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プレバトの俳句のやつ 上
毎週木曜日くらいにやってる番組「プレバト」にて。俳句で気に入ったやつだけまとめました。
・俳句
・自分なりの解説的な
この順番で。俳句の作者を載せると固定観念にとらわれそうなので伏せる感じでいきます。知りたければ自分で調べてどうぞ。
※夏井先生に添削済みの句などが多いです。
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**無事寄港願うかかあの三平汁**
北海道の郷土料理である三平汁を煮込んでいる|妻《かかあ》。
|夫《とと》は今、冬の海の漁に出かけている。港に帰るまで、きっと寒いだろう。危険だろう。
夫の無事を願いながらお玉でかき混ぜている。厳冬の海の様子と安全の願いが込められた渦が現れては消えていき、やがて温かい三平汁が作られる。
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**牛鍋の〆のうどんをさぐる箸**
具材たっぷりの牛鍋は食べられ、〆のうどんを煮込んでいる。
牛鍋の汁は濃く、潜っているように見つからない。箸の感触を頼りに、獲物を見つけようと躍起になる。
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**窓凍つや商談中の中華卓**
商談中のビジネスマンがいる。食事中だがどことなく緊迫感があり、交渉中といった雰囲気がある。中華テーブルは回すことで遠くの料理を取ることができる。
今は手に取れないが、商談のテーブルをうまく回すことで自分にチャンスが回ってくる。ルーレットのような不確定要素。
テーブルが不安定なのは、中華卓だけでなく窓を凍てつかせる冷たい外も関係しているのかもしれない。
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**かしましや干支の過ぎたる|祝箸《いわいばし》**
祝箸:おせち料理などを食べるときに使う特別な箸のこと。
毎年友人を招き入れて賑やかなお正月を過ごすのだが、人数が追い付かず、一部の席は去年の干支の祝箸が置かれていた
干支の入った祝箸は来年に持ち越すことができない。箸袋の模様しか違わないのにどこか申し訳なく置かれた箸。だが、参加者の賑やかな女性陣の会話と豪勢なおせち料理の前には最小限の誤差である。
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**「犯人は…」の静黙 客席のくつさめ**
「くつさめ」はくっさめと読み、大きなくしゃみの意。
サスペンスの舞台。客席に座って劇を見ていた。続きが気になるほどに身を乗り出すくらいに鑑賞していたが、「犯人は…」の小さな溜めの静けさに負けて、客席から「うえっくしょんっ」とすごいくしゃみが聞こえた。その途端、みんな劇の犯人のことなんて忘れて笑いをこらえてしまう。劇の余興感がにじみ出てしまった。
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**残業の|鍋焼《なべやき》M-1の|出囃子《でばやし》**
残業している人が、休憩中にM-1を見て、みんなで笑っている様子。夜中という陰湿な空気、残業というこれも陰険な時間。それらを吹き飛ばすお笑い番組の殿堂が、これから始まるのだというわくわく感もあるし、早く仕事を終わらせないとな、でも……とだらけてしまいそうになる空気を感じられる。鍋焼と出囃子の脚韻が音の調子として楽しくなり、それらもМ-1にかかっている。
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**爆笑や横隔膜に|去年《こぞ》の揺れ**
笑いながら年越しして、いったん笑いは収まったけれど、まだ身体の中は揺れているようである。揺れの原因は、もう年越しした去年の出来事である。そうだ。年を越したんだから今年の、いや去年のことの話でもして振り返ろうじゃないか。
ほんの数分前の時間が去年になる。時間の軸が新年という一瞬のタイミングでずれた。そのちょっとした衝撃が「横隔膜の揺れ」という部分に込められているのではないか。
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**初笑い追い出す寄席のはね太鼓**
新春の寄席小屋。
寄席が終わった直後らしい。お客さんが大笑いしながら出てくる。その中(寄席)からデンデケデンデンデン……と、はね太鼓の叩く音が聞こえてくる。
リズムよく響く、お客さんを外に追い出すかのような太鼓のうるささは、客のみならず、初笑いすらも小屋から追い出している。正月ならではの風景でとてもめでたい。
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**一月の笑いの外にひとりいた**
正月のおめでたい、華やげで明るい雰囲気のある親戚が集まっている。リビングから笑い声が聞こえているが、自分が一人だけ孤立して受験勉強している。
家族や友人の笑いの外に一人いた。それは孤独という意味ではなく、一人の時間を耐えることが必要である。このひたむきな姿勢を貫く姿を思わせる。
季語は「一月」で、二月・三月……という風に季語が動く可能性もあるが、その中で一月というのが最も季語の力が強く表れていて、説得力がありそうだ。
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**|鰤《ぶり》一本家族五人の目を集め**
立派な鰤を何本も釣り上げたという釣り師が、号外のような声を上げて立派な鰤をふるまっていた。
家族旅行をしに来た彼らは、その陽気な調子の釣り師につい立派な魚を受け取ってしまう。子供たちは目を輝かせるが、親はというと、どうやって調理すればいいのやら、と考えが入れ食いに。
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**|悴《かじか》むや|皺《しわ》の号外握りしめ**
冬が流れ込んで空気が冷えている駅前。
号外を配っている人の周りに山のような人だかりができている。やっとの思いで取れた号外はシワだらけで、大きく映し出されるのは高校野球、優勝の瞬間が軋んだ。手を伸ばしてもなかなか取れない号外を見て彼らの努力の一端を掴むような気分になる。
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**|極月《ごくげつ》の号外無傷のチャンピオン**
極月=12月。
2022年最後を飾る大一番。ボクシング世界チャンピオンに関する内容だろう。大晦日の試合。KOか、連勝記録更新か、日本人初の……など号外の内容に想像が膨らむ。無傷と言っているのだから、それはそれは素晴らしい号外なのだろう。そういった句。
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**子の指や冬のコントラバスぼぼん**
親が音楽家で、部屋にコントラバスが置かれている。
冬で楽器はよく冷えており、その弦に、まだ乳幼児の好奇心旺盛な手が伸びる。ぴんと張った弦は強く弾かれ「ぼぼん」と音が鳴った。力強く、しかし低く溶けて広がっていくように、ひんやりした冬の空気に伝わって消えていった。
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**レノン|忌《き》やまだ利き手なき小さき手**
ジョン・レノンの命日「12/8」は、|奇《く》しくも太平洋戦争が始まった日でもある。
その日から何十年も経っているが、仮に将来そのようなことがあれば、未来の行く末を決定づけるのはこの小さな手であろう。
右利きか左利きか、まだ利き手の決まっていないこの手にかかっている。子供の利き手は、生まれてすぐではなく、物をつかんだり舐めたりしながら自然と決まっていく。果たして一番最初に何を掴むのか、そしてどちらの手なのか、どの程度時間が経てば分かるだろうか……というメッセージ性がある句。
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**|顔見世《かおみせ》や|贔屓《ひいき》待つ間の幕の内**
冬に行われる歌舞伎の顔見世興行。
いろんな役者さんが歌舞伎の白塗りの衣装をして観客の前に躍り出るが、贔屓役者(大物)を待つ間に、腹ごしらえしておこう。きっとこの弁当を食べ終わるころには……というワクワク感を抑えつつ食べている観客側の視点。
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**|白息《しらいき》や弁当運ぶ吊足場**
吊足場=高所作業するための足場。
弁当配達のバイトをする人が、マンション建設中の所へ大量の弁当を運ぶ。地上と、高所足場の往復で白い息が上がるが、吊足場の狭く不安定な隙間から緊張感のある高所の景色が覗けた。温かい弁当を運ぶ一方、身体は冬風も手伝って背筋が寒くなる思いをする。
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**セット裏鯛焼を|選《よ》るホシとデカ**
セット裏で|犯人役《ホシ》と|刑事役《デカ》が差し入れのたい焼きを選んでいる。「鯛焼を選る」とあるので、金時、粒あん、カスタードなど種類豊富なたい焼きがあるのだろう。ドラマの衣装のまま、友好的に食した後は、セットの表裏がどんでん返しの役割を担い、ドラマ内で敵対関係に戻るのだ。
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**万国旗小春の影を落としけり**
平和の象徴のような万国旗が並んで春の風になびいていて、だがその地に影を落としている。その影を見ると世界情勢の様々な出来事が心をよぎった。万国旗の地面の影はずっと前からあったのに、今ハッと気づいた。そういう感動を『けり』に込めた。
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**冬虹に溶けて万国旗の残像**
冬虹=今にも消えそうな冬雨の後に出る虹。
ひと筋の冬虹が、運動会の空に飾られる使い古しの万国旗のようにぼんやりとした色だった。時間とともに色あせた旗は、その色は空へと吸い取られ、それが冬虹として現れたのではないか。
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**万国旗抱くか白鳥の|羽撃《はたたき》**
白鳥の大きな翼が今にも飛び立つために開こうとする美しさ。その翼の中には、奇術師の握りこぶしから万国旗がするすると出てくるような、華やかな色を隠し持っているように思える。実際そんな色彩は見えないが、それくらいの美しさを秘め解き放っているのだ。
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**朝を待つ電話よロンドンは夜長**
電話主である自分はロンドンに滞在中だ。そのロンドンは夜長(=深夜)である。
電話の相手は時差があり、もうすぐ朝のはずだ。こちらはそろそろ深夜となるが眠ることはない。相手はもうすぐ起きるはず、その時に電話をかけるのだから。そうした何もしない贅沢な時間の過ごし方を詠んだ句。
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**夜食食うもうない王朝を覚え**
受験生の夜食。
自室で夜遅くまで勉強している。勉強机の明かりのみが灯され、それ以外は真っ暗。
「もうない」が一瞬食べ物のことだと読み手にミスリードさせるが、読み進めると「もうない王朝」となるため、勉強している内容が見えてくるという仕掛け。
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**荒星に冷えゆく眼鏡の死体役**
ミステリドラマの撮影中。
路上で寝そべると、スタッフが気ぜわしく撮影で動いているのに、自分は死体役なので動かなくていい。星空の美しさ、風の音、地面の冷たさを感じて、時がゆっくりと動いて別世界の人のようだ。
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**初冬のラグかの愛犬の|尨毛《むくげ》あり**
尨毛=動物の長くふさふさした毛のこと。
冬になってラグ(薄い絨毯)をだして、掃除をしていたら、今年まで買っていた愛犬の長い毛がコロコロの紙についていた。記憶上ではもう忘れかけていたというのに、在りし日の愛犬はまだこの中にいたのだと感傷的になる。
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**着膨れた背中猫の毛あちこちに**
歩いていると前の人の背中に猫の毛が。
背中にまで及んでいるということは、きっと出かける前、背中に猫を乗っけてごろごろしていたのだろうか。そんな背中越しに人の生活を想像して微笑ましく思ったという句。
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**コロコロのミシン目ずれている四温**
四温=三寒四温のこと。
使用済みのコロコロの紙を切り替えようとするが、ミシン目通りに切れず新しい部分と汚れているところのギザギザになってしまった。そこに、季節の変わりゆく三寒四温のアンバランスさを思わせた。
コロコロの「物」だけを描写し、「ずれている紙」の映像のみを切り取ったお手本。
解釈は作者の思いと感じた僕の感想の合成物。時折更新すると思われ。