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TAKE
気がついたら、知らないところにいた。
砂漠のような黄土色の大地。夕暮れ時のような|茜《あかね》色の空。高速で流れる白黒の煙。何もかも呑み込むような静寂は、自分の呼吸音も心拍音も、そして存在をも かき消していく。
———ここは、どこだ?
ザ、と後ろで音がした。振り向く。———誰かがいる。
自分よりも、背は低い。|華奢《きゃしゃ》な体つきだった。肩までの黒髪。少年とも少女とも見分けがつかない、中性的な顔つき。
「いたのか」
唇を動かし、彼女——または彼はそう|呟《つぶや》く。
ほとんど聞こえない。静寂に呑み込まれて消えてしまうのに、なぜかその声はよく響いた。低い声だった。バリトンボイス、というのだろうか。
「あなた、は?」
自分も唇を動かす。同じく、ほとんど聞こえない。
しかし通じたのか、彼女——彼は、にっと笑った。
すっと目の前に手が差し出された。手を取れ、ということか。
自分も手を伸ばし、彼の手を握った。
ぎゅっと引っ張られる。音もなく、彼は走り出す。自分も走り出した。
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体が浮く感じがした。
茜色の空は暗くなり、夜が来る。白黒の煙は力を増して、空一面を雲のように覆う。
白い煙は自分の体に|纏《まと》わりついて動きを縛る。
黒い煙は自分の視界を覆って、それを奪った。
ぐらり、と足がふらついた。そのまま崩れ落ちる。彼の姿が見えない。
手を伸ばせない。体が動かない。堕ちていく。———ああ、この感覚は。
カァン、と音がした。
それと同時に、目の前に黒くて金属質のものが投げられる。
「これは……?」
映画のなかでしか見たことがない。———銃だ。
銃口から硝煙が吐かれ、天に昇って消えていく。
「まだ動けるくせに、倒れようとするな。」
姿は見えない。声だけが頭の中によく響いた。
煙 |蔓延《はびこ》る天に銃口を向けて、引き金に自分の親指をかけて、引く。
何も音はしなかった。
腕に、肩に、体に強い衝撃を受けて、よろめく。
一瞬だけ、煙が霧散し、雲に穴が空き、夜空が見えた。チラチラと何かが光っている。
立ち上がろうとして、気づく。
———目が見える。体が動く。
「動けない者は、眠りにつく。」
彼の声が静かに聞こえる。空中に溶けていく。
「動ける者は———」
|刹那《せつな》、耳元で風圧を感じた。
「———銃を持つ。」