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夢と時間と
ねえ、先輩。私はやっぱり先輩のことが好きです。あ、いや。恋愛的にじゃなくて敬愛です。残念ですか?ふふ。冗談ですから怒らないでください。
先輩の掲げている夢が私はすごく好きでした。だから、教師を目指すって許せなかったんです。今のセリフ似てました?そんなこといいから早く進めろって?もう、夢を叶えるのが遅くなってもいいって言ってた割にはせっかちですね。じゃあ、話を進めましょうか。
私はずっと最短ルートで夢を叶えたほうがいいと思ってたんですけど、私の大好きな先輩は違いましたよね。あーなつかしいなぁ。
ねえ先輩。もうこれで最後なんです。
私達の物語に終止符を打ちましょう。
そして、第二章を始めましょう?まだ続きはあるんです。私達が生き続ける限り。
1,出会い
多分、私達の出会いは普通とは言い難い出会い方だっただろう。
「なんか、落ちてる…」
そう、落ちていたのだ。いや、正しく言うと倒れていた。
「ねえ、そこの君。助けてくれない?」
「あ、はい。」
とりあえず落ちている誰かさんに手を貸す。
「ありがとう、助かったよ。」
「はぁ。」
改めて見ると意外に顔立ちが整っている。
「なんでそんなところに倒れてるんですか?」
「あーいや、倒れている人を見た瞬間って人はどんな反応をするんだろうと思って。」
「何言ってるんですか?」
この人は大丈夫なんだろうか?いろいろな意味で。
「僕、これでもシナリオライターを目指してるの。で、今度シナリオの大会的な物があるのね。それで主人公が倒れてる人を見る場面があるんだけど、どんな反応するのかなぁって。」
「はあ。」
「だけど、途中で昼寝しちゃったらしくって。来てくれて助かったよ。」
「自分で立ち上がればいいじゃないですか。足あるんですし。」
「それがね、捻挫したこと忘れてて。うまく立てなかったの。」
私のこの人への第一印象は「変な人」だった。
「僕は3年の窪零斗。」
「あ、1年の坂木巴といいます。よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
窪零斗と名乗る先輩は今後の私を大きく左右する人物となった。
「ねえ、君。演劇って興味ある?」
2,台本
「演劇、ですか?」
「うん。興味あるなら僕のシナリオ作り手伝ってもらおうかと思って。」
「それって、私に旨味なくないですか?」
何事もズバッと言ってしまう私はこのときも例外ではなく。
「うーん、じゃあお菓子とかあげる。手伝ってくれるお駄賃として。」
「私は何処ぞの小学生ですか?その条件には惹かれますけど。」
「他にも1年生のうちから3年生の知り合いがいると大きい顔ができるし、今後生活しやすいよー。」
ほーれほれ、とでも言うように先輩が頑張って勧誘をしている。
「いいですよ。やります。」
「おお!」
「でも、お菓子は絶対ですからね。」
「わかってるよ。」
約束は守ってくれるらしい。
「キャラメルがいいです!」
「そこまで指定してくる?まあいいけど。」
帰りにスーパー寄らなきゃな、とぼやく先輩を見ながら私は考える。
「先輩、今思ったんですけど私。」
「ん?」
「文才ないです。」
シナリオ作りを手伝ってくれ、と言われても残念ながら私には文才というものがない。国語の評価もいつも2〜3だ。
すると先輩は大笑いし始めた。
「なにそれ!後先考えずに請け負ったってこと?」
「そうやって直球で言われるといくら私が悪くてもむかつきます。」
「いやいや、馬鹿にしてるんじゃなくて。」
これを馬鹿にしていないというのか?
「なんか、面白い子だなって思って。」
「やっぱ馬鹿にしてますよね?」
「というか、僕が君にお願いしたいのはライターじゃなくて、演者。僕の作った作品を実際に演じてほしいの。それを見て僕も表現の仕方とか考えたいから。」
「それならいいんですけど。」
「じゃあ、早速明日からお願いね。」
ん?
