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泥を啜る。
Prologue/泥を啜る。
眉尻を下げた笑い方があの人と似ている。回る赤色灯。鋭い銃弾と、赤い花弁。謝る声と、硝子の割れる音。
また、何もできないままアイツの影が伸びていく。
--- 「夜くん」 ---
ドッと鈍い音が地下道に響いた。腹部に衝撃が走る。背後から水滴が垂れる音がする。昨晩の雨だろうか。地面も薄く汚れ、濡れている。真上から車の通る音がする。サイレンも聞こえる。
俺は、こんな所で何をしているのだろうか。
「お前のせいで」
低い男の声が響いた。チカチカと蛍光灯が点滅する。
「お前のせいでオレの人生狂っちまったんだよ!!!」
その勢いのまま、胸ぐらを掴まれた。頭を革靴で踏まれ、地面に擦りつけられる。頬に冷たい水と地下道の床の感覚が残る。口の中に泥が入った。目も泥水で染みている。目の前には大きな男の影。酷く取り乱していた。その男が憔悴しきっていることは、目の下のドス黒い隈と、乱れた短髪から安易に想像できた。俺はその影をぼーっと眺めていた。
「こんな息子なんて、居なければよかったのに」
男はそう言い放ち、地下道の影に消えていった。怒りが残る背中が遠くなっていく。ふと、その背中に手を伸ばした。そのまま手を点滅している蛍光灯にかざしてみる。泥や血がこびりついて擦り傷だらけだった。黒くて真っ赤なこの手を、自分のモンだと思いたくなかった。
俺は、何処で間違えてしまったのだろう。