」
Lastの問いから逃げるように紫雲はそう言うと部屋を出て行った。
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「わぁ───君なら来てくれると思ってたよレストラ殿」
フェリンド帝国の城に、待ち伏せしていたかのように、綺麗な朱色の髪の青年──ガラクタが紫雲を迎え入れる。
「どういうことだ、ガラクタ────いや、ガーラン・フォン・フェリンド殿?」
綺麗な金色のフェリンド帝国の紋章がついた服を着ているガラクタに、紫雲はそう問いかける。その様子を見て、ガラクタは楽しそうに目を細めた。
「立ち話もアレだろう?中に入れ。歓迎しよう」
ガラクタはそう言うと、丁寧に紫雲を招き入れた。
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「俺はね、今少し後悔してるんだ。こんな面倒なことになるくらいなら、屑洟なんかに君を任せなければよかったなぁってね」
予想外に出てきた名前に、紫雲は目を見開く。
「なぜ、屑洟兄さんを」
「彼が君たちに依存しているのは知ってたからね。協力してあげてたんだ。しばらく紫雲を味わわせたら、屑洟を殺すかなんかして奪い取ろうかなって。ついでに君の愚兄を処分出来そうだったし」
ガラクタのその言葉に、紫雲は目に鋭い光を宿わせる。
「ふざけんな‼︎屑洟兄さんのことを利用するなんて───それに、ユーガは愚兄じゃない」
紫雲の罵声に、ガラクタはにっこりを微笑む。そして紫雲の腕を無理矢理引っ張り、顔を近づけた。
「君さ、誰にでも優しいのは良いことだけど、その性格は裏社会にも王族にも向いていない」
どす黒いガラクタの声に、紫雲は軽く動揺する。ニコニコの笑顔の奥で、目が笑っていない。冷たい無表情な目で紫雲を見据えていた。
「ユーガ・リラーナ・レストラはただの愚かな男だ。裏社会の帝王だとかいうくだらない名前を持っていたが、所詮それもその程度。結局彼は屑洟よりも弱かった。王族が土下座をして懇願するなど絶対にあってはならない。それを躊躇いもなく行うあの男はただのクズだ。クズで馬鹿でアホで愚かなガキ。そんなガキの弟がお前だ。あんなやつと一緒になるなんてありえない。お前はそんなことになってはならない。あんなやつを王位継承権第1位なんかにしたレストラ共和国なんていう国に、君を留めさせるのは気に食わない」
流れるように出てくる言葉の一つ一つを紫雲は聞き取るにつれて顔を顰めていく。目の前にある、綺麗な朱色の髪から除く鋭く冷たい紫の瞳が、しっかりと紫雲を捉えていた。
「ごめん。ちょっと怖かったかな?」
そして呆然としている紫雲に気づいたガラクタはにっこりといつも通りの微笑みを浮かべた。
「ついてきな。孌朱と黒雪くんに会いにきたんでしょ?」
ガラクタのその言葉に紫雲は頷くと、案内された場所についていく。一つの扉を開けたそこの部屋の光景に、紫雲は息を呑んだ。
一面に広がる血
そこで倒れている大切な人
一気に昔の映像が脳に流れ始める。
「ゥ────ァ────」
紫雲のその口から漏れた言葉に、黒雪を守るように、覆いかぶさるように倒れていた孌朱が反応する。
「紫雲────様?大丈夫です。俺は生きてます。黒雪も生きてます」
消え入りそうな孌朱のその言葉に、紫雲は我に帰ったかのように孌朱を見つめる。そして、不気味に濁った孌朱の目を見て顔を顰めた。
「ガラクタ、どういうことだ────‼︎」
紫雲の罵声に、ガラクタは冷たい目で孌朱を見つめてから言った。
「少し黒雪くんを調教しようって思ったら、いつまで経っても愚弟が黒雪くんを守るから。守れないように、見えないように軽く失明させただけ」
ガラクタはそう言うと、いつからか手に握っていた銃を黒雪に向けながら微笑んだ。
「俺からの最大限の干渉だ紫雲。俺は屑洟みたいに君から全てを奪うつもりなんて全くない。俺との約束を果たしてくれないかい?紫雲。そうすれば、共和国や君の部下に危害は加えない」
「逆は、言わなくてもわかるよね?」そうい言ったガラクタは、黒雪にむけている銃の引き金に力を込める。
「紫雲様────いや、シーラン‼︎ダメだ‼︎絶対ダメだ‼︎あの約束だけは、絶対に、果たしてはいけない‼︎あの約束は──────‼︎」
孌朱は紫雲の昔の名を叫んでから、縋るようにダメだと繰り返す。
「黙れレーリ。次は耳を撃つぞ」
孌朱に向かってガラクタが発砲した鉛は孌朱の腕にあたる。ポタポタと孌朱の腕から血が流れて行くのを見た紫雲は、辛そうに顔を顰めてから口を開いた。
「やめてくれ────それ以上孌朱を傷つけるな───それ以上俺の部下に手を出すな」
「交渉成立で、いいんだね?」
静かに頷く紫雲に、ガラクタは嬉しそうに微笑み、倒れている黒雪を優しく抱き上げるとそれを紫雲にわたす。
「流石に俺も悪魔じゃない。こっちに来るのは明日で良いよ。黒雪くんはちゃんと解放するし、今日は紫雲の好きなように過ごしてね」
「孌朱は──」
「レーリはこの国に残す。危害は加えないから」
「ごめん────レーリ兄様」
誰にも聞き取れないくら小さい声でそう呟いた紫雲は、静かに身を翻し去っていった。