「明日から!?」
「うん。時間ないし。」
どうしよう、緊張してきた。明日までもう10時間ない。
「そう気構えなくていいよ。君が僕のシナリオを読んで思った感情を自分に合わせてくれればいいだけだから。」
「それが緊張するんです!」
「アハハッ、よろしくね。ちゃんとキャラメルは用意しとくから。」
そうして、私と先輩の舞台が幕を上げた。
先輩のシナリオは学園モノだった。自分を偽ることに長けている少女が何事にもまっすぐな先輩と出会い、本当の自分を見つけ始める物語。
「ねえ、ここはどんな感じに思う?やってみてくれない?」
「もっと感情込めてみて。」
「君は風花なんだよ?」
「セリフだけじゃなくて体も動かして!」
結論から言わせてもらおう。先輩は結構スパルタだった。
「はい、今日もお疲れ様。これ。」
そう言ってキャラメルを渡される。
「先輩、本当に私でいいんですか?」
「どういうこと?」
「いやだって私、明らかにうまく演じられてないじゃないですか。」
「十分うまいと思うけど。」
「少なくとも先輩にはたくさん駄目だしされてますけどね。」
やばい、嫌味のように聞こえてしまったかもしれない。
「それは君がもっと伸びそうだから。」
「どういうことですか?」
次は私が疑問を抱く番だった。
「君の演技、もっとうまくなるなって思ったから。」
「え?」
「どうせなら、もっと良くしたいじゃん。」
「私の演技が下手だからでは?」
演技が下手だから、駄目だしを食らっているんだと思っていた。
「違う、違う。君の演技は上手だよ。初めてだとは思えないくらいに。」
どうしよう、嬉しい。
「ありがとうございます。これからもがんばりますね!」
3,夢
先輩と初めてあったのは5月の初め。そしてシナリオ作りを初めてはや9ヶ月が経とうとしている。今は1月。まだまだ冬真っ只中である。そんな中、私は先輩に対して怒っていた。
「僕、教員を目指そうかなって思ってるんだよね。」
「教員?シナリオライターは?」
「もちろんなるよ。だけどそれだけじゃ食べていけないかも知んないし、シナリオライターになるなら色んな経験積んでおいたほうが」
「なんでですか?」
「へ?」
自分でも思っていないほど低い声が出た。
「時間には限りがあるんです!将来だってやりたいことが決まってるなら、それのためにまっすぐ進めばいいじゃないですか!」
私の言葉を聞いた先輩は困ったような顔をしていた。
「聞いて。シナリオライターって色々な境遇、立場の人について書くものだってことはわかってるでしょ。そのために経験や知識を手に入れて、もっといいものにしたいんだ。」
「もういいです、所詮そんなものだったんですね。」
4,開演
やらかしてしまった、あんな事言うつもりはなかったのに。
あれから、さらに2ヶ月経ち、その間、私と先輩は一度も会っていなかった。もちろんシナリオ作りもだ。
先輩の言うことは正しい。ただただ私が裏切られたように感じているだけだ。私は自分の夢にまっすぐに進んでいく先輩を尊敬していたから。
「卒業式で送辞を読みたいものはいるか?」
送辞、か。そういえば先輩と最後に演じたのもそのシーンだったな。
「今日の放課後まで受け付けるから、やりたいものは名乗り出てくれ。」
「はい!やります!やらせてください!」
「坂木か、わかった。後で来てくれ。」
私の勢いに先生は少し引き気味だったが、これでチャンスを掴むことはできた。
「原稿用紙5枚分書いて、書き終わったら見せてくれ。」
「はい。」
もう、書く内容は決まっている。
「明日にはお渡しします。」
私はいいと思ったのだが、先生は
「だめ、書き直して。」
といった。
「なんでですか?」
私が書いた内容は、先輩の考えを肯定している。
「迷わず真っ直ぐに進んでください、的なことを書いてくれ。」
それでは、意味がないじゃないか。でも、ここで口答えしても発表ができなくて終わりだ。
「わかりました。」
なら、演じてみよう。先輩の褒めてくれた武器を使って。
「おお!これならいい。」
そうして私の舞台が幕を開ける。
5,送辞
「それでは、在校生より送辞。1年5組坂木巴さん、よろしくお願いします。」
ここに、私の伝えたい思いは詰め込んだ。
「はい。」
後は、伝えるだけだ。
「送辞。1年5組坂木巴。まずは、皆さん、卒業おめでとうございます。今まで私達が先輩方のお世話になった回数は数え切れないほどです。これで卒業になってしまう。そう考えると、とても悲しく、同時にとても誇らしいです。そんな先輩に私は送りたい言葉があります。」
ここまではほぼほぼ台本どおりだ。
「寄り道上等、です。」
その瞬間、担任の顔が変わったのがわかった。だけど、流石に式典の間は我慢するのか、やきもきしている。
「私は2ヶ月前、とある先輩と喧嘩してしまいました。まだ仲直りできていません。その人は大切な人だったのに、です。喧嘩の理由は、意見の食い違いでした。私は、夢を叶えるなら最短ルートがいいと思っていました。今では、先輩の言うことは正しいと思っています。新しい考え方をくれました。考えを変えてくれたんです。」
大きく息を吸う。
「寄り道上等!だって、その先にもっといい未来が待ってるかもしれないじゃないですか!違う考え、違う生き方、考えていた将来では出会わなかった人。その先はもっと輝いているかもしてないから。」
届いて。
「もっと自分の可能性を広げてください!」
6,始まりの終わり
「お疲れ様。」
「先輩!卒業おめでとうございます。」
「君も送辞、頑張ってたじゃん。」
届いた、のかな?
「先輩!」
「どうした?」
「私、女優になります!先輩の舞台で一緒に輝けるような!」
すると先輩は不意をつかれた、とでも言うような顔をして言った。
「頑張ってね、ともちゃん。」
「ともちゃんってなんですか?」
「え?巴でしょ、名前。」
「急に呼ばれてもわかりませんよ!」
やっぱり、私達の関係は変わらない。
「私達は変わらないですね!」
「変わるよ。何いってんの。」
「え?」
今度は私が驚く番だった。
「もう僕はこの学校を卒業したでしょ?あ、でもだからといって僕たちのシナリオ作りが終わるわけじゃないからね。」
やっぱり、この人はすごい。
「これ、電話番号。じゃあね。」
「あ。」
もう行ってしまうのか。
「そうだ。届いたよ、風花。」
風花。それは私がこの一年ない間、演じた少女の名前だった。
「また会いましょうね、窪さん!」
久々に平和な話になりました!
続きあったら、読みますか